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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
寒くなるとチヤ休憩が増えるよね編
1093/1133

電話

 今は上空に複数の準天頂衛星が飛んでいるので、仏塔のような場所でも電話ができるようになっていた。衛星通信になるため、専用のアプリが必要になるが。

 その仏塔のそばで肩を寄せ合って、干しブドウワインを飲んでいたゴパルとカルパナだったのだが……一本の電話がジェシカからかかってきた。

 内容は、西暦太陽暦の新年一月十五日に中国で開く予定だった有機農業団体の国際大会が、急きょ中止になった……というものだった。

 そこまでは普通にジェシカに同情していたカルパナとゴパルだったのだが、とりあえずゴパルがクシュ教授にチャットで内容を伝えたのが悪手だった。

 すぐにクシュ教授から電話がゴパルにかかってきて、だったらネパールで開催すれば良いじゃないかという事になった。それをカルパナから聞いたジェシカが狂喜して……


 冷や汗を滝のようにかいて、顔面蒼白になっているラメシュの肩を再び叩くゴパルだ。

「そんな訳で、私達が国際大会の開催手続きをする羽目になったんだ。申し訳ないけど、明日、カルパナさんと一緒にポカラへ下りるよ」

 カルパナも足元がまだフラフラしている。

「その大会では、実際に有機農業を実践している農家を巡るツアーも行う事になりました。有機認証は得ていませんけどね。そのツアー手配も行います。現状ですと、KLを使っている農家さんになりますね」


 カルナが大きなため息をついて、カルパナの肩を支えた。

「せっかく恋人になったから、お祝いしようと思ってたのに。で、参加者数は何人くらいなんですか?」

 カルパナが青い顔で答えた。

「キャンセルが出ると思うけど、招待枠だけで五十ヶ国から百人くらいかな……他に一般参加の人も加わるから、三百人くらいかも」

 カルナも顔色が青ざめてきた。

「えええ……ビザどうするんですか」


 ゴパルが力なくうなずいた。

「ですよね……ネパール側の役場は休みじゃないのが幸いですけど、他の国は年末年始の休みなんですよ」

 この時代のネパール政府は、ネパール暦に従って仕事をしている。そのため、西暦太陽暦の年末年始でも通常営業だ。ゴパルがようやく挙動不審な状態から脱してきた。

「招待枠の参加者には公式の招待状を送って、彼らに自力で専用のビザを取ってもらう事になりますよね。一般参加者は観光ビザで入国できるでしょう。まずは、その公式文書の作成から始めないといけないかな」

 ラメシュががっくりと肩を落としながら、力なくうなずいた。

「そうなりますね。ジェシカさんには自宅にずっと居るように厳命してくださいね。大量の公式書類にサインしてもらわないといけません」

 アルビンが同情しながらも、大いに呆れた表情でカロチヤを出してきた。

「酷い話ですね。ですが、今は観光客が少ない閑散期です。ポカラの協会長や、ガンドルンの事務所長も喜ぶと思いますよ。とりあえず今晩は、パーティを楽しんでくださいな」

 どんよりとした表情で作り笑顔を浮かべるゴパル達であった。

「わーい、たのしいなー」


 結局、その有機農業団体の国際大会は、予定よりも早く新年十三日に開催された。

 農場見学ツアーはパメやナウダンダの農家、チャパコットの花卉ハウス、生ゴミボカシ肥料の工場、リテパニ酪農の四ヶ所から選ぶというものになった。

 ほくほく顔の協会長とサビーナである。国際大会が無事に終わり、参加者が帰路についていくのを見送りながら、スマホを手に満面の笑みを浮かべている。

 ジェシカも満面の笑みで、がっしりと協会長に握手して、サビーナと抱擁を交わした。

「本当に助かりました。ありがとうございます」

 気楽な表情で微笑む協会長である。

「閑散期の良い収入になりました。三百人が三日間滞在してくれましたからね。話題性も十分にありましたから、ポカラの宣伝にもなりましたよ。では、良い帰路の旅路を」

 大喜びしながらカルパナとゴパルにも抱きついて礼を述べたジェシカが、タクシーに乗って去っていった。


 それを見送った協会長が、首と肩を回す。

「……ふう。良いイベントでした。クシュ先生に感謝しないといけませんね」

 協会長に同意するサビーナだ。ちなみにクシュ教授はこの国際大会に参加しておらず、またもやバングラデシュに出張している。

「三食全てと、会議中のコーヒー休憩を任されたから、食材の一掃処分ができて良かったわ。ピザ屋やレイクサイドのレストランにも客が入って盛況だったし、クシュ先生にお礼を言いたいくらいね」

 日本人客もそれなりに居たので、首都から石を呼んで対応してもらっていた。ヤマも容赦なく使い倒している様子だ。


 そして、人が少なくなったロビーで、ぐったりとテーブルに突っ伏しているカルパナとゴパルに視線を向けた。なぜかレカとディーパク助手、ラメシュとカルナも近くで同じように突っ伏している。少し離れた場所では石とヤマがソファーで寝ていた。

 協会長と一緒にクスクス笑うサビーナである。

「お疲れさま。今日はゆっくり休みなさい。でも明日から通常業務だからね」



長い話でしたが、ここまで読んでくださりありがとうございました。この後は、エピローグを兼ねて短編の話をいくつか紹介しようと思います。

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