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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
お祭りの季節は忙しいんですよ編
1023/1133

朝の空港駐車場

 ラメシュがリュックサックを背負って空港から出てきた。北にそびえているマチャプチャレ峰を見上げて、軽く肩を回した。ついでにメガネのレンズを拭く。

(首都よりも暖かいなあ。山もまだ朝焼けの名残りがあるね)

 しかし、これからABCの低温蔵まで交代要員として登るので、暖かさとはしばらくの間無縁になってしまうのだが。

 ラメシュがマチャプチャレ峰の奥に白い壁となって見えているアンナプルナ連峰に視線を移して、主峰の辺りを眺めた。ヒマラヤひだと呼ばれる風食された氷雪がくっきりと見える。

(天候は安定してそうだね、良かった)


 そこへ協会長がスーツ姿でやって来て、ラメシュに合掌して挨拶してきた。

「おはようございます。ようこそポカラへ。荷物はそれだけですか?」

 ラメシュが振り向いて協会長に合掌し挨拶を返した。乞食が群がってきたので、小銭を渡す。

「おはようございます、ラビン協会長さん。良い朝ですね。空席がなくて、こんな朝一番の飛行便になってしまいました」

 ホテルの白いバンを運転しているのは、いつもの男スタッフだった。せっせと荷物を車に載せている。協会長が欧米からの客にも合掌して挨拶をしながら、気楽な表情でラメシュに微笑んだ。

「観光シーズンですから混むのは仕方ありませんよ。朝から客が多く到着してきますので、この時期は早起きになりますね」

 確かにそんな感じだ。他のホテルのバンも駐車していて、予約客の荷物を載せている。タクシーの数も多い。


 なるほどと納得してから、申し訳ない表情になって協会長に謝るラメシュ。

「今回は、ゴパルさんがABCで風邪をひいてしまいまして、予定が急きょ変更になりました。忙しい時期に余計な手間をかけてしまいまして、すいません」

 寝冷えをして風邪をひいてしまったらしい。当初の予定では、パメでの現場撮影を明日ゴパルがする事になっていたのだが、こういう状況なので変更になった。代わりに今日、ラメシュが撮影記録をするという段取りだ。

 ちなみに低温蔵にはダナが居るのだが、仕事が忙しくてラメシュと交代するまでは下山できない状況になっている。まあ、半分以上は面倒臭がっているだけなのだが。


 協会長がバンに乗り込んだ外国人とネパール人の予約客を確認して、ラメシュに微笑んだ。

「空港へ来るのは、私の気分転換になります。気にしなくて構いませんよ。さて、そろそろカルパナさんとレカさんがホテルに到着する時刻ですね。出発しましょうか」


 空港からルネサンスホテルまでは歩いても行けるほどの距離なので、すぐに到着した。

 ラメシュがいつもの男スタッフから手紙と小包を受け取り、チップを渡す。金欠の博士課程の身なのだが仕方がない。

(後でゴパルさんに請求しよう。私宛ての手紙は来ていないな)


 少し経つと、カルパナとレカが小奇麗なサルワールカミーズ姿でロビーに入ってきた。二人と挨拶を交わし、ラメシュが時刻を確認する。

「あわわ……もうこんな時間か。すいません、部屋に荷物を置いてきますね」

 階段を駆け上っていくラメシュの後ろ姿に、カルパナが声をかけた。

「そんなに急がなくても大丈夫ですよ」

 レカもニマニマ笑いをしながらスマホ盾を構えた。

「そーそー。急がなくていいぞー。チヤ休憩したいしー」

 サビーナがコックコート姿でロビーに出てきて、ジト目をレカに向けた。

「ランチの準備をしてるから、さっさと済ませたいんだけどな」


 ラメシュが部屋から下りてきて会議室に入ると、レカとサビーナがそれぞれ準備をほぼ終えていた。カルパナがチヤをすすりながらラメシュにもチヤを渡す。

「ちょうど良いタイミングですね。お菓子づくりの実演動画をレカちゃんが撮影します。私達はこうして見ているだけですよ」

 ラメシュが軽く頭をかいた。

「確か今回はタルトタタンというお菓子でしたよね。リンゴを使うお菓子だとか。ツクチェやチャーメ産のリンゴを使うんですか?」

 カルパナの代わりにサビーナが調理台に手をついてドヤ顔で笑った。

「ん。そうね。そろそろリンゴに飽きてくる頃だから、お菓子にするって訳。それじゃあ、始めるか」

 レカがスマホを操作して固定カメラを作動させた。スマホのカメラも使うようだ。

「ほい。始めてくれー。ラメシュせんせーは、わたしに近寄らないよーに! 砕けて飛ぶぞ」


 そう警告されては仕方がない。距離を広くとるラメシュだ。カルパナが申し訳ない表情になって謝った。

「ディーパク先生が彼氏になったので、人見知りは少し改善されたのですけどね……すいません、ラメシュ先生」

 サビーナが材料を用意しながらニヤニヤしている。

「いやいやいや……彼氏ができたせいで、余計に男を意識しているって感じなのよね。この男好きがー」

 レカが耳まで顔を赤く染めてサビーナに抗議し始めた。かなり図星だったようだ。

「い、言い方に悪意込めるなあー! か、かっ、彼氏とか、か、ぐぎゃぎゃぎゃ」

 カルパナが暴れ出しそうになっているレカをなだめる。

「もう、両方の親も公認しているんでしょ。堂々としなさいな。サビちゃんも言い過ぎだよ」

 反省するサビーナであった。それを見て、レカも挙動不審な動きが鎮まってきた。

 そんな二人を見て、穏やかに微笑むカルパナだ。

「それじゃあ、タルトタタンの実演をお願い、サビちゃん」

 感心してカルパナを見ているラメシュである。チヤをすすりながら一歩引いた。

(裏ボスかあ……ゴパルさん、大変そうだな)


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