ロールポークと、鳩と西洋ネギのコンフィ添え
ロールポークの作り方は次のようになる。
豚ロース肉を1.2キロ用意する。これは塊なので包丁を入れて切り開いておく。黒コショウと塩を多めに振り、小さくて薄いイチョウ切りにしたリンゴ片を半個分と、種なしの乾燥プルーンを十個乗せる。
そうしてから肉を丸めるのだが、一番上は脂身になるように工夫すると良いだろう。その脂身に包丁でエックスの字型の切れ込みを刻んでおく。
焼き豚を作る要領でタコ糸を使って縛り、形が崩れないようにする。脂身にはクローブを十本ほど差し込み、グラニュー糖を大さじ二杯弱振りかける。
これを百七十度に熱したオーブンに入れて、五十分間ほど焼く。この間、オーブンのフタを開けてはいけない。焼きあがったらオーブンの火を止めて、余熱で十五分間ほど火を通しておく。
肉をオーブンから取り出して、鉄串を刺して火の通り具合を確認し、それで良ければ皿に盛りつける。タコ糸は邪魔なので切って取り除き、大きな包丁を使って肉を切り分ける。ソースがかかっていないので、焼いた肉という印象が強い料理だ。
今回の付け合わせはリンゴだった。四分の一のリンゴを薄切りにして、無塩バターと少量のグラニュー糖を加えて炒めたものだ。
アバヤ医師が肉に岩塩と黒コショウをさらに振りかけて、バクリと口に入れた。肯定的に首を振る。
「……ふむ。レカナート養豚団地の産だが、癖のある臭いは弱まっているな。しかし若干まだ残っているから、レストランでは出せないだろうね」
ゴパルも続いて肉を切って口に入れた。こちらは喜んでいる表情だ。
「私は気になりませんよ。でもまあ、どちらかと言えばピザ屋で食べるような料理って感じですね」
カルパナは黙々と食べていたが、ゴパルの感想を聞いてうなずいた。
「そうですね。居酒屋とかそういう店で出すと人気が出そうですよね。豚肉が香ばしく焼けていますから、お酒が進むと思いますよ」
そう言ってから、給仕長に聞いた。
「豚肉に挟んでいるリンゴや、付け合わせのリンゴはツクチェ産ですか? 良い感じですね」
どうやらカルパナは豚肉よりもリンゴの方を気に入ってしまったらしい。給仕長が穏やかに微笑んだ。
「はい、ツクチェ産です。KLは使っていませんけれどね。今年の雨期の土砂崩れで、リンゴ園にも被害が出たそうなんですよ。その復興支援も兼ねています」
アバヤ医師も満足そうにうなずいた。彼もリンゴを気に入った様子である。
「ツクチェ産のリンゴは評判が高いから、すぐに復興するだろう。さて、次は鳩のローストだ。ローストが続くが、まあ試食会なので仕方がないな。ゴパル君は赤ワインを頼むかね? ワシは残念ながら遠慮するが」
ゴパルが腕組みをして呻いた。
「……うう。私だけ飲んでしまうと、罪悪感を感じてしまいそうです。水でお願いします」
クスクス笑うカルパナだ。
「良い心がけです、ゴパル先生」
豚肉料理を食べ終わって、雑談を交わして一息ついた頃に鳩料理が運ばれてきた。給仕長が料理を紹介する。
「鳩と西洋ネギのコンフィ添えです。バルシヤ養鶏の産ですね」
鳩はそれほど大きくないので、手づかみで食べる事にしたゴパル達であった。手洗い用のボウルを頼んで、いったん手を洗いに席を立つ。ネパール人なので、手づかみの方が気楽らしい。
この料理の作り方は次のようなものだ。ここでは二人前の分量を記しておく。
鳩は二羽用意して、熱湯にくぐらせて羽や羽毛をむしっておく。首を落として解体し、手羽先と足先を切り外し、腹を割いて内臓を取り出す。ソース用に手羽先と首、心臓や肝臓等を残し、汚れを洗い落としておく。
骨付きの鳩の胴体を掃除してから水洗いし、表面と内側に塩コショウを振り、タコ糸を使って縛る。
次に西洋ネギの下準備を始める。これは日本の白ネギと似ているが、さらにずんぐりと太い。風味の方も白ネギのような癖が少ないのが特徴だ。
これの根と汚れた部分を取り除いて洗っておく。緑色の部分も切り取って、白い部分だけにする。ちなみに緑色の部分も他の料理で使えるので、捨てずに保管しておくと良いだろう。この西洋ネギを二キロほど使用する。
さて、この白い部分を五センチの長さに横に切り、次に繊維に沿って縦に半分に切る。そうしてからバラバラにほぐして、再び水洗いする。これを沸騰した湯の中に三分間ほど入れて、火が通ったら湯から上げて水切りをしておく。
