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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
お祭りの季節は忙しいんですよ編
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フェワ湖の渡し船

 渡し舟もかなりの満席だったのだが、秋の涼しい風がフェワ湖の湖面を吹き抜けているので快適だ。カルパナがゴパルの隣に座って、チャパコットのハウス群を指差す。

「スバシュさんの後任者も仕事を覚えて頑張っています。良い出来の花やランが育っていますよ」

 ゴパルがほっとした表情になる。

「それは良かったです。キノコ栽培にスバシュさんを引き抜いたような形になってしまったので、心配していたんですよ」

 カルパナが穏やかに微笑んだ。風を切って湖面を走っているので、髪を押さえている。

「私とサビちゃんはキノコ好きですから、それにスバシュさんを巻き込んでしまいました。私も申し訳なく思っていたのですが、これで何とかなりそうです」


 チャパコットを過ぎると王妃の森に差し掛かる。すると、カルパナを見つけてカラスが数羽飛んできた。船の上を旋回してカーカー鳴いている。

 カルパナが穏やかに微笑みながらカラスを見上げた。

「すっかり懐かれてしまいました。生ゴミボカシをかなり気に入ったみたいです」


挿絵(By みてみん)


 ゴパルも見上げた。

「餌台を広くしましたしね。カラスって賢いですから、上手く教えると畑や果樹を野鳥害から守ってくれるかも知れませんね」

 カルパナがちょっと考えてから、真面目な表情になってうなずいた。

「それ、良い考えですね。試してみます」


 フェワ湖の上空には相変わらず色鮮やかなパラグライダーが旋回していた。離陸する場所はチャパコットの丘の頂上の他に、サランコットの民宿街の直下も加わっていた。さらには、熱気球まで浮かんでいる。

 カルパナがジト目になってつぶやいた。

「湖に落ちる人が減りません。困ったものです」

 一方のゴパルは困ったような笑顔を浮かべている。

「パラグライダー会社の社長さんって、低温蔵までのドローン輸送も始めたんですよ。これには助かっていますから、私としてはあまり強く文句を言えません」

 カルパナが軽く肩をすくめた。渡し舟が、観光ボートに乗っているカップル二人の横を通り抜けていく。

「ドローンも時々墜落事故を起こしているんですよね……ケガ人が出るかも知れません。警察が取り締まる動きになりそうですよ」

 実際に国外では飛行禁止になったりしている。ゴパルが腕組みをして呻いた。

「なるほど、そうなんですか。街道から離れた場所でも、シイタケ栽培とかで働く人が増えそうですし。事故に巻き込まれてしまうと、そういった場所からは簡単に町の病院へ行けません。ルールづくりは必要ですね」


 カルパナが、今度はいたずらっぽい表情を浮かべた。

「ドローン自体は私も賛成なんですよ。今、ナウダンダの山頂にある小屋を改修中なのですが、地下室を作っています。そこでワインやチーズなんかを保存する計画です」

 保存するには一定の低温と湿度が必要だ。地下室であれば都合がいい。ワインとチーズでは最適な温度と湿度が異なるので、分けて保存する必要があるが。

 カルパナが話を続けた。

「小屋に人を常駐させます。サビちゃんの店でワインの注文が入ったら、ドローンを飛ばして運ぶという事を検討していますよ」


 その小屋の標高はガンドルンよりも高いので、冬は霜が降りるほど冷える。しかし雪は積もらないため、行き来するのは容易な場所だ。

 小屋の周囲は水源の森として保護されているので、車道は通せない。そのため、ドローン輸送が注目されているという事だった。

 感心して聞くゴパルだ。

「低温蔵の発想ですね。良いと思います。雪が積もれば、それを地下室に溜め込んで冷却源として活用できますよ。ポカラが暑い時期でも氷温を維持できます」

 そのような話をしていると、ダムサイドに到着した。桟橋に接岸して、乗客と一緒に陸に上がる。上空のカラスは、カーカー鳴きながらルネサンスホテルへ飛んでいった。餌台の場所取りに向かったのだろうか。


 ゴパルがルネサンスホテルの受付けカウンターでチェックインを済ませ、とりあえず二階の角部屋に駆けあがっていく。彼の荷物は既に部屋へ運び入れてくれていたようだ。

 その後ろ姿を見送ったカルパナに、サビーナが手を振って挨拶しながらやって来た。コックコート姿だが、生地が少し厚めになっている。試食会はいつもの会議室で行うので、その指示を給仕長に出してからカルパナの肩に手を置いた。

「バジル結婚祭おつかれー。チェトリ階級のあたしは楽しててごめんね」

 カルパナがサビーナに肩を叩かれながら、穏やかに首を振った。

「KL事業のおかげで農家に戻る人が増えて、食事の準備が大変だったけどね。両親や親戚も喜んでいたから、あまり苦には感じなかったよ」

 サビーナが真面目な表情になった。

「もうひと頑張りして、あの牛糞山羊の先生を彼氏にしちゃえ。あの風貌と性格だと、カルちゃんが拾ってあげないと一生独身だぞ」

 クスクス笑うカルパナだ。

「確かにそうかも。この一年半くらい見ていたけど、私達以外の女の人と付きあっていないみたい。今は、両親がゴパル先生の家族や親戚を調べてるから、その結果次第かな」

 サビーナがカルパナの肩を叩きながら苦笑した。

「バフン階級って、そういう所が面倒よね」


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