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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
寒くなるとチヤ休憩が増えるよね編
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騒動の顛末

 そんな訳で、今回のポカラへの下山は中止になった。

 カルパナとサビーナがチャーターヘリを手配して、ポカラ国際空港からマナン空港へ飛んでいったと、なぜかアルビン経由で聞くゴパルとラメシュである。

 アルビンがゴパルとラメシュにカロチヤの小ジョッキを手渡しながら、困ったような笑顔を浮かべた。

「あの行き遅れ娘どもは、突発的にこんな事をするんですよね。ゴパルの旦那、下山が中止になって残念でしたね。晩飯はシコクビエのディーロにしましょうか」

 アルビンの毛糸の帽子が完全に冬仕様に変わったのを見ながら、カロチヤをすするゴパル。隣のラメシュはまだトリュフ探しに行きたいと、未練がましくグチグチ言っている。

(今日のラメシュ君は、あまり使い物にならないかも知れないなあ……)

 ゴパルが小さくため息をつく。

「わーい、ディーロだ。うれしいなー」


挿絵(By みてみん)


 さて、チャーメでのトリュフ探しの結果だが、やはり見つからなかったようだ。

 その日の夕方にチャーターヘリでポカラに戻ってきたカルパナとサビーナから、チャットで簡単な報告を受けるゴパルとラメシュである。

 ラメシュがガクリと肩を落として背を丸めていく。

「やはり、私が行くべきでした。チャーメの森に最低でも一ヶ月間くらいはキャンプ生活して、本気で探さないと見つかりませんよ」

 ゴパルが苦笑する。

「いや、だからね。今の時期に一か月間も低温蔵を留守にされると、すごく困るんだよ」

(ラメシュ君もキノコ好きだからなあ……本気でやりかねない)


 チャーメでは、ソナムが森の中を案内してくれたそうだ。

 現地の写真も何枚か送られてきていて、それを見ると既に雪景色になり始めていた。標高の高い場所では雪化粧で白くなっていて、針葉樹林の黒緑色と、潅木の赤褐色との対比が美しい。

 今回はトリュフ探しに集中していたらしく、現地のリンゴ農家やジャガイモ農家への訪問や技術指導はしていないと、ソナムがチャットに不満を書き連ねていた。

 素直に同意するゴパルだ。

(その通りですよね、ソナムさん)

 結局、今回もカルパナとサビーナが彼女達の両親や親戚から怒られてしまったようで、反省文がチャットで送られてきた。

 まあ、いきなりヘリをチャーターしてしまい、種苗店やレストランの仕事を投げ出しているので当然の処置だろう。

 ため息をつくゴパルだ。

「キノコって怖いよね」

 ちなみにナウダンダの桃園では、枝の剪定作業をするはずだったのだが、この騒動で延期になってしまった。スバシュによると、隠者が怒っているようだ。


 と、今度は首都のクシュ教授からチャットが届いた。彼の耳にもトリュフ探し騒動が届いたらしい。その文面を読んで、ジト目になるゴパルである。

「うわ……やはり策動してたのか、クシュ教授」

 ブータンで仕事をしているモリと組んで、日本で研究中のトリュフ菌床をネパールへ持ち込もうと動いている……と、嬉しそうに書かれている。

 ラメシュもそれを読んで、メガネをキラリと光らせた。

「白トリュフの菌床を二種類……ですか。成功すると、とんでもない事になりますね」


 トリュフにも様々な種類がある。白トリュフと呼ばれるものが最も高価なのだが、日本のコレは小型で若干劣る品質のようである。それでもシイタケ以上の高値で取引されるのは間違いない。

 ただ、菌床だけをネパールに持ち込んでも定着は難しい。菌が育ちやすい土壌環境を整える必要がある。

 トリュフは栗や樫の森に生えやすいので、それらの造林が最優先される。こうやって森が出来上がってから、トリュフの菌床を移植するという計画になる。それでもトリュフを収穫できるかどうかは未知数だが。


 ゴパルがほっとした表情になった。

「造林だけで少なくとも五年以上はかかるよね。まだまだ先の話だな」

 ラメシュも同意した。彼も気持ちが落ち着いてきたようである。

「そうですね。その頃には私も博士になっているでしょうし、フルタイムで関わる事が可能ですね。楽しみです」


 カロチヤを小ジョッキですすっていたアルビンが少し残念そうな表情になった。

「うー……順調に進んでも五年も先なんですか。今は忘れた方が良いですね。当面は酒とチーズ、肉で集客だナ」

 普段のアルビンはきれいなネパール語を話しているのだが、こういう場面ではグルン訛りが少し出てくるようだ。


 気持ちを切り替えて、アルビンがゴパルとラメシュに聞いた。

「ディーロだけだと味気ないんで、オムレツも付けますよ。それと、ポカラのホテル協会がダチョウ肉を推しているんですよね。料理方法を学んだので、ちょいと試食してもらえますか?」

 最近は、肉もドローン輸送で運び始めていると話すアルビンである。

「新鮮な野菜も手に入るようになりそうです。ガンドルンやチョムロンで栽培した野菜になるかと思いますけどね。ダチョウ肉は、はるばるブトワルから届いています。この濃霧でもドローン輸送だと何とかなるみたいですよ」

 ドローン機体それ自体は高価でないので、多少墜落しても問題ないのだろう。

 今回は、ダチョウ肉のトマト煮込みを試すようだ。気圧が低いので、圧力鍋を使っての調理になるのは仕方がない。

 明るい表情で即答するゴパルとラメシュである。

「喜んで」


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