ジョムソン街道の旅
バグルン、ベニー、クスマの町では、現地の担当者が出迎えて教授達と何やら色々と話し合った。通信状況や地形、道路の状態、盗賊団の活動の有無……と、現地情報を収集している。
一方でゴパルはカルパナに同行して、キノコ関連の情報収集を手伝っていく。とはいえ、ゴパルは店主やトラック運転手から話を聞いて録音する役だった。ナヤプルやポカラで栽培されたヒラタケ等のキノコを売っているので、彼らからの要望や現状を聞くのは重要だ。
カルパナがゴパルに礼を述べた。
「手伝ってくださって、ありがとうございます。ディワシュさんやスバシュさんからキノコ売りを頼まれていまして……とりわけフクロタケは日持ちがしませんから、しっかりと説明をしておかないと」
ゴパルがベニーの町で現地の店主からの話を録音し終えてから、軽く腕組みをした。
「どうやら、生のフクロタケはベニー辺りまでが出荷の範囲かな。それよりも遠い場所へは、瓶詰とかで加工しないといけませんね」
サビーナが軽く首を振った。
「ふむ……瓶詰キノコを使った料理も必要なのか。考えておくわね。漬け汁とか使えそうだし」
ベニーの町から先は本格的な山道に変わり、小さな集落が点在するだけになる。
ディーパク助手がミニバスに設置した受信アンテナを調節して電波状態を測定している。土道で曲がりくねっているので、早くも車酔いしているようだが。レカも手伝っていたのだが、いち早く車酔いになり……くたばってしまった。
仕方なくスルヤ教授とゴパルが測定を替わる。スルヤ教授の指示が時々理解できなくて怒られているが。工学の専門用語は、微生物学ではあまり使わない。
ニヤニヤ笑いながらスマホで撮影しているクシュ教授だ。
「がんばれー、ゴパルせんせー」
そんなこんなでミニバスが山道を越え、翌朝ツクチェに到着した。さすがにこの辺りまで来ると土道も真っすぐになり乾燥した風景に変わる。
出迎えたのは、ツクチェ酒造のマハビル社長とリンゴ農家のビカスだった。早速マハビル社長が教授と協会長に挨拶して、色々と話し始める。
ゴパルとカルパナにはビカスが挨拶してきた。相変わらずの首タオルにカウボーイハットである。気温が下がってきているので、上着は丈夫なものに変わっていた。
「ようこそラー。ちょうどリンゴの収穫が始まった所ラ」
挨拶を交わして雑談をしていると、マハビル社長との話を終えた協会長が手を振った。
「ゴパル先生、カルパナさん。私達は先にジョムソンへ行きますね。昼食時にまた会いましょう」
クシュ教授達もミニバスへ乗り込んでいく。そのクシュ教授がゴパルに声をかけた。
「ゴパル助手。しっかりと撮影して記録しておくようにな。リンゴの土産を買って君の実家へ送ってはどうかね? もちろん経費では落とせないから自腹で頼むよ」
ゴパルが素直にうなずいた。給料が増えると余裕が生じるようである。
「はい、教授。一箱買うつもりです」
レカとサビーナもミニバスの窓からカルパナに手を振っている。サビーナがカルパナとゴパルに告げた。
「昼食会では、フォワグラのパテとズッキーニの花の包み揚げを実演するから、楽しみにしていなさい」
ゴパルとカルパナが笑顔で応える。
「はい。楽しみにしています、サビーナさん」
「今回は手伝えなくてごめんね、サビちゃん。レカちゃん、サビちゃんを支えてあげてね」
レカが間延びした声で答えた。
「おー。まかせろー」
ミニバスの運転手が乗降口を開けっぱなしにしながら発車した。何名かの地元の若い男女が飛び乗って、乗降口にしがみついていく。いわゆるタダ乗りであるが、チャーターバスでは往々にして黙認される事が多い。
ツクチェからジョムソンまでは起伏もなく、真っすぐな川沿いの土道なので振り落とされる心配も少ない。ナヤプルからツクチェまでの間であれば、文字通り命がけになるが……
ミニバスを見送ったカルパナが、ビカスとマハビル社長に笑顔を向けた。
「お待たせしました。それではまず、リンゴ園から見せてくださいな」
ニッコリと日焼けした笑顔で白い歯を見せるビカスだ。
「おう。なかなか良いリンゴに仕上がってるラー」
マハビル社長は、先程の協会長や教授達との話で何か仕事が生じたようである。軽く頭をかいて謝った。
「すいません。ちょいといくつか用事を片付けてきますので、リンゴ園には行けません。酒造所で会いましょう」




