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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
お祭りの季節は忙しいんですよ編
1005/1133

ジョムソンへ

 ラメシュが首都へ戻ってから数日後、二日酔いもさめて真面目に低温蔵の仕事をしていたゴパルが下山の準備を始めた。今回はダナが当番でやって来ていたのだが、不満そうにジト目をゴパルに向けている。

「いいなー、いいなー。この時期のジョムソンってリンゴが美味しいんですよねー、いいなー」

 ダナも近頃は小太り体型ではなくなっていて、どちらかといえば筋肉質な見た目に変わっていた。何度も首都と低温蔵を往復しているので、さすがに鍛えられたのだろう。

 頭をかいて申し訳なさそうに謝るゴパルだ。ゴパルも体が引き締まってきているのだが、雰囲気が緩いので印象はあまり変化していない。

「済まないね、ダナ君。シードルを買ってくるから、それで我慢してよ」

 シードルというのは、リンゴ果汁を発酵させた発泡酒だ。


 その日は一気にジヌーまで下りたゴパルだったが、アルジュンに捕まってしまった。否応なく、集落内のヒラタケ栽培の巡回に引き回される。

 泣き言をアルジュンに訴えるゴパルであった。

「ABCから下りてきたばかりなんですよ、私。ちょっと休憩させてください」

 明るく笑って、訴えを却下するアルジュンだ。

「大丈夫、大丈夫。ゴパル先生は強くなってるから大丈夫ですよ。ガハハ」

 どうも、次第にグルン族と同じ扱いになってきたような……と危惧するゴパルであった。ちなみにカルナは用事があるとかでガンドルンへ出かけているらしく留守だった。


 同様の事はナヤプルでも繰り返された。ディワシュと居酒屋のオヤジがゴパルを連れ回していく。ロキシーを大量に勧められたので、さすがにこれは遠慮したが。

 ディワシュがガハハ笑いしながら、ゴパルの背中をバンバン叩いた。やはり咳き込むゴパル。

「いやー、ラメシュの旦那が怒ったのでね。さすがに効いたみたいでナ。ヒラタケ農家が一致団結したんだよ。今じゃ見ての通りチャイ、しっかり注意事項を守ってるぜ」

 確かに引き回された先々では、連作障害対策をしっかり行っていた。ネズミや虫、トカゲ等による食害もかなり抑えられていたので感心したゴパルだ。

 居酒屋に戻ってから、とりあえず一杯だけロキシーを飲んで豚チリを摘まむ。

「私も見て回って驚きました。連作障害が既に出てしまっている農家は、しばらくの間栽培は無理ですが……ナヤプル全体としては生産量が安定しそうですね」

 ディワシュがニヤニヤしてうなずいた。

「だな。ヒラタケの売り先も開拓してるんだぜ。ジョムソン街道沿いの町に卸し始めてる。ジョムソンとかじゃチャイ、寒すぎて栽培できないからナ」

 ポカラよりもナヤプルの方がジョムソンに近いので有利らしい。

 途中のバグルンやベニー、クスマといった町でもヒラタケ需要が大きくなっているそうだ。これらの町は西部地域への玄関口でもある。リンゴ栽培が盛んになりつつある地域だ。


 何となく忙しくなりそうな気配を察したので、ゴパルが釘を刺した。

「私は低温蔵の仕事があるので、そんなに手伝えませんよ。ツクチェに対しても、もっぱらテレビ電話を使っていますし」

 ディワシュと居酒屋のオヤジがニンマリと笑った。

「大丈夫だ、ゴパルの旦那。当面はヒラタケの販路開拓だからチャイ、学者先生の出番はないナ。俺のような運び屋の仕事だ。サランコットでやってる野菜配達の要領でやってみるさ」


 結局ロキシーを四杯飲んでしまったゴパルが、居酒屋を出てジョムソン街道に向かった。酔っぱらっているのを自覚して頭をかいている。

(ヤバイ……足元がフラフラするぞ。カルパナさんに怒られる)

 ジョムソン街道に出ると道が舗装道路になる。それに面して空中テラスが建ち並んでいて、その中の馴染みの茶店で一休みするゴパルだ。茶店のオヤジがチヤを渡して苦笑している。

「また性懲りもなく酒を飲んできたんですかい、ゴパル先生。ラメシュ先生と大違いですぜ」

 ぐうの音もだせないゴパルだ。チヤを大人しくすすって背中を丸める。

「ですよねー……」

 ポカラから来るチャーターミニバスが到着する時刻まで、茶店で寝る事にしたゴパルであった。


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