パメへ
カルパナがバイクでルネサンスホテルへ迎えに行くと、ロビーにレカとサビーナが居て談笑していた。カルパナを見つけて手を振ってくる。
「毎日収穫と出荷で忙しそうね、カルちゃん。ランチでご馳走を用意したから試食していってよ」
レカも気楽な表情でヒラヒラと手を振っている。
「はろー。カルちゃんもパメ行った後でーうちに来るんだよねー」
カルパナが穏やかに微笑んでうなずいた。
「うん、ちょっと遅れるかもだけど行くね。その後でバルシヤ養鶏に行ってくるよ。まだゴパル先生に鳩タワーを見せてなかったの」
サビーナが意外そうな表情になった。
「あれ? そうだったっけ。今日の試食で鳩を出すから、ちょうどいいかもね」
そのような雑談を交わしていると、ゴパルが階段を駆け下りてやって来た。
「お待たせしました、カルパナさん」
嬉しそうに微笑むカルパナだ。ゴパルにヘルメットを手渡す。
「ちょうど良い息抜きになっていますので、お気遣いなく。それではパメに行きましょうか」
そう言ってからサビーナとレカに軽く手を振った。
「それじゃあ、また後でね」
途中のダムサイド地区やレイクサイド地区では、大勢の観光客で賑わっていた。その人混みを避けて軽快にバイクで走り抜けているカルパナだ。相変わらずの運転技術に感心するゴパルである。
「さすがに観光シーズンですね。ラビン協会長さんも多忙で不在でした」
ヘルメット内に取りつけてある小型無線器を通じて楽に会話ができている。
カルパナが気楽な口調で答えた。
「どこも人手が足りなくて大変みたいですよ。キノコですが、レイクサイドのレストランや茶店で使われるようになりまして、需要が一気に増えました。スバシュさんが嬉しい悲鳴をあげていますね」
ゴパルが遠慮しながら聞いてみた。
「それは朗報ですね。ですが、スバシュさんはチャパコットの花卉ハウスにもまだ関わっていましたよね。後任の人は仕事を覚えてくれましたか?」
カルパナが明るい口調でうなずいた。
「はい。何とかなりました。KLと光合成細菌、それに育苗土を使うようになったので、栽培管理が以前よりも楽になった事が大きいかな。病害虫が減りましたので、それだけ楽になっていますよ」
感心して聞くゴパルである。
「さすがですね。まさかKLと光合成細菌で病害虫が減るとは予想していませんでした。健康に育つと、それだけ病害虫に対して強くなるって事なんでしょうね」
クスクス笑うカルパナだ。バイクのハンドルのキレが増している。
「私もここまで楽になるなんて思っていませんでしたよ。おかげでパメに集中できます」
そのパメでは、いつも通り最初に三階のキノコ種菌工場を見るゴパルだ。スバシュが少し疲れた表情ながらもニコニコ笑って案内してくれた。
「いやはや……大忙しですよ。ははは」
ゴパルがスマホで撮影を開始しながら、スバシュを気遣った。
「無理をしないように気をつけてくださいね。ナヤプルが持ち直して、種菌の需要が増えますからなおさらです。使い方の説明をする人も必要になってきますし、無理をすると体調を崩してしまいますよ」
当のゴパルは低温蔵で二日酔いとかしているのだが……
スバシュが照れながら肯定的に首を振った。
「そうですね。アバヤ先生の病院に担ぎ込まれると、ネチネチ小言を言われてしまいますからね」
撮影と作業員からの要望を聞いて記録を終えたゴパルがスバシュに合掌して礼をし、一階へ下りた。ビシュヌ番頭がチヤを差し出してきたので受け取ってすする。
「相変わらず客が多いですね。ティハール大祭の前だからかな?」
カルパナが接客と会計をしているのを見ながら、ビシュヌ番頭がうなずいた。
「そうですね。先週からランのオンシジウムが咲き始めましたので、それを買い求める客が多い印象ですね」
そう言って、ビシュヌ番頭が店頭の一角を指差した。草丈が五十センチほどある黄色い花のランが並んでいる。それがオンシジウムなのだろう。
他には薄いピンク色のエリデスと、薄い青色のリンコスティリスが売られている。一般の花ではプルメリアとベゴニア、キンギョソウ、トルコギキョウ、ナデシコがそろそろ終盤という事だった。これから最盛期を迎えるのはカーネーションらしい。
といっても、ゴパルは花の名前に疎いままなので半分ほど聞き流しているようだが。
カルパナが接客を終えて、ゴパルとビシュヌ番頭の所へやって来た。今度はナビンが交代して接客を始めている。
「お待たせしました、ゴパル先生。ええと、今回はミカン畑でしたね」
ビシュヌ番頭が話の腰を折ってチヤをカルパナに差し出した。
「チヤ休憩をしてから畑へ向かっても問題ないと思いますよ」
ゴパルがチヤを手にしているので、カルパナも素直に受け取った。
「そうですね……では、一休みしましょうか」
ビシュヌ番頭がナビンの手伝いをしに接客に戻っていった。その様子を見ながらチヤをすすっているカルパナが、ふと何か思い出したようだ。ゴパルに顔を向けた。
「そうでした、ゴパル先生。チャパコットでクチナシの実を収穫しています。見に行きますか?」
ゴパルがチヤをすすりながらスマホを見て、困ったような表情で笑った。
「すいません……充電をし忘れていました。ミカン畑を撮影するだけでギリギリです。どんな作業をしているかだけ、話してもらえますか」
カルパナが目元を緩めて、充電って忘れてしまいがちですよね……と応じてから、素直に答えた。
「収穫するのは赤っぽいオレンジ色に熟した実です。そのままですと水分が多くて色素の抽出が上手くいきませんので、一週間ほどかけて天日乾燥させますよ」
この他にも、主にナウダンダで西洋ネギの収穫が始まった事と、エシャロットを植える畑の準備を本格的に始めたと話してくれた。
エシャロットの畑では、千平米あたり三トンの土ボカシ、五百キロの生ゴミボカシ、それに生の雑草も大量にすき込んだらしい。その後でKL培養液と生卵入り光合成細菌をそれぞれ五百倍に水で薄めて畑に散布している。もう乾期で雨が少ないので、思い切って大量に散水しているそうだ。
「エシャロットの根は短いんですよ。土が乾くと育ちにくくなるんです。タマネギやニンニクと似たような感じですね」
カルパナの説明をスマホで録音するゴパルだ。後で文字起こしするのだろう。西洋ネギは予定では先週からの収穫だったのだが、生育が遅れたので今週にずれ込んだと話すカルパナである。
「サビちゃんの店専用ですね。栽培している面積は、それほど広くありません。野菜のダシつくりに便利なんだそうですよ」
そう言ってから、軽く肩をすくめた。
「今回はちょっと標高が高かったみたいですので、次回からは少し低い段々畑で栽培するつもりです」
ナウダンダとパメとでは標高差が千メートルほどある。微気象が違うのだろう。
ゴパルがチヤを飲み終えたのを見て、カルパナもチヤを飲み干した。
「それではミカン畑へ行きましょうか、ゴパル先生」




