ナウダンダの茶店
翌日、ナウダンダでもシイタケの状態を確認するラメシュであった。ゴパルはすっかり撮影担当である。
ほだ木に生えているシイタケに袋を被せてから、ラメシュがスバシュとカルパナにニッコリと微笑んだ。
「良い出来ですね。収穫できますよ」
ほっとしているスバシュとカルパナである。ケシャブ達も来ていて朗報に喜んでいる。カルパナがケシャブとスバシュ達に告げた。
「それでは、この後で初収穫してくださいな。サビちゃんが味見したいと言ってたので、一袋だけルネサンスホテルへ届けてください」
ハワスと答えるスバシュとケシャブ達だ。グルン族の反応とはかなり違うものだなあ……と思うゴパルである。ラメシュがケシャブ達の人数を数えてから、カルパナに試食を提案した。
「カルパナさん。せっかくですから、ここでシイタケを試食してみませんか? 塩バター焼きでしたら、この場ですぐにできますよ」
穏やかに微笑んで了解するカルパナだ。
「そうですね。では、お願いできますか」
早速ラメシュが簡易かまどを作って、シイタケの塩バター焼きを振るまった。スバシュがヒラタケやフクロタケ、エリンギとは違う風味に驚いて、ニコニコしながらケシャブ達と雑談を始める。
カルパナは特に驚いたような仕草は見せずに楽しそうに試食していた。ゴパルが一切れ食べて、満足そうにうなずく。
「セヌワでも塩バター焼きをしたのですが、風土が違うとシイタケの風味も変わりますね。それがほだ木栽培の良い所だと思います」
カルパナが素直に同意した。
「そうなんですか。実は、シイタケは先日サビちゃんが石さんから入手したので、試食しています。確か、タイ産だったかな。塩バター焼きではなかったのですが、タイ産とは風味が違いますね」
ラメシュはスバシュと談笑していたのだが、そっと彼に聞いてみた。
「スバシュさん、シイタケの販売価格をケシャブさん達にも教えた方が良いでしょうか」
スバシュが軽く首を振って明るく笑った。
「相場価格はもう知らせてありますよ。干しシイタケもね。ナウダンダはパメほど野菜泥棒は多くないんですけど、それでも被害はあります。高級キノコだと教える事で、集落全体で守ろうっていう動きになりますね」
ラメシュがナウダンダに来たのには、もう一つ理由があった。トラックに山積みにされたエリンギ菌床の最終確認である。パメからスバシュが運び上げてきたものだ。
ラメシュがプラスチック製の袋に詰められた菌床を見て、自身のスマホで写真を撮った。エリンギの菌糸が菌床全体に広がっている。
「これも良い出来ですね。さすがですスバシュさん。それでは、栽培小屋へ運んでください」
トラックをケシャブが運転して、ゆっくりとナウダンダの土道を走り去っていった。土道は補修工事が終わっていて、崩れていた場所が直っていた。そのため、気楽な表情でケシャブがハンドルを握っているのが見える。
ゴパルがトラックの行き先を眺めると、ナウダンダの集落の外れに向かうようである。そこの廃屋を改造して栽培小屋にしているようだ。
エリンギはヒラタケよりも涼しく、シイタケよりも暖かい気温で栽培される。そのため、栽培小屋の屋根には白いプラスチックシートが使われていて簡易温室になっていた。
カルパナが簡易かまどの火が完全に消えた事を確認してから、ラメシュに告げた。
「ラメシュさん。そろそろ飛行場へ向かいましょうか。天気が良いですので定刻に飛ぶと思いますよ」
確かに今日は快晴だ。南のインド方面は早くも黄色い砂塵で覆われ始めているようだが。
ラメシュが恐縮しながらうなずいた。
「空港まで送ってもらえて助かります。では、ゴパルさん。後はよろしく頼みますね」
了解したゴパルに、カルパナが声をかけた。
「ゴパル先生。荷物をルネサンスホテルまで運んでおきますよ。パメまで担いで下りるのは大変でしょう」
ゴパルも恐縮しながら礼を述べた。
「そうですね、ありがとうございます。そうしてもらえると助かります」
こうしてジプシーにゴパルのリュックサックを乗せて、助手席にラメシュが座った。カルパナがゴパルに手を振る。
「では行ってきますね。ゴパル先生、後でパメの家で会いましょう」
電気自動車なので静かに走り出した。そのまま舗装道路に出て走り去っていく。
スバシュが茶店オヤジにチヤ代金を支払ってからゴパルに告げた。
「さて、私達も下りましょうか」




