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ーUntil the Daybreakー  作者: Lauro
序章 ーin the Duskー
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第12章 ーfrom the Abyssー

「…と、これでもう大丈夫だと思います」

しばらくしてようやく兵士の治療が済んだようだ

「よし、じゃあとりあえず山頂を目指してみるか」

ラルクは兵士を担ぎ上げまだ霧が漂う山道、というより運良く崩れていない足場と言った方がいいだろう

ラルク達は再び歩き始めた

「そういえばセレン」

ラルクの後ろを歩くセレンを振り返る

「前から思ってたんだけどルシア=ガルシアの連合軍には白銀騎士団が多くて謀反軍には黒金騎士団が多い気がするのは俺だけか?」

ラルクとしては男臭いよりかはマシだが女性ばかりというのもそれはそれで緊張する

「えと、そうですね。構成としては黒金騎士団はシリウス、白銀騎士団はクラウディアがそれぞれ纏めているんですが、事実上は白銀が私達王族院寄りで黒金が貴族院寄りなんです。でも、シリウスはエルシアの腹心なのでシリウスを慕っている騎士は黒金でも私達の方にいるんです。結果的には大部分の黒金が謀反軍に回ってしまいましたが…」

セレンの説明でようやく合点がいった

「ラルク、女の人があまり多いからって鼻の下伸ばさないで下さいね…?」

セレンはラルクに軽く釘を刺すように上目遣いで見つめる

「ん?俺そんなに鼻の下伸ばしたりなんかしてないぞ?ライカじゃあるまいし…」

「そう、ですよね…ちょっとアルトの真似をしてみただけです」

セレンはちょっと拗ねたようにラルクから眼を逸らす


しばらく歩いているとラルクの両肩に今担いでいる兵士とは別の重苦しさがのしかかったような感覚に襲われる

「……お前か…」

ラルクが鋭い視線を送る先にはこの重苦しい雰囲気を放つ根源がいた

「セルシウス…!?」

ラルクは低く絞り出すような声でその名を呼んだ

「あの時の傷は癒えた様だな」

父の仇はその身に纏う鎧と同じ闇のような瞳でラルクを睨む

「あぁ、お前が裏切った宰相様のお陰でな」

ラルクは皮肉交じりに言うが当のセルシウスは顔色ひとつ変えない

「剣を抜かないのか?父の仇を前にして」

その言葉にラルクは全身の血が沸き上がるのを感じた

身体が段々と熱くなっていく

だが、それはさっきセレンに見つめられた時に感じたのとは全く別物だ

「やっすい挑発だな…今俺が剣を抜いたら誰がセレンを守るんだよ?それに、お前んとこのケガ人セレンが手当てしてくれたぞ…」

ラルクは自分の中で煮えたぎる血をなんとか抑えながら兵士を地面に横たえる

「それはありがたい、礼を言う……賢明な判断が出来るようになったようだな。以前の貴様なら迷わず俺に向かって来たはずだ」

「お前に言われるようなことじゃねぇよ……それと、頼みがひとつある」

横たえられた兵士に歩み寄るセルシウスの足が止まる

「なんだ?」

「さっきこいつがスカーレットの元に戻ったら殺されるって言ってた」

「ほぅ……で、当の本人はどこだ?」

セルシウスは首を傾けながら聞き返す

「スカーレットはさっき俺達と戦った時に谷に落ちた…だからこいつはスカーレットの元に戻る必要はない。だから殺さないでやってくれないか?」

一瞬の沈黙が両者の間にこだます

普通なら仲間を殺されて激昂してもおかしくはないはずだ

「もし俺が連れ帰って処刑すると言ったら…?」

セルシウスに見つめられラルクの心臓が大きく鼓動する

「こいつは俺が連れ帰る…!」

再び訪れる沈黙にラルクの心臓の鼓動はさらに加速する

「なるほど…スカーレットがいなくなれば彼女の部下も少しは救われるだろう。だが覚えておけ、騎士というものは指揮者の駒に過ぎない……しかし、安心しろ。俺は彼女のようには決してしない」

そう言いながらセルシウスは兵士を担ぎ上げた

だが、セルシウスのそのひと言は見えないベールとなってラルクの身体を包んだような気がした

「なら良かった…」

ラルクは緊張で息も出来ずに石化してしまっているセレンの手を引きセルシウスの横をすり抜ける

「次に貴様と会うのはアークだ…それが最後だ…」

彼の横を通り過ぎたところでセルシウスの声がラルクの耳に届いた

実際にはラルクを挟んだセレンには聞こえないくらいの声だったがラルクの耳には確かに届いた

「あぁ…最後だ…!」

ラルクも同じく返して振り返らずに

去って行った


そして、セルシウスが完全に見えなくなる所まで来ると引いていたセレンの手が急に重くなった

「はぁ〜…!緊張しましたぁ〜!」

セレンら腰が抜けてしまったようにその場にペタンと座り込んでしまった

「おい大丈夫か?」

ラルクがセレンの顔を覗き込む

「ごめんなさい…今日は長い時間魔術を使ったり山を登ったりセルシウスに会ったり…その…疲れちゃいました…」

セレンは苦笑いを浮かべながら眼を逸らす

「まぁ確かに、セルシウスと会ったのは俺も緊張したけどな…」

セレンには余裕の笑顔を見せるが実際には足が少し震えている

「あの時はどうなるかと思いました…もう身体の力が抜けちゃいました」

ふぅ、とセレンは深く息をついた

「歩けそうにないか?」

ラルクがセレンの前に跪いて目線を合わせて聞くとセレンはビクッと肩を震わせる

「へっ…?!だ、大丈夫ですよ!べっ別におんぶして欲しいとか全然思ってませんよ!?」

セレンは頬を紅く染めながら顔をラルクから背けて両手を前に突き出す

「して欲しいのか?…ん?雨、か?」

ラルクの頬に冷たい雫が1滴、2滴と落ち始め

それを皮切りに空が優しく泣き出した

「ほら、おんぶしてやるから雨が強くなる前に急ぐぞ」

ラルクは自分のマントをセレンに頭から被せる

「あぅ…この歳でおんぶなんて恥ずかしくてアルト達に言えません…」

ラルクに背負われたセレンは紅くなった顔をラルクの背中にうずめる

「ハイハイ、だったら内緒にしといてやるから、頼りたい時はちゃんと言えよ?」

「はい…」

セレンは小さく返事をしてラルクに背負われながら雨の中を歩いて行った

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