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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
ネパールにも平原があるんだよ編
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ドライブ再開

 再びカルパナが運転席に座って、ジプシーが出発した。手を振るシャム達に応えたゴパルが腹をさする。

「調子に乗って、少々食べ過ぎました」

 クスクス笑うカルパナである。

「だろうなあ、と思っていました」


 自動運転で暇になったせいもあって、そのまま居眠りをしてしまう二人である。二時間ほど経って目を覚ましたカルパナが、運転席で頭を抱えた。

「やっちゃった……」

 物音でゴパルも目を覚まし、カルパナと同じような反応をする。

「うわー……眠ってしまった。今はどの辺りを走ってるんだ?」

 慌てて二人がスマホを取り出して位置情報を確認する。再び頭を抱えるカルパナ。

「うわわ。タンセンを過ぎてるー」

 旅程ではタンセンに立ち寄るルートではないのだが、そのふもとでチヤ休憩をするつもりだったようだ。

 タンセンはポカラとブトワルの間にある、ゆるやかな山地の尾根にできた古い町である。西部ネパールには、このような町が山の中に点在している。


 とりあえず最寄りの食堂で停車して、チヤ休憩とトイレ休憩をとる事にした。テライ地域に近づいているせいか、気温が高く感じられる。

 今は西暦太陽暦の八月第一週の雨期なので酷暑ではないのだが、ポカラに住んでいる人にとっては暑く感じる気温だ。

 ちなみに雨期前の四月五月にテライ地域に入るのは避けた方が良いだろう。日中は当然だが、夜間もそれほど気温が下がらないので熱中症にかかりやすい。


 ゴパルがチヤをすすりながら弁解気味につぶやいた。

「自動運転の欠点は眠くなる事ですね。眠りから覚めたら事故を起こしていた……になりかねません」

 素直に同意するカルパナだ。

「そうですね。運転手が眠ったら、道端に停まるような安全策を講じた方が良いと思います」


 走行を再開して、カルパナが眠気防止も兼ねて雑談を始めた。今はゴパルが運転席に座っている。座っているだけだが。

 道を水牛の群れが塞いでいるのが見えてきた。とりあえずハンドルをいつでも握る事ができるように準備する。

(ぶつかりませんように……)

 車は既に水牛の群れを感知していたようで、減速してヘッドライトを使ったパッシングを始めている。まぶしくなったのか、道の中央で座っていた水牛が起き上がり、気だるそうにノソノソと道端へ動いていく。道の中央が空いて、無事に通り抜ける事ができた。

 ほっとするゴパルだ。

「刺激すると逆上して突進してくる水牛もいるんですが、ここでは皆、大人しくて良い子でした」

 カルパナもほっとした表情になっている。

「テライ地域に多い種類の水牛でしたね。アバヤ先生の話ですが、水牛の角に腹を突かれてケガをする人が結構いるそうなんですよ。ゴパル先生の言う通り、刺激するのは避けた方が良いでしょうね」


 ゴパルが改めて窓の外を眺めた。まだ険しい山中なのだが、亜熱帯性の樹種へ変わってきている。

 道端の民家も構造が変わり、天井が高くなっている。マガール族の家は石造りで屋根が石板ふきだったのだが、ここでは土壁で屋根がカヤぶきになっている。ヘビ除けのまじないが家の入口に描かれているのも見えた。

 ゴパルが背筋を伸ばした。ついでに肩と首を回す。

「あー……コブラの生息地に入ったかも。夜中は注意しましょう」

 コブラはネズミ等が好物なので、家の中にも入ってくる。ただ、大きなヘビなので見つけやすい。


 この他には今回ブトワルで植えるサトウキビも話題になった。カルパナが外の景色を見てからゴパルに聞く。

「テライ地域では毎年熱波が襲っています。作物への被害が出ているんですが、サトウキビもですよね」

 ゴパルが素直にうなずいた。

「育種学の事は詳しく知らないのですが、遺伝子を操作して品種を改良しています。今回植えるサトウキビの品種もそれですね」

 正確には遺伝子と入れ物、飾りを含むゲノムを編集している。気温が高くなると、スイッチが入って機能する遺伝子を組み込んでいる事が多い。主に高温への耐性を高める遺伝子群だ。

 他には、風味や高いビタミン含有といったような付加価値を高める遺伝子群を導入したりもしている。

 ゴパルが軽く肩をすくめた。

「ですが、熱波が来ないに越したことはないですね。どうしても悪影響が出ます」

 カルパナが同意する。

「やはりそうなんですね。天気予報に従って対策を早めに講じるようにします」


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