表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
お祭りの季節は忙しいんですよ編
1017/1133

オリーブ青果実の収穫

 カルパナとゴパルが手を振って挨拶を返し、サビーナとレカからチヤを受け取った。ゴパルが早速すすりながら、オリーブ園の収穫作業を眺める。

「ええと……今回は油を搾るのではなくて、サラダで使うための収穫でしたっけ。実の色がきれいな緑色ですね」

 サビーナが摘んできたオリーブの実をゴパルに見せた。ニコニコしている。

「ん。このまま食べると青臭くて辛味と苦味があるから、漬け込んで食べやすくするけどね」

 ゴパルが試しに一つ種抜きした実を食べてみた。微妙な表情になっていく。

「う……確かに。でも欧米の人はコレが好きなんですよねえ……」

 ゴパルが期待通りの表情をしているので、満足している様子のサビーナとレカである。

 オリーブの実は樹齢八年目から一般に収穫を始める。このオリーブ園では作業員が手摘みで収穫をしていた。


 サビーナも一つ口に入れて、収穫作業を見守る。

「去年よりも良い風味になっているわね。KLのおかげかな。ありがとうね、ゴパル君」

 この期に及んでも『君』づけのままだが、素直に照れているゴパルだ。

「オリーブ栽培の方法は知りませんよ。リテパニ酪農の人の努力と工夫のおかげです」

 カルパナも感慨深い表情になってチヤをすすっている。

「土ボカシと生ゴミボカシの効果でしょうね。家畜糞を使った厩肥ですと、土地が臭くなってしまうんですよ」

 ゴパルが口直しにチヤをすすりながら同意した。

「菌の種類が違いますからねえ。根が浅くて脆いオリーブでは効果的だったのかな」


 レカは退屈そうにチヤをすすっていたが、スマホの着信を見てニマニマ笑いを浮かべた。

「おー……ティハール大祭のコンサート演目が決まったー。カルちゃんとサビっちは後半だぜー」

 次の瞬間、レカのスマホに殺到するサビーナとカルパナだ。数秒後、がっくりと肩を落とす。

「マジでやるのかよ……勘弁してくれ」

「ひやあああ……どうしよう、どうしよう」

 ゴパルが小首をかしげてレカに聞いてみた。

「演目ですか? 何か出し物をするとか?」

 ニンマリと笑ってドヤ顔になって答えるレカだ。

「ゴパルせんせーの提案で、クソ兄どものバンドに協力する事になってねー。だったら、歌ってしまえよベイビーって話になったー」

 ゴパルが目を点にする。

「……へ? って事は、コンサートに飛び入り参加するのですか?」

 ドヤ顔で満面の笑みを浮かべるレカだ。

「そのとおりー」


 サビーナがジト目をゴパルに向けた。

「余計な事をして、このクソ山羊っ。観光シーズン真っ最中に歌えとか、レストランの仕事どうすんのよ」

 カルパナも困惑してゴパルを見つめた。

「協力するって申し出たら、なぜかこんな事になりまして……どうしてでしょう」

(あー……それは多分、隣でニマニマ笑っているメガネっ娘の策謀のせいだと思いますよ)

 とは口に出せないゴパルであった。言い出したのはゴパルなので、平謝りするばかりである。

「すいません、すいません。兄妹の仲を深めるには良いかなと思ったのですが、大変な事になってしまいましたね、すいません」


 サビーナがカルパナと視線を交わしてから、大きくため息をついて苦笑した。

「こうなっては仕方がないわね。真面目に歌の練習でもするかな。演奏するのはバカ兄どものバンドなのよ。バドラカーリーのヒモとか不謹慎なバンド名だけど、カルナちゃんみたいなファンも多いし……がっかりさせない出来にしないとね」

 カルパナも困った表情を続けながらサビーナに同意した。

「そうね……練習するしかないよね。出荷で大忙しなんだけど、頑張る」


 ゴパルがおずおずと聞いてみた。怒られて尻尾を丸めた子犬のようになっている。

「どんな曲を歌う予定なんですか? 私の兄に頼んで楽譜とか取り寄せますよ」

 レカが代わりに答えてくれた。軽く肩をすくめている。

「まだ決まってないー。クソ兄が演奏できる曲だからー、大した曲じゃないはずー」

 まあ確かにバドラカーリーのヒモは、アマチュアの趣味のバンドだ。難しい曲は技量的にいって無理だろう。妙に納得しているゴパルである。


挿絵(By みてみん)


 サビーナが軽く背伸びをしてピックアップトラックの荷台から下りた。ヘルメットを取って頭に被る。

「さて。それじゃあポカラへ戻るか。ゴパル君、試食会をするから腹をすかせておきなさい。アバヤ先生も来る予定よ」

 了解するゴパルだ。

「鳩料理が出るのですよね。楽しみです」

 サビーナが明るく微笑む。

「他にも色々つくるけどね。これからカルちゃんと養鶏企業へ行くんでしょ。鳩タワーを見る時は、糞がボロボロ落ちてくるから注意しなさい。それじゃあ、また後でね」

 そう言って、バイクに乗って颯爽と走り去っていった。ゴパルが小首をかしげる。

「鳩のタワーですか?」

 カルパナが素直にうなずいて答えてくれた。

「はい。鳩を飼育している小屋の名前です。塔のような見た目なんですよ」

 へえ……と聞き入るゴパルである。レカが大あくびして荷台に寝転がった。

「わたしはここで寝てるー。あそこは、鳥臭いから行かないぞー。絶対に行かないからなー」

 予想した通りの反応なので、特に何も言わないゴパルとカルパナであった。カルパナがスマホで時刻を確認する。

「そろそろバルシヤ養鶏へ向かいましょうか。鳩タワーを見せてもらうように頼んでいます」

 特に関心はないのだが、感謝するゴパルだ。

「すいません。鳩料理を食べるので一度見たほうが良いですよね」


 そのままジプシーに乗り込む。ゴパルが助手席に座って、そっとカルパナに聞いてみた。

「あの……今回は本当に遊びに来ただけでしたね。収穫作業を手伝った方が良かったのでは?」

 困ったような笑顔を浮かべるカルパナだ。車を起動させて静かに坂道を下りていく。

「たまには良いと思いますよ。それに、今回は程よく熟した実だけを選んで収穫しています。私達では見分けるのが難しいんですよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