第8章 ーthe Gate is Far beyondー
「本当に大丈夫なんですか…?」
シルヴィアは謀反軍の騎士から奪った黒い鎧を着たライカを見る
「大丈夫だって、俺の変装で騙されねぇ奴はいねんだから!」
自信満々に言い放ち高台からこの作戦の標的の城門を守る騎士の様子を伺う
「僕達からすればすぐに正体バレますけどね」
「そんじゃバレた時は援護よろしくっ!」
「バレるの前提ですか…」
ライカはシルヴィアに敬礼し高台から飛び降り音もなく見張りの騎士に迫っていく
「よぉ、ご苦労さん!悪いんだけどさ、さっき上から開門しろって命令があったから開門してくんない?」
「わかりやすい嘘ですね」
礼儀や階層に重きを置くルシア人の騎士に対していささか砕けすぎだとシルヴィアは思ったが
相手もそんなライカの態度に不信感を抱いている様子もない
それはライカの人当たりの良さのお陰かもしれない
「おぉ…そうか、ではセルシウス将軍に開門すると伝えてくれ」
本当に見張りの騎士はライカの言葉を信用し
門を開けるための巨大な取手に手をかけた
「了解…ってあれ?報告は小隊長とかじゃなくていいの…?」
思いもよらない返事だったがライカは冷静に聞き返す
「今この城にいる騎士の指揮権は俺にある、開門しろとは一体誰の指示なのだろうな?」
ライカは背中に殺気と一度聞いた事のあるような低く覇気のある声を感じ振り返ると
燃え盛る焔のような紅の髪に夜の闇より黒い鎧を纏った騎士がいた
「おっと、噂をすれば何とやら……まさかのご本人登場か?俺的にはスカーレットさんの方が嬉しいんだけどなぁ…」
さすがのライカもルシア最強の騎士が集まる神将騎団
黒焔のセルシウスを前にするといつものようにふざけた調子の冗談は出てこないようだ
そんな状況にライカの後ろで混乱する騎士達をシルヴィアは焔の魔術で蹴散らし
ライカの元へ駆け寄る
「お前達がここへ来る事は既に分かっていた」
身構えるライカとシルヴィアに対しセルシウスは剣の柄に手も触れずに話す
「残念でしたね、後僕達がこの門を開門すればルシアとガルシアの連合軍がここに押し寄せて来ます」
シルヴィアはそう言いながら魔導書に手をかざし
手を天に掲げ紅い発煙弾を打ち上げる
「残念だが、今はお前達の軍と相手を出来るだけの戦力はここにはない。退く前に俺が相手をしよう……」
セルシウスが腰から剣を抜くと今まで鞘の中に抑圧されていた殺気が一気にシルヴィア達に押し寄せ
足が何かに掴まれているかのように重くなる感覚があるのが分かる
「ハーロットの狙いはこれだったのかもな…」
ライカは呟きながら静かに四肢を光らせていく
「それより今は簡単に開門すらさせてくれそうにありませんね」
どうやら戦いは避けられないようだ
今はすぐ後ろにある門が遥か遠くにあるように感じた




