石焼き芋とサトイモまんじゅう
ゴパルが火消し作業を終えてロビーへ戻ると、パーティは既にデザートの段階になっていた。
石が和食用のコックコートを着て、石焼き芋を焼き、サトイモまんじゅうを蒸している。他にはツクチェ産の完熟中玉リンゴがあった。どれも人気で客が群がっている。
ゴパルもその群衆に交じって、石焼き芋とサトイモまんじゅうを手に取った。飲み物は緑茶があったので、それにする。
(神戸牛には縁が無いなあ……石焼き芋はサツマイモか。なかなか食べる機会がない芋だね)
ネパール人はジャガイモ派ばかりである。続いてサトイモと山芋派だろうか。サツマイモの栽培もできるのだが、まだ認知度が低い。
その石焼き芋は、一本丸ごとではなくて輪切りにされていたのだが気に入った様子のゴパルだ。垂れ目をキラキラさせている。
(うお。お菓子並みに甘いぞ。食感もしっとりしてる。ああでも、やっぱり繊維はあるのか)
ゴパルとしては比較対象は山芋になるようだ。この時期から市場に出荷されてくる。
緑茶を飲んでみて目を点にする。
(やっぱり砂糖なしなんだね。甘みはデザートから摂るという感じなのかな)
日本人以外の客は、堂々と緑茶に砂糖シロップを注いでいる者が多く居る。特にネパール人はほぼ全員がシロップを加えているようで、中にはミルクや練乳を足している人も居た。
石焼き芋をパクパク食べ終えてから、次にサトイモまんじゅうを口に入れてみる。感心した表情になるゴパルだ。
(へえ……餡子を包んでいるのか。甘い小豆っていうのが新鮮だなあ)
ネパール菓子では小豆餡を普通使わない。餡として使うのは糖蜜や激甘パニールだろうか。パニールはインド圏を代表する生チーズである。糖蜜もサトウキビ由来とヤシ由来がある。癖が弱いのはヤシ由来の糖蜜だが、ネパールの気候では最低気温が低いので栽培が難しくマイナーな存在だ。
せっかくなので、簡単に作り方を紹介しておこう。
まず石焼き芋だが、サツマイモをよく洗って土汚れを落としておく。この際に水気を拭きとらない事。深さ五センチ以上あるフライパンか中華鍋を用意して、洗った砂利を三センチほどの厚さで敷き詰める。
フライパンか中華鍋をコンロの上に乗せてトロ火にし、サツマイモを砂利の上に乗せる。フタを被せる必要はなく、そのまま三十分間ほどトロ火で焼いていく。
途中一回だけサツマイモを上下ひっくり返して、火の通りを均一にすれば完成だ。
サトイモまんじゅうは次のように作っていた。
そのまま蒸したり煮たりすると食感が若干固いような小芋を使う。サトイモをよく水洗いしてから、熱湯の中をくぐらせて皮をむく。
それをよく潰してから、つなぎ用に汎用小麦粉を足して混ぜて生地にする。この際に混ぜすぎると過剰にネバネバ状態になるので注意。
小豆餡を作り、これを生地で包んでまんじゅう型にしていく。最初に蒸し器に入れて火にかけ、生地の色が透明っぽくなったら取り出す。
仕上げにフライパンに移して火にかけ、軽く焦げ目がつくまで焼けば完成だ。小豆の他にはインゲン豆等でも餡を作る事ができるので、色々と試してみると良いだろう。
しかし、ゴパルが最終的に気に入ったのは完熟の中玉リンゴだった。試食の際には少ししか味わえなかったので、垂れ目を細めて嬉しそうに首を振っている。
(こんなリンゴを食べてしまうと、もうインド産のボケたリンゴは食べられなくなりそうだなあ)




