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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
ラブコメだとこういうのは必要だよね編
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結婚式を終えて その二

 バドラカーリー寺院での結婚式は、そのまま食事会の場に変わった。そのため、途中で抜け出してルネサンスホテルへ向かう事にするゴパルとカルパナである。

 カルパナが花嫁衣裳のままでジプシーを運転する事になった。今は二人とも、赤い糸でつなぎ合わせたスカーフや花輪はつけていない。

 サビーナ達が食事会を一時中断して見送ってくれた。ゴパルとカルパナの両親がニコニコしながら声をかけている。ケダルは助手席のゴパルをからかっているが。

 談笑の後で、カルパナが車のモーターを起動させた。

「皆さん、今日は私達を祝福してくださって、どうもありがとうございました。朝にパメの家へ戻りますね」

 そのままゆっくりと車を走らせていく。ネパールには見送りの習慣がそれほど強くないので、皆すぐに食事会へ戻っていった。


 その様子をバックミラーでチラリと見たカルパナが、助手席のゴパルに謝る。

「すいません、ゴパル先生。パメの家は巡礼客が泊まっていますので、騒々しくなるのは避けたいんです」

 気楽に答えるゴパルだ。

「ラメシュ君達はレイクサイドの民宿に泊まるそうですので、問題ありませんよ。そういえば、あの角部屋に泊まるのは初めてでしたっけ?」

 カルパナが運転しながら肯定的に首を振った。今はチプレドゥンガの繁華街を通り抜けている。夕暮れ時なので、買い物客で混雑していた。

「そうですね。朝の湖が綺麗だと評判ですよ」


 ルネサンスホテルへ到着すると、まず先にゴパルが車から降りた。そのまま受付けカウンターへ行き、部屋の鍵を受け取る。顔馴染みの男スタッフの他にビシュヌ番頭とスバシュ、それにケシャブの三人が待っていてくれた。

 彼らに合掌して挨拶を交わすゴパルだ。

「いつも、お世話になりっぱなしですね。今後もよろしくお願いします」

 ビシュヌ番頭達はチヤをすすって待っていたので、ゴパルも男スタッフからチヤを受け取った。

 スバシュが笑顔で答える。

「こちらこそよろしく。ゴパル先生。キノコ栽培も軌道に乗って順調ですしね。新たな品種も試してみたいところですよ」

 ケシャブも朴訥ぼくとつながらも日に焼けた良い笑顔を浮かべている。

「ナウダンダの西洋野菜も規模が大きくなってきましたしね。小麦の品種もこれから増えていくそうですし、ゴパル先生の助力は欠かせませんよ」

 当のゴパルは頭をかいて両目を閉じている。

「……キノコはラメシュ君が詳しいですし、農作物についてはカルパナさんに頼りっぱなしですよ。私は大した事はしていません。道端の草とかキノコを集めてる程度です」

 ビシュヌ番頭が穏やかに笑いながら、ゴパルの肩を叩いた。

「まあ、その通りですが、皆さんゴパル先生には感謝しているんですよ」


 そう言ってから、ゴパルを引き寄せて小さなリュックサックを手渡した。

「新婚初夜は何かと大変ですが、頑張ってくださいね。酒とツマミも入れておきましたよ」

 頭をかいて感謝するゴパルだ。

「お気遣いありがとうございます。実はもうかなり緊張しているんですよ。既婚者の助言を聞きたいのですが、構いませんか?」

 ニッカリと笑うビシュヌ番頭とスバシュ、ケシャブだ。

「いいですよ。何から話しましょうか」


 カルパナが車を駐車場へ停めて、着替えを詰めたリュックサックを肩にかけてロビーへ入ってきた。ビシュヌ番頭達の姿を見て、笑顔で合掌する。

 赤い花嫁衣裳の姿なので、ロビー内に居る外国人観光客や地元客からの視線を集めてしまっているようだ。小走りで駆けてきた。

「あらら。ここへ来ていたんですね。パメの家では見かけなかったので心配していたんですよ」

 ビシュヌ番頭達がゴパルから離れて、満面の笑みになって答えた。

「ご結婚おめでとうございます、カルパナ様。私達は朝までロビーで待機しています。何かありましたら、遠慮なく申し述べてください」

 困った表情になるカルパナだ。

「もう。そういうのは不要ですよ。ルネサンスホテルには信頼できる警備員が居ますし、ホテルスタッフも優秀です。ビシュヌ番頭さん達は、もう帰りなさい」

 そうまで言われてしまうと、引き下がるしかない。ビシュヌ番頭がかしこまって答えた。

「分かりました。では、私達はパメの家に先に戻りますね」

 ほっとした表情になっているカルパナだ。ビシュヌ番頭達がゴパルの肩をポンポン叩いてロビーから出ていく。

「ゴパル先生、カルパナ様の事をよろしくお願いします」

 背筋を伸ばして了解するゴパルだ。

「はい」


 二階のいつもの角部屋に入ったカルパナが、窓の外の景色を見て感嘆の声をあげた。

「わあ……夕焼けが綺麗ですよ」

 ゴパルがほっとした表情になる。

「どうも私って雨に縁があるみたいなのですが、今日は晴れてくれて本当に良かったです。ABCの仏塔でアンナプルナ女神様に供物を捧げたおかげでしょうか」

 クスクス笑うカルパナだ。頭に被っていた赤いベールを下ろして、ゴパルの肩に寄り添った。

「そうかも知れませんね。アンナプルナ主峰もここからよく見えていますし」

 アンナプルナ主峰はポカラからだと東向き斜面しか見えないため、夕焼けとは縁がない。ゴパルがカルパナの肩を抱き寄せた。

「好きです、カルパナさん」

 カルパナが肯定的に首を振って微笑んだ。

「私も好きですよ、ゴパル先生」


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