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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
お祭りの季節は忙しいんですよ編
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演奏会場

 デウシ隊のお囃子に小銭を出して聞き、歌と踊りを楽しんでから演奏会場へ到着すると、かなりの数の観客で賑わっていた。その中にカルナの姿が見えたので挨拶する。

「やあ、カルナさん。バドラカーリーのヒモバンドの演奏って次ですよね。間に合って良かった」

 カルナがジト目になってゴパルを睨みつけた。思わず一歩引くゴパルである。

「出たなゴパル山羊。ラメシュ先生を低温蔵に残してポカラで遊び回るとか、何考えてるのよ。普通は逆でしょ」


 ゴパルが申し訳なさそうに頭をかいて目を閉じた。

「すいません。私の風邪が彼に移ってしまいまして……低温蔵での作業はできるのですが、下山する体力はないと言う事で……私だけ来てしまいました」

 大きなため息をつくカルナである。

「はあ~……今日のために私がどんだけ宿の仕事を片付けたと思ってるのよ、このクソ山羊。でもまあ、風邪なら仕方がないわよね。今回は運が悪かったと諦める」


 そう言ってからギロリとゴパルを見据えた。

「だけど、ラメシュ先生が風邪から回復したら、四日間くらい借りるからね。その間はゴパル先生が低温蔵で仕事しなさいよ」

「ハワス、カルナさん。どこか旅行にでも行くんですか?」

 フフン、とドヤ顔で微笑むカルナだ。

「プン族の山小屋がそろそろ使えそうなのよ。すっごい絶景だからラメシュ先生に見せてあげたいのよね」

(あー……頑張れラメシュ君)

 内心で彼を応援するゴパルであった。恐らくは大変な山道を登る事になるだろう。


挿絵(By みてみん)


 これまでに演奏やダンスを披露した組が時間超過をしていたようで、十五分ほど遅れての演奏開始になった。

 ステージに登場したナビン、ラビンドラ、ラジェシュそれにスバシュの四人が楽器の調整を始めると、観客が歓声を上げた。男のファンが多いようでかなり野太い咆哮だ。カルナもすっかりファンの顔になって、黄色い声をナビンにかけている。


 ゴパルがカルナから解放されてほっとしながら、ステージ上の四人の姿を見てワクワクしている。

(映像では何度か見たけど、直接見ると迫力があるなあ……)

 四人共にシャツとジーンズにスニーカーの軽装だった。ヘビーメタルのバンドといえば、もっと強烈な衣装や髪型が多いのだがこれは地味である。

(ナビンさんは、さっきまで祭祀を務めてたばかりだしね。髪型や服装には制限がかかってしまうよなあ)


 しかし、演奏が始まると音圧に圧倒されるゴパルであった。アマチュアバンドなので演奏技術はそれほど上手くないのだが、ファンが多くつくだけの事はある立派な演奏である。

 オリジナルの曲もあるのだが、多くはインドや欧米の曲をネパール語訳したものだった。そのため、原曲の下品で強烈な歌詞が直接観客に伝わっている。

(うん……バドラカーリー女神様のヒモを自認するバンドとしては申し分ない歌詞だよね。ラビンドラさんの歌声のせいで格好良く聞こえてしまうけど)

 ラビンドラが歌いながらギターをかき鳴らしている。かなり音ハズレが混じっているがアマチュアバンドなのでこんなものだろう。ナビンもギターで、ラジェシュがベース、ドラムをスバシュが叩いている。


 数曲を立て続けに演奏して、観客が咆哮しながら歓声をあげた。カルナもキャーキャー叫んでいて、もうすっかりゴパルの事は放置している。

(映像で見るのとは違って、直接聞くのも良いな。しかし、観客に学生が多いんだね。走り回ったり、胴上げされている連中も居るし)

 そんな連中は一部だけなのだが、大多数の客は腕を突き上げて飛び跳ねながら叫んで曲を楽しんでいる。ゴパルも真似てみたが、すぐに疲れてしまった。

(うひー……ここの観客は体力があるなあ。若い学生が多いのも納得だよ)


 カルパナ達はバンド演奏の合間に歌う事になっていたようだ。客が飛び跳ね過ぎて疲れてきた頃に登場してきた。

 カルナがカルパナ達三人の姿をステージの上で見て黄色い歓声を上げている。ゴパルもそれに加わりながら両手を上げてピョンピョン跳ねた。

(お。登場だね)


 まずはサビーナがパンチの効いた歌声で一曲披露した。バンド演奏が普通のポップス調に変わる。カルパナとレカがコーラスを担当しているのだが、レカは赤鬼の仮面を被っていた。かえって目立ってしまっているようだなあ……と苦笑しているゴパルだ。

 ディーパク助手の姿も観客の中にあった。しかし場所が悪いようで、走り回る客に巻き込まれ胴上げまでされている。か細い悲鳴が聞こえたような。

(あの場所に居なくて良かった。ケガだけはしないように気をつけてねディーパクさん)

 助けにいかずに放置するゴパルである。


 続いてカルパナが歌う順番になった。これもポップスで可愛らしい曲だ。小学校の遊戯でやるようなダンスをサビーナと仮面のレカが披露している。

(うん、まあ、練習時間がないと、簡単なダンスになるよね、うん)

 ゴパルが同情しながらうなずく。カルナはサビーナの拙いダンスを見ながらニコニコしている。

「完璧超人もやっぱり人間なのが、よーく分かるわね。顔が真っ赤で可愛いー」


 最後に仮面のレカの順番になり、仮面をつけたままで歌い始めた。キョトンをするゴパルだ。

「あれ? 何語ですかコレ」

 サビーナとカルパナが踊り始めたのを見ながら、カルナが答える。

「多分、ネワール語じゃない? どこかで聞いた事がある曲だけど、しっかりポップスに聞こえるわね」

 仮面のレカの歌は短めで終わった。三人で観客に合掌して礼をして、続いて演奏してくれたバンドメンバーにも礼をした。


 ラビンドラがマイクを持ってニヤニヤ笑いを浮かべながらカルパナ達を紹介する。

「我が妹君サビーナと、その御友人のカルパナ、レカさんでした。どうだいサビーナ。ステージの上って、なかなか大変だろ?」

 サビーナが降参の仕草をした。まだ顔が赤い。

「ほとんど公開処刑されている気分だったけど、楽しかったわ。これからも、このクソバンドを頑張ってね、兄ちゃん」

 カルパナもナビンに微笑んでガッツポーズをした。大いに照れているナビンだ。仮面のレカも肯定的に首を振って意思表示をしている。

 ゴパルもほっとした。

「無事に終えて良かった。言い出しっぺなんですよ、私」

 カルナがジト目をゴパルに向けた。

「よく考えてから提案するようにしなさいよ。一歩間違うと大ゲンカの大惨事になりかねないからね、こういうのって」

 素直にうなずくゴパルである。

「ハワス、カルナさん」


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