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MANJU!~ひょっとこ饅頭空想譚~  作者: 高冨さご
おまんじゅう熟成期

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Episode.58 未来予知?【居場所のない少女】

怜也 改め 万寿

「今、どういう状況なんです?」


 第三部隊へと飛ばされた万寿は、頭上に広がる液晶パネルを見上げた。その一部には先ほどの動画が流れている。


「午後一時三〇分、今から十五分後に我々クラフトが姿を見せないとビルから飛び降りると言っていますが、真実は定かではありません」

「すぐに行けないんですか?」

「言われた通り我々が姿を見せれば、今後同じようなことをしてしまう人が出てくるかもしれません。時間になるまで相手の出方を見ます」

「本当に飛び降りたら?」

「――その時はお前の出番だな」


 万寿に声をかけたのは、ジョニィだった。


「ジョニィさんもいらしてたんですか!」


 万寿が振り返ると、ジョニィはなぜかとてつもなく不機嫌そうに携帯をつつきながら椅子を揺らしていた。


「えっと……?」


 万寿が戸惑っていると、代わりに第三部隊の一人が答えてくれた。


「緊急招集かけたのがお昼ご飯中だったみたいで。急いでカレーラーメン食べて大やけどしたのに来てみたらこの状況で『十五分と言わず今すぐ飛び降りろ』ってイライラされていて……」

「なるほどです……」


 そんな会話をしながらジョニィを見ると、彼女はじとっとこちらを睨んできていた。慌てて万寿が愛想笑いをすると、彼女は見せつけるかのようにかなり大きなため息をつく。


「あー、うぜえ! 無視すりゃよかった」

「でもちゃんと来てるじゃないですか」

「BAKUのことがあるからな。また何か大きな問題でも発生したのかと思って」

「これも大きな問題ですよ」

「あと十五分もあるんだから、現地から飛ばせよ」

「いざという時いつもジョニィさんは何かしらの列に並ばれておられるので、早い所確保せよとイッチさんから……」

「あのガキ。要らねえことを……」


 ブツブツ言いながらも、しっかりと動画を見て周囲の確認しているジョニィ。その様子に万寿は小さく笑みを浮かべた。


 なんだかんだ言いつつも、放っておけないんだよね。見ず知らずの僕を助けてくれたくらいだし、本当はじっとしていられなかったんじゃ――。


「なに笑ってんだ饅頭。全身潰して、ずんだにすっぞ」

「枝豆要素はゼロですよ」


 そうこうしている間に、少女が告げた時間まであと五分。二人は現場へと出向くことにした。


「現地ではマスコミ含め多くの人が自分の携帯などで録画をされているようです。彼女が飛び降りを図った瞬間に、おまんじゅうさんは時間を止めてください。そしてジョニィさんによって救出。その後彼女ごとクラフト広報部へと飛ばします」

「広報部にですか?」

「はい。もしそのまま現地に置いて来た場合、助けられたという事実を過信して同じことを繰り返すことになりかねないので。広報部にて事情聴取を行い、タンバさんに記憶操作をしていただきます」

「こりゃ請求量がかさみそうだな……」

「いいカモということで」

「そういう言い方やめません?」

「あ、それから」


 二人がワープしかけた時に、第三部隊の一人が急いで付け足した。


「普段の姿も動画に映っちゃだめですよ! いるはずのない人がそこにいたら、怪しまれちゃいますから!」

「って言っても――」

「ですので……申し訳ございませんっ!」


「え? え、えええ――!」


 こうして飛ばされたのは、なんとビル街の狭間にある小さなゴミ箱の中。あいにく燃えるゴミの日だったのか、生ごみたちと一緒にひしめき合っている。


「なんでこんなことに……制服ぐちゃぐちゃですよ。これじゃあ学校戻れないじゃないですか」

「僕に言うな。僕とて最悪だと思ってる」

「他にもっといい所、あったんじゃないんですか?」

「12秒以内に駆けつけて救助することを計算して、一番人目に付かず隠れておけるのがここだったんだろ」

「なんかジョニィさん、慣れてますね」

「結構大雑把なところあるぞ、第三部隊は」

「かれこれ、何回目です?」

「九回目」

「ご苦労様です」


 ジョニィは携帯を取り出すと、先ほどの生放送を再生した。少女は最期にと何かを話しているようだ。


《まもなく約束の時間になります。最後になりましたが、私は『リミット』です。能力は未来予知。なぜこのような騒動を起こしたかというと、この未来が見えたからです》


「未来予知……? 本当でしょうか……?」

「……」


《クラフトのサイトに何度もアクセスしましたが、彼らは私をクラフトに招き入れてはくれませんでした。だからこの騒動を起こし見つけてもらう必要があるのだと、未来は私にそう教えてくれました。クラフトならば必ず救いに来てくれる。だってクラフトは、リミットの希望の星だから! クラフトの皆さん、どうか私を助けてください。同じリミットであるなら、私を救ってください!》