ソテー鍋に無塩バターを小さじ一杯入れて火にかけ、無塩バターが溶けたら縛った鳩胴体と、首、手羽先を入れて六から七分間ほどかけて炒める。
肉に焼き色が付いたら、このソテー鍋ごと二百二十度に熱したオーブンの中にいれて、十二分間ほどローストする。
この際に耐熱トレイに沸騰した湯を注いでおき、その上にソテー鍋を置くとさらに良い。ロースト中に鳩の胴体をひっくり返して、火の通りを均一化させておく。
ローストをしている間に、オーブン用の天板に大さじ一杯半の無塩バターを入れて、コンロの中火で熱して溶かす。
これに西洋ネギを加えて、塩コショウとグラニュー糖を振って丁寧にかき混ぜながら十分間ほど火を通す。西洋ネギから出てくる水分がなくなるようにしておく。
鳩のローストが焼きあがったら、オーブンからソテー鍋を取り出す。鳩の胴体をソテー鍋から取り出し、皿に移してからアルミホイル等を被せて保温しておく。
首と手羽先が残っているソテー鍋に、心臓と肝臓等を加えて中火にかけ、肉汁をカラメル化させる。
二百五十度に温度設定したオーブンに、西洋ネギを入れた天板を入れる。十分間ほどすると煮詰まってきて、西洋ネギの表面がカラメル化してくる。これでコンフィの完成だ。ちょうど良い状態になったら保温しておく。
ソテー鍋に水を2.5デシリットル加えて、木ベラでかき混ぜて焼き汁を溶かしながら中火で煮詰める。0.5デシリットル程度になれば良い。味を調えておく。
盛りつけ皿に西洋ネギのコンフィを敷く。保温していた鳩胴体のタコ糸を切って、コンフィの上に乗せる。
ソテー鍋の中身を濾して、ソース皿に注ぐ。ロースト料理なので、ソースを使うかどうかは食べる側の好みに任される。
今回は水しか飲んでいないゴパル達だが、赤ワインであればエシェゾーのグランクリュあたりが良いだろう。
席に着いたゴパル達に、給仕長が一言添えた。
「鳩は小さいので冷めないうちにどうぞ。ポカラは亜熱帯ですが、もうアソーズ月の月末ですからね」
アソーズ月は西暦太陽暦の九月中旬から十月中旬にかけての期間を指す。
ゴパルが目をキラキラさせて了解した。
「そうですよね。では早速試食をします」
手づかみで鳩の胴体をちぎって食べ始める。その垂れ目が幸せそうな光を帯びた。
「美味しいですねえ……小さいので手づかみ向きです。やっぱり鶏と違いますね。鳥って感じがします」
アバヤ医師も手で鳩をちぎりながら食べている。彼は手馴れているようで、ヒンズー教の作法に従って右手だけを使っていた。
「子鳩の場合はさらに小さいけれどな。さすがに単価が高いから、試食会で気軽には出せないようだがね」
カルパナも右手だけを使って食べている。
「手づかみ前提の食材ですし、ネパール料理で使っても良いと思います。ですが今はまだ、飼育数が少ないですね」
ゴパルが同意した。早くも食べ終わりかけている。
「鳩タワーが一つだけでしたからね。鳩を増やすと周辺の農家が困るかもしれませんし、慎重に進めた方が良いと思います」
三人が料理を食べ終えて手を洗っていると、サビーナが会議室に顔を出した。給仕がデザートのタルトタタンやリンゴのシャーベットを運んでいるのを見て、がっくりと肩を落とす。
「あー……もう食べ終わってたか。鳩だから、すぐに食べ終わってしまうよね。感想を聞かせてちょうだい」
ゴパル達三人がサビーナに料理の感想を述べていく。基本的には好評なのだが、豚肉とベーコンについては、まだちょっと……という評価だった。
それをサバサバした表情で納得して聞くサビーナだ。ちなみに彼女はコックコート姿である。
「ん。妥当な感想ね。まだしばらくの間、レカナートの豚は避けるとするか。ちょっとずつ品質は良くなってきているんだけどね」
そう言ってから、アバヤ医師の肩に手を回して引き寄せた。
「……で、あの朴念仁の二人はどうだった? しっかり食事デートやってた?」
一本眉を上下させて、くっくっくと含み笑いを返すアバヤ医師である。
「ちょっとは意識しておるようだがな。まだ、ちょっとだけだな」
がっくりと再び肩を落として、ジト目をカルパナとゴパルに向けるサビーナである。
「あんたたちね……仕事中毒もいい加減にしなさいよ」
苦笑して顔を見交わすゴパルとカルパナであった。
「サビーナさんが、それを言いますか」
「サビちゃん、説得力がないよ」




