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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
お祭りの季節は忙しいんですよ編
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子鳩のロースト、カルダモンソース

 給仕長が今回のメインディッシュを運んできた。

「子鳩のロースト、カルダモンソースです」

 量が少ないので、先ほどのトンカツで腹を満たすという構成なんだな……と理解するゴパルだ。


 これも作り方を簡単に紹介しておこう。

 子鳩の羽をむしって首と手羽先、足先を切り落とし、内蔵を抜いて掃除しておく。

 タコ糸で縛って形が崩れないようにし、塩コショウしてオリーブ油で香ばしく表面を焼く。この時点では、肉の内部まで火は通さない。

 さらにオーブンで焼いて少し火を通し、取り出してから焼き油をかける。この段階で内部まで火が通るのだが、ロゼの状態だ。火を通し過ぎると、肉の色が白っぽくなってしまうので注意。後は暖かい場所に置いて肉を休ませておく。皿に盛りつける直前に、再度表面を焼いて仕上げだ。

 子鳩の心臓やレバー、砂肝、手羽先は掃除してから塩を振ってオリーブ油でソテーしておく。付け合わせとして使う。


 カルダモンソースは、カルナ達がジョムソンで天日干しした黒カルダモンを使用している。これの殻を割って中の種を取り出す。種は包丁の腹などを使って潰しておく。

 油を敷いた鍋に、タマネギの薄切りを入れて塩を少し振り、カラメル状になるまで弱火で炒める。これに鴨のダシと黒カルダモンを加えて煮詰めていく。子鳩を炒めたりオーブンで焼いた際に生じた汁も足す。

 途中で濾して、さらに煮詰める。良い感じにトロトロに煮詰まったら、いったん火を止めて無塩バターを加える。そうしないとバターが熱で分離してしまうので注意。最後に塩を振り、味を調えて仕上げる。

 皿にタコ糸を切って取り除いた子鳩を盛りつけ、付けあわせの内臓と手羽先を添える。カルダモンソースをかけて完成だ。


 鴨のダシだが、フォン・ド・カナールとも呼ばれる。これも簡単に作り方を紹介しておこう。

 オリーブ油を引いたフライパンに、鴨ガラ五キロを並べて火にかけ、焼き色を付ける。

 皮を剥いて八等分に切ったタマネギ二個、三センチ角に切ったニンジン一本、二等分にしたセロリ三本、潰したニンニク三片を寸胴鍋に入れ、鴨ガラも入れる。

 水を入れて沸騰したらアクを取り、トマト二個、黒粒コショウ十粒、タイム五枚、ローリエ一枚、トマトペースト二十グラムを加える。弱火で二時間半ほど煮て濾す。これで鴨のダシが四リットル取れる。


 子鳩なので手洗いしてからテーブルへ戻り、手洗い用のボウルを用意してもらった。ゴパルとカルパナが右手だけを使って嬉しそうに食べているのを見て、ヤマが申し訳なさそうに謝った。

「すいません。私は不器用なので両手を使いますね」

 カルパナが穏やかに微笑んだ。

「気にしていませんよ。パメの家に来る巡礼客には、左利きの人も居ますし」

 ゴパルも気楽な表情だ。

「家の中では左手を使う人も居ますね。子鳩は小さいですから、ナイフとフォークでは不便です。遠慮しないで両手を使ってください」

 ほっとしたヤマが、改めて料理の感想を述べた。

「私はそれほど鳩料理を食べた事がないのですが、良い香りですね。肉質もしっとりしていますし、幼鳥ですから淡白な味わいです。癖が強くないので、多くの人に食べてもらえそうな食材だと思いますよ」

 カルパナがパクパク食べて赤ワインを一口飲み、幸せそうに微笑んだ。

「サビーナさんやバルシヤ社長さんの話ですと、KLを使い始めてから肉や内臓の香りが良くなったそうです。私もそう思いますよ」

 ゴパルが照れながら、両目を閉じた。

「……すいません。美味しいのですが、味の違いがそこまで詳しく分かりません」


 店内は次第に満席になりつつあった。給仕がテキパキと仕事しているのを嬉しく思いながら、ゴパルがヤマに顔を向けた。

「食後のチーズですが、存分に注文してください。いつもは遠慮して食べていないですよね」

 ヤマが恐縮しながらも目をキラキラ輝かせている。

「そうですね。援助隊員も苦手な人ばかりでして、会食で食べる機会が少ないんですよ」

 そう言ってから、給仕長に視線を向けた。

「では、シェーブルがあればそれをください」

 給仕長と相談して、結局フランス産の灰かぶりシェーブルを頼むヤマであった。少し残念に感じるゴパルである。

(リテパニ酪農産のチーズは選んでくれなかったか。バクタプール酒造のワインと同じで課題山積だなあ……)


 一方のカルパナはリテパニ酪農産のカマンベールチーズを頼んでいた。試作段階を終えて、徐々に生産量を増やしているらしい。これには微生物学研究室が開発した菌を使用している。

(あ……しまった。これにもウチの菌を使っていたっけ。記録していなかった)

 冷や汗をかき始めたゴパルが、同じカマンベールチーズを頼んだ。さらに青カビチーズも少量お願いしていく。これにも微生物学研究室の菌を使用していたりする。


 食後のチーズを食べ終えたヤマが、コーヒーをすすりながら幸せそうな顔になった。

「素敵な食事会でした。元気がでましたよ。私の本業の水道工事がそろそろ本格化しますので、頑張りますね」

 応援するゴパルとカルパナである。

 そこへ、コックコート姿のサビーナが厨房から出てきた。エプロンを新しいものに取り換えている。

「ご機嫌な顔をしているわね。良かった、良かった。ヤマさんの水道工事の成功を祈っておくわね」

 ヤマが照れてバーコード頭をかいた。

「私が直接作業するのではありませんけれどね。無事故で納期内に終えるように頑張りますよ」

 サビーナが厨房へ戻っていったのを見送ってから、ゴパルが給仕長を呼んだ。

「ごちそうさまでした。とても美味しかったですよ。では、会計をお願いします」


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