「リミットだって!未来予知とか言ってる!」

「っ!?」


 突然万寿たちのすぐ近くから声が聞こえてきた。何かがどすん、と上に乗るような衝撃が起こる。それでもジョニィは冷静にしーっと万寿に合図を送っていた。


 ゴミ箱の上に乗っているのは一人の大学生。友達と一緒にこちらも動画を撮っているようだ。


「今、生放送でクラフトに会いたい女子高生が飛び降りると言っているビルのすぐ近くに来ました! 今発覚しましたがあの子もリミットで、未来が見えたからこんな騒動起こしてるらしいです!」

「未来予知出来んなら、クラフトが来るかどうかも予知出来んだろ」

「その先のことは分からないとかじゃねえ?」

「何その中途半端な能力。予知夢みたいな?」

「俺もよくあるよ、あ、これデジャブじゃん! みたいなこと!」

「本物ですかー?」


 彼らはビルの屋上に向かって叫びながら、馬鹿にするように笑い声をあげた。すると少女は突然声を張り上げた。


「このニュースや配信を見ている中に、クラフトはいますか? いたなら、ここに来てください! そして私を止めてください! あと二分! あと二分経てば、私はここから飛び降ります! そしてあなた達のせいで一人の人間が死んでしまいます! あなた達がもし、人を救うリミット集団であるというのなら! 私を止めてください!」

「なんだよ、止めろとか助けてとかさ。死にたくないならすんなよな」


 大学生はそう言って鼻で笑っていたが、いよいよ時が近づくにつれて少女はフェンスから身を乗り出して現場は騒然としてきた。万が一でも巻き込まれてはいけないとその場から逃げていく人。消防や警察は野次馬を蹴散らしながら、彼女へ説得の言葉をかけ続けている。


「ジョニィさん」


 万寿は小声で告げた。


「もしも彼女が本当の能力者で、時を止める能力を持っていたとしたらどうします?」

「……」

「飛び降りた時、彼女の体が止まらず地面に落ちていったら――」

「それはない」


 ジョニィは万寿の声を遮ってはっきりと否定した。


「え……?」

「もしもそうだとしたら、この女はパラドックスであると考えた方がいい。僕たちをおびき寄せて一網打尽にしようとしていると考えるのが正しい。だから、そのまま落ちても死ぬことはない。もし止まらず落ちたなら落ちたところを捕獲しろ」

「なんか声しねえ?」


 ゴミ箱の上が再び揺れた。大学生が飛び降りたのだ。このまま蓋をあけられてしまったなら、ここに隠れていたことがばれてしまう。


「ジョニィさん……!」

「あと十秒」

「言ってられないですよ!」


 十.九.八……。


 カウント共にゴミ箱の扉に手が伸びる。


 五.四.三……。


 扉に手をかけられた時と、少女がフェンスを離した時が一致した。


「今だ」

「はい!」


 時が止まった。万寿とジョニィは能力解放後、開きかけていた扉を跳ねのけて外へと飛び出した。万寿が路地から出て頭上を見上げると、そこには一人の少女が浮いていた。


「ジョニィさん!」


 ジョニィは彼女を抱きかかえると、すぐに合図を送る。


「時間が動き出した瞬間にワープするぞ。隠れろ」

「ジョニィさんは⁉︎」

「屋上の物陰に向かう」

「僕は⁉︎」

「ゴミ箱の中に戻れ。蓋はしっかり押さえとけよ」

「そんなあ!」


 そんなことを言っても迷っていられない。ジョニィが飛び上がるのを合図に、万寿はゴミ箱の中に飛び込んだ。


 時が動き出す。大学生がゴミ箱を開けると、そこには破れて中身をぶちまけるゴミ袋が散乱しているだけであった。

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