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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
ラブコメだとこういうのは必要だよね編
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結婚式の寺院で その二

 教授達から離れると、協会長が穏やかに微笑みながら声をかけてきた。彼はいつも通りの黒いスーツ姿である。ディーパク助手とレカにも合掌して挨拶してから、ゴパルを祝福した。

「ご結婚おめでとうございます、ゴパル先生。カルパナさんをよくぞ説き伏せましたね。レカさんも結婚しましたし、サビーナさんは婚約しました。彼女達を子供の頃から見ていた私も安堵しました」

 そう言ってから、ゴパルの肩をポンポン叩く。

「カルパナさんは、ああ見えてかなりやんちゃな性格ですから、振り回されないように気をつけてくださいね」

 ゴパルが素直に同意した。

「KL事業がよい例ですね。当初は低温蔵のオマケ程度の位置づけだったのですが、カルパナさんの熱意に押されてここまできてしまいました。凄い人です」


 そう言ってから、ゴパルが協会長の周囲をキョロキョロ見回した。

「ヤマさんは来ていないんですね。養豚団地や養鶏企業の社長さんもかな」

 穏やかな笑いを浮かべる協会長だ。

「ヤマさんは今頃ジョムソンで奥さんと一緒に、会社設立の準備に追われていると思いますよ。奥さん名義の会社にするそうです。ヤマさんは別の国での水道事業に携わると聞いています。今度はアフリカのモザンビークだそうですよ」

 ゴパルが目を点にした。

「え? そんな事になっていたんですか」


 養豚団地のギャクサン社長と養鶏企業のバルシヤ社長は、後で顔を出しに来るらしい。KLを使って悪臭問題が緩和されたので、事業の拡大に専念していると話す協会長だ。

「ポカラとジョムソンのホテル協会からすると、どちらもまだ生産量が少ないのですよ。需要に応えきれていません。リテパニ酪農も同様ですね。もっと頑張ってもらわないと困ります」

 内心で一歩引くゴパルだ。

(さすが交易民だなあ……人使いが上手いというか何というか)


 レカが協会長の話を聞いて、そろりそろりと逃げ出そうとしている。その仕草を察して、協会長がゴパルに改めて結婚の祝福をして去っていった。次はゴパル父や兄のケダルと商談するつもりのようだ。

 レカがほっとした表情になって、ディーパク助手の背中に再び貼りついた。

「やべーやべー。ラビン協会長ってすっごく苦手なんだよー」

 そうだろうねえ……と無言でうなずくゴパルとディーパク助手である。


 今度はグルン族の民宿オヤジ達や、シャウリバザール茶店のオヤジ、ヒンクの洞窟茶店のオヤジがゴパルに絡んできた。ABCにある民宿ナングロのアルビンがゴパルにとりあえず合掌して挨拶し、適当に祝辞を述べる。

「ゴパルの旦那、年貢の納め時ですね。バフン階級の結婚式なので酒が出ないのが泣き所ですよ、ははは」

 続いてセヌワのニッキと、ジヌーのアルジュンも絡んできた。

「低温蔵の酒、楽しみにしてるぜ、ゴパル先生」

「ツマミのチーズもよろしくな、ゴパル先生」

 さらに小型四駆便のディワシュと、強力隊長のサンディプまで絡んでくる。

「カビが生えたソーセージと、クソ固い発酵肉が好評だぜ、ゴパルの旦那」

「意外と日持ちがするんだナ、アレ。山奥の集落でも好評だぞ、ゴパルの旦那」

 そう言ってから、チャイチャイ騒ぎ始めるオッサンどもである。質問と要望攻めにあって、目を白黒しているゴパルとディーパク助手だ。だいたいが酒がらみなので、周辺のバッタライ家側の参加者達が苦笑している。


 レカがスマホ盾とディーパク盾を装備してアルジュンに聞いた。

「あれ? カルナちゃんは来てないの?」

 アルジュンがニッカリと笑った。

「花嫁衣裳に興味があるんだとさ。今頃はチャイ、カルパナさんの着替えを手伝ってるんじゃないかナ」

 レカが思い出し笑いを浮かべた。

「あー……私の結婚式の時も着替えを手伝うーって、やって来たっけ。ネワール式やバフン式の結婚衣装はグルン族と違うんだけどなー。カルナちゃんの結婚式の参考にはならないと思うー」

 アルジュンが素直にうなずいた。

「だな。レカちゃんとディーパク先生の結婚式で参考になりそうだったのはチャイ、良い酒を惜しまずに出すって事だナ。ありゃあ美味い酒だったぜ」

 ドヤ顔でニンマリするレカだ。

「とーぜんだー。サンスクリットの世から酒造りしてるネワール族だぞー。仏陀も飲んでた酒だー」

 いや、これには諸説ある。ただ、ネワール仏教ではサンスクリット語の経典を使うので、世界最古の仏教一派ではある。スリランカやタイ、日本では使われていない経典だ。


 騒ぎにつられてきたのか、日焼けした精悍なオッサンがニコニコしながらゴパルに合掌して挨拶してきた。彼もゴパルと同じようなネパールの正装だ。ゴパルには見覚えがないため、何となく嫌な予感が脳裏をよぎる。

「初めまして、ですかね。ベグナス湖で魚の養殖をしているナラヤン・ポデと申します。レカさんとディーパク先生の指導で、KLと光合成細菌、それに納豆菌を養殖に使っています。病気が減って臭いも良くなってきていますよ」

 予想が的中したのだが、あくまでも穏やかに応対するゴパルだ。ナラヤンに合掌して挨拶を返した。

「そうでしたか。上手くいっているようで良かったですね。私は魚の養殖に詳しくないので、あまり的確な助言はできそうにないのですが、なんなりと聞いてください」

 レカがニマニマ笑いを浮かべてゴパルを肘で小突いた。

「確かに聞いたぞー。しっかり聞いたからなー。覚悟しとけよー。動画も隠し撮ったからなー、証拠としてホテル協会の裏サイトに載せてやるー」

 アルジュンもニヤニヤしながらゴパルを肘で小突く。

「ニジマスもよろしくー。ガンドルンのハルカが期待してますぜ」

 冷や汗をかきながら口元を強張らせるゴパルである。

「ガ、ガンバリマス……」


 そんな雑談を交わしているとアバヤ医師が何か食べながらやって来た。手には小皿を持っていて、野菜の香辛料炒めや煮込みが盛ってある。

「そろそろ挙式を始めようとは思わないのかね、ゴパル君。ワシはもう小腹がすいてしまったぞ」

 レカがすぐに同調した。ディーパク助手の背中に貼りつきながらゴパルを指差す。

「そーだそーだ。さっさと始めろー。腹減ったー」

 寺院の前庭では、サビーナとカルパナの弟ナビンの嫁ブミカが使用人達を指揮して料理を配置し始めている。結婚式では通常はビュッフェ形式をとらないのだが、サビーナとブミカの負担が大きくなるという事でこうなったらしい。

 そのサビーナとブミカが、ゴパルに肯定的な首振りをした。準備がほぼ整ったようだ。

 前庭で祭壇を設けていたナビンラズと隠者も肯定的に首を振って、カルパナの父に合図を送った。鷹揚にうなずいた彼がアナウンスする。

「では、はじめよう」


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