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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
お祭りの季節は忙しいんですよ編
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リテパニ酪農

 この時期は観光シーズンなので、ツーリストバスの行き来が多い。ネパール軍駐屯地前ではそれらを素通りさせて、一般の乗り合いバスやトラックの検問を行っていた。カルパナのジプシーも検問を受けている。

 と、いつもの茶店でチヤをすすっている軍の偉い人が手招きした。がっかりして肩を落とすカルパナである。

「チヤ休憩していきましょう、ゴパル先生」

 ゴパルが苦笑しながらシートベルトを外した。

「そういえば、あの人の姿をティハール大祭やバジル結婚祭では見かけませんでした。実はかなり忙しいのでは?」

 カルパナが車を路肩に停めてシートベルトを外した。早くもジト目になっている。

「面倒臭がって参加していないだけです。人手不足で大忙しだったのに……」

 ゴパルが同情しながらドアを開けて外に降りた。

「なるほど、そういう事情ですか。レカさんが待っていますから、短めにしておきましょう」


 とにかくも、強制的にチヤ休憩をする事になった。軍の偉い人はカルパナのジト目を愉快そうに眺めていたが、ゴパルに世間話のノリで話しかけてきた。

「カリカ地区の日本人が追い出されたって話だな。無線機まで盗まれるとか、かなり酷い有様だね」

 この時代ではスマホが普及しているので、ポカラ市内ではどこでも気軽に電話できる。山の中でもインドの衛星群を使えば通信が可能だ。ただ、量子通信ではないので盗聴される恐れは高いが。

 無線通信も普通に盗聴されているのだが、それでも軍や警察を中心にしてまだ現役で使っている所が多い。

「無線機は軍事利用できる代物なんでね、今回は少々厄介な事態になっている。君たちは、あまり関わらない方が良いだろう」

 トランシーバーのような近距離用ではなくて、ポカラから首都まで楽に通信できるタイプの無線機だったらしい。それを聞いて顔を見合わせるゴパルとカルパナであった。

 軍の偉い人は、リテパニ酪農でオリーブ油搾りが始まっている事も知っていた。一瓶頼まれてしまうゴパルとカルパナである。英国や米国軍とも親交があるので、時々パーティを開いているらしい。彼らは新鮮野菜のサラダが好物なので、ドレッシングづくりにオリーブ油を使いたいという事だった。

 終始ジト目になっていたカルパナが、小さくため息をついて了解した。

「料金は後で請求しますよ、叔父さん」


 検問で停車するバスやトラックが増えてきた。カルパナがチヤを飲み終え、席から立ち上がって代金を支払った。

「駐車場所が足りなくなってきましたから、そろそろ出発しますね。行きましょうゴパル先生」

 ゴパルが急いでチヤを飲み干して立ち上がった。軍の偉い人に合掌して礼をする。

「それでは、私達はこれで失礼します」


 ジプシーに乗ったカルパナが、時刻を見て残念がった。

「うー……シスワでイチジクを食べて行きたかったのですが。今週で収穫が終わるんですよ。まったくもう、あの叔父さんは。ドラゴンフルーツも今週いっぱいで食べ納めなんですよね。困った叔父さんです」

 ゴパルがシートベルトをかけて納得した。

「なるほど。それで機嫌が悪かったのですね。果物って食べ頃というか、旬がありますよね」

 カルパナもシートベルトを締めて、車を起動させた。電気自動車なのでエンジン音はしていない。

「アセロラも今週いっぱいなんですよ。また、ゴパル先生が酸っぱさで目を白黒させている顔を見たかったのですけど、残念です」

 両目を閉じて呻くゴパルだ。

「それは勘弁してください」


 リテパニ酪農では駐車場から近い作業小屋でオリーブの油を搾っていた。ラジェシュがニコニコしながら出迎える。

「我が妹君のレカは、ダイエットで油搾りの作業をやってます。俺が案内しますよ」

 やはり、大祭続きで太ってしまったらしい。

 ディーパク助手という彼氏ができたので調子に乗って食べ歩きしていたと、ラジェシュがニヤニヤ笑いながら話してくれた。挙動不審な動きが混じって、変な踊りをしているように見える。

「デートで買い食いばかりやって太ってしまったんですよ、あのバカ。サルワールカミーズって基本オーダーメードですからね、着る服がなくなるって騒いでいます、あのバカ」

 カルパナがコメントに困って、ゴパルから視線を逸らせた。

「ええと……それでは、作業を見て回りましょうか、ラジェシュさん」


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