キノコのパスタ
会議室がコーヒーの試飲から、パスタの試食用に整えられた。ネルドリップの布袋やコップ、コーヒー用の臼や焙煎器が部屋の外へ運ばれていく。コンロは備えつけのようだ。
続いてテーブルクロスが新しいものに変更されて、人数分のナイフとフォーク、スプーンが配置され始めた。
水の入ったグラスと、バクタプール酒造の白ワインが注がれたグラスも置かれていく。すっかり定着したなあ……と感慨深く白ワインを見つめるゴパルだ。カルパナは既に浮かれていて、満面の笑みである。
そんな二人の様子を、アバヤ医師がニヤニヤしながら眺めている。
三人で談笑していると、給仕長がパスタ料理を運んできた。
「キノコのパスタです。今回はスープが主役になりますので、パスタを先にしました」
アバヤ医師がゴパルとカルパナを見てうなずく。
「うむ。千メートルもの標高差を下りてきた連中がここに居るからな。スープだけでは到底足らないだろう」
その通りなので、言い返せないゴパルとカルパナであった。
このパスタ料理は、生シイタケとヒラタケ、オイスターマッシュルーム、それにエリンギをやや厚めに輪切りにし、今年のオリーブ油と岩塩だけで炒めたシンプルなものだった。パスタは米粉で作られたジリンガパスタを使っている。
ゴパルがパクパク食べながら、幸せそうな表情になった。
「汎用小麦粉のパスタではないので食感と風味が異なりますが、これはこれで美味しいですね。良いと思いますよ。米粉なので麺がモチモチしているんですね」
これに使われている米はモチ米ではないので、正確にはモチではない。
カルパナも嬉しそうに食べている。
「小麦よりも米が好きな巡礼者も居ますから、これは良いですね。味付けは変えないといけませんが」
アバヤ医師も楽しんでいるのだが、冷静に批評した。
「米粉だから小麦粉の代わりにはならないな。小麦の風味とも異なるし。客に給仕が説明する際には、別物の料理として紹介した方が無難だろう。小麦の麺のようなコシがないのも気になる。反面、味の染み込み具合は米粉の方が良いようだな」
給仕長が真摯に聞いてうなずいた。
「そうですね。汎用小麦粉の代用品として紹介するのは避けた方が賢明でしょう。コシの無さは、米粉なので仕方ないかと。この点も客への説明に加えますね」
頭をかいて両目を閉じるゴパルだ。早くも完食している。
「……アバヤ先生が参加してくれて、本当に助かります。私だけでは、とてもこのような感想は思いつきませんよ」
カルパナもアバヤ医師に感謝した。
「私の基準は巡礼客になりがちですね。どうしても宗教色が強くなってしまいます。外国人の味覚に合わない場合が多いんですよね。アバヤ先生が居ると、その点で安心です」
アバヤ医師は気楽に笑って白ワインを飲んでいる。ゴパルに続いてパスタを食べ終えた。
「少しは役に立てて良かったよ。さて、次はいよいよキノコのスープだな。ワシも好物なんだよ」
カルパナが最後にパスタ料理を食べ終えて、二重まぶたの瞳をキラキラ輝かせた。
「私も楽しみです」
給仕長が皿を引き上げながら、アバヤ医師に聞いた。
「ワインですが、このままにしますか?」
アバヤ医師がゴパルと相談し、軽く肩をすくめながら答えた。
「このまま続けるよ。あのキノコのスープに耐えるようなワインは、かなり高価になるだろうからね。試食会で飲むようなモノではあるまい。ここは安酒で十分だよ」
安酒と言い切られて、両目を閉じるゴパルだ。実際そうなので反論できないようだが。




