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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
お祭りの季節は忙しいんですよ編
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魚やエビでも雑談

 洪水で連想したのか、ゴパルがつぶやいた。

「洪水被害は魚の養殖池にも及びますよね。こちらの方でも注意してもらいましょう」

 現状では、ベントタ近くにある汽水エビと魚の養殖場でKLを試しに使ってもらっている。汽水エビはバナメイと呼ばれる白っぽいエビで、魚はシーバスと呼ばれているスズキだ。

 ゴパルがメールを通じて提案したのは、養殖池の水量の五千分の一のKL培養液を毎月注ぎ入れるという単純な方法だった。

 餌にもKL培養液と光合成細菌を同時に噴霧して吸着させている。エビや魚の餌はペレット状になっているので、噴霧しても表面だけになるが。この他にも色々と検討していると話すゴパルである。


 なお、この時代では漁業資源の枯渇が問題になっていて、魚粉が高価で入手困難な状況になっている。

 そのため、使用されているのは昆虫を粉にしたものだ。生ゴミで大量養殖できるアメリカミズアブが代表的である。幼虫が大きいので苦手な人が多いようだが。ただ、昆虫の粉だけでは食いつきが悪いので、アラキドン酸等を添加して嗜好性を高めている。

 この養殖池は有機認証を得ていないので、通常の方法を採用している。

 エビと魚にはゲノム編集により耐病性が付与されているが、ワクチンの使用も並行して実施されている。そのため、病気で全滅という事態は無くなっていた。ただ、餌のやり過ぎやヘドロが溜まると、酸欠になってエビや魚が死んでしまうが。


 この時代ではいかに餌の量を減らして、良い水質を維持するかが重要になっていた。エビや魚は餌だけを食べる訳ではなく、プランクトン等も好むので減らす事が可能だ。

 これまでは餌の食べ残しや糞はそのまま腐敗してヘドロ化していたのだが、KLと光合成細菌を使う事でプランクトン等の餌として再利用できるかどうかを試している。今までの所は、上手くいっているようだ。

 養殖池と取水口を含む周辺水域からヘドロが消失すれば、それだけでもかなり安心できるようになるだろう。


 バナメイエビは小さいサイズでも需要があるため、養殖期間が三ヶ月間を過ぎたあたりから出荷される。もちろん大きくなるほど単価は高くなるのだが、餌を食べる量も増えるので儲けが少なくなる。

 シーバスはセイゴと呼ばれる小魚の段階でも干し魚として需要があるので、これまた餌代との相談でいつ出荷するかを決める。

 一般的には三十センチ以上のフッコと呼ばれるサイズに育てる事が多い。ちなみにスズキと呼ばれているのは六十センチ以上を指すのだが、スリランカでの養殖ではここまで大きく育てる事は少ない。


 ゴパルが簡単に報告してから、困ったような笑顔を浮かべた。

「KLや光合成細菌って、陸上で採取した菌ばかりなんですよね。塩水の中で上手く働いてくれるかどうかは分かりません。生ゴミボカシづくりでの経験では、塩があっても問題なさそうでしたけど」

 そのため、KLと光合成細菌の他に納豆菌の併用も検討している。ちなみに納豆菌のグループとKL構成菌とは相性が悪いため、一緒に培養できない。

 汽水の塩分濃度は3%以下が標準なので、KLや光合成細菌、納豆菌も生存できる。しかし、活発に活動してくれるかどうかは不明だ。海水の塩分濃度は平均して3.5%あたりになるため、かなり海水に近い汽水だったりする。

 納豆菌は自家培養できるので、ゴパルがラマナヤカに教えて作ってもらっている。熱帯なので保温の手間もそれほどかからない。食用にできる菌なのだが、臭いが不評なので納豆を食品として売る事はないだろう。

 これを砕いて液状にし、餌に混ぜて与えてみる計画だ。その場合、餌にはKLと光合成細菌、それに納豆菌が付着している事になる。

 ちなみに汚水の浄化能力は、納豆菌よりも近縁種の枯草菌の方が高い。しかし、食用にできる菌ではないので除外している。


 養殖池だが、最初から徹底的にKLや光合成細菌、納豆菌を使うと池底の有機物がほとんど分解されてしまう。そうなると、水を入れても藻やプランクトンが発生しなくなる。

 この状態で稚エビや稚魚を池に入れると、市販の餌を与えても餌不足で飢えて死んでしまう恐れが高い。

 プランクトンを別タンクで培養して与えれば良いのだが、かなり面倒な作業になる。そのため、米ぬか嫌気ボカシを散布する予定だ。プランクトンの発生を促す目的で使う。

 しばらくの間放置して、池の水が緑色になりプランクトンが十分に発生してから稚エビや稚魚を導入……という流れになる。その後は餌のやり過ぎによる水質の悪化を防ぎながら養殖を続ける。

 なお、微生物が池に馴染むまで数年ほどかかるのだが、この時点でのゴパル達には知る由もない。その間は水質の変化に一喜一憂する事になる。余談が過ぎたようだ、本編に戻ろう。


 ゴパルがエビと魚の汽水養殖について話したのだが、カルパナは特に反応しなかった。ネパールには海がないので当然といえば当然だ。

 サビーナも大して興味を示していない。

「バナメイエビとかシーバスって、レストランじゃ使えないのよね。ピザ屋で使えるくらいかな。欲しいのはロブスターとかクエ」

 がっかりしているゴパルを見て、補足を加えるサビーナだ。

「スズキも大きなサイズに需要があって、養殖で出回っている小さなサイズじゃ使いにくいのよ。スープの具材で使う程度かな」

 ロブスターとかクエはどちらも汽水ではなくて海水での養殖になる。海上にいけすを作っての養殖方法だ。もしくは海水を汲み上げて陸上の養殖タンクでかけ流して養殖するか、だろう。

「他には手長エビとか川カマスとかかな」

 これらは淡水で養殖できるが、どちらもかなり難度が高い。


 さらにがっくりと肩を落とすゴパルだ。

「汽水のエビと魚は不要ですか……」

 アバヤ医師がニヤニヤしながらゴパルを慰めた。

「需要としてはピザ屋や中華料理屋の方が、サビーナ君の店よりも遥かに大きい。気にする必要はあるまい」

 バナメイエビやシーバスの切り身を乗せたピザは少ないのだが、そこは指摘しない事にするゴパルであった。パスタの具材として使える程度だろう。

 給仕長が会議室に顔を出した。

「サビーナさん。そろそろ厨房へ戻ってきてください。シェフ達が待っています」

 サビーナが残念そうな顔になって軽く背伸びをした。

「長く寛ぎ過ぎたか。それじゃあ、今回の試食はここまで。解散、解散」


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