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鐘が鳴る度、狗が啼く  作者: 天嶺 優香
一、魔姫は砦に
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好奇心からなる力 二

「アーガスとは何度勝負しても面白いな。負ける時に見せる屈辱の表情が最高だ」

 そんな事をさらりと言うと、また野次馬達が笑い声を上げ、口笛まで吹いた。

「サディストだな、お前」

 苦笑したアーガスは片手に持った酒瓶をぐいっと飲む。それと同時に化粧が濃い、露出度が高いドレスを着た女が近寄って来た。

 金髪に濃い青色の瞳。リーナと言う娼婦だったな、とロウェンは頭の隅にある記憶を引っ張り出す。香水のキツイ香りが鼻につく事も同時に思い出した。

「ロウェン、今日も調子良いのね。どう? あたしと飲まない?」

「そんな奴より俺ン所に来いよ」

 手招きするアーガスをリーナは睨み付けた。

「うるさいわね、黙りなさいよ負け犬。あんたに用はないわ」

 ぴしゃりとアーガスを撥ね付け、リーナは椅子に座るロウェンの後ろから抱きつく。

「ロウェンったら。もう、焦らさないでよ」

──誰がいつ焦らしたりした?

 こういう自意識過剰な女は嫌いだ、と心の中で毒づき、「だってあたしの事好きでしょう?」などと言ってきて、こちらへ迫ってくるリーナの唇をロウェンは自分の掌で押さえて止める。

「黙れ。勘違い女に俺は用はない。消えろ」

 冷たく言い放つロウェンを目の前に、リーナは声が出せない様子だ。

 冷ややかな声音とともに、ロウェンは自分の瞳──ラピスラズリの色の様だと男女問わず褒められるそれ──に殺意をこめる。

 顔を青くして怯えるリーナに気分が良くなり、鼻で笑った。

「どうした?」

 意地悪くそんな事を聞くと、リーナの顔が怒りで真っ赤に染まった。

「な、なによ! あんたなんてこっちから願い下げよっ!」

 怒りで顔をぐしゃぐしゃにしたリーナはドレスを翻してその場を立ち去った。

「あーあ、もったいねえなあ」

 アーガスが残念そうに呟くのが聞こえ、ロウェンは肩を(すく)めた。

「あの程度の女なら五万とこの世にいるね」

 その言葉にアーガスが呆れた様にため息を洩らした。

「確かにお前は良い男だが、あんま理想が高ぇと損するぜ?」

 ナルシストだと思われたのだろうか。

 ロウェンは少し眉を寄せた。

「何だよそれ。言っとくが俺はナルシストじゃない」

「そうか?」

 不思議そうに問われて答えに詰まる。アーガスは心底不思議そうに聞いてきたのだ。お前の性格のどこがナルシストではないのか、と疑問に思っているのだろう。

「……とにかく、俺は自意識過剰で馬鹿で無能な奴が嫌いなんだ」

「お前基準で言うと、どいつがそれに当てはまらないんだ?」

 そう言われ、ロウェンは考えこんだ。頭が良くて、謙虚で、役に立つ。果たして自分が認める程のそんな女がこれまでにいただろうか。

「……さあ? 俺が好む最低限の女の基準であって、別に全て満たしたってタイプじゃない。まあ俺に従順な女で可愛ければ良いかな」

 自意識過剰で馬鹿で無能。考えてみれば、それは嫌いになる奴の条件だ。好きになる女の好みだなんてわからないし、今まで女を好きになった事もない。

「いや、お前、変わってるな」

「馬鹿にしてるのか?」

「いや、違ぇよ。女にそこまで無頓着な奴ははじめてってだけさ。それに従順な女って……お前どこまでサディストなんだよ」

 別にサディストって訳じゃない。ただ、好みがわからないから扱いやすい女なら良いかなって思っただけ。

 そうやって言いたくはなったがなんだか言い訳になりそうで、結局口を閉ざした。

「そういえば、ロウェン」

 急にアーガスが深刻そうな顔をする。

「例の件だが……」

 そう切り出されればロウェンは眉を寄せた。

 アーガスは酒瓶をテーブルの上に置く。

「誰を連れてくんだ? 女じゃなきゃ駄目なんだろ?」

「まあな」

「リーナとか良かったんじゃねえか?」

 そんな事を言うアーガスをロウェンは軽く睨んだ。

「馬鹿言え。あんなのとずっと一緒にいるなんて耐えれない」

「だけど使い捨てが効くぜ? どうでも良いから使える。違うのか?」

 そう言うアーガスに、ゆっくりと首を振る。

「違うな。いくら使えるからって、俺がリーナを好きにならなきゃ意味がないらしいんだ。リーナだけ俺を好きでも“奴”は承諾しない。“奴”は悪趣味なんだ。女も俺も信頼し合う。それをやってこそ“奴”は喜ぶんだ。噂ではそういう話だったろ?」

 カランカランと優雅な音を立て、酒と氷が入ったグラスを持って揺らす。

 その場合にリーナでは役不足だ。あれにはどうしたってロウェンの心を動かすことはできない。そもそも耳元で騒ぐ金切り声が不快すぎて愛情だなんて抱けず憎みきってしまいそうだ。

「お前なあ、いざとなったら嫌になんじゃねえか? 好きになった女なら大事にしたくなるだろうが」

 アーガスがそう言うと、ロウェンが薄く笑い、グラスを回して遊んでいた酒を飲み干した。ブランデーの甘い味と強いアルコールが喉を通っていく。

 少しそれを楽しみ、テーブルに肘を突いて顔を乗せた。

「俺を甘く見んなよ。私情に流される程、俺は弱くない」

「お前こそ恋愛てのをなめてるぜ。男と女。お互いに惹かれあい、愛をだな……って聞いてんのか?」

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