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05. 無理難題


「エマ」


「?なんでしょう、エルリア様。」


「これ、私からのプレゼント。受け取って!」



 エマの好感度を後10上げるべく、私は大きな蒼玉(サファイア)が付いた耳飾りを差し出した。

 エマのサラサラのブルーの髪によく映えるだろうと思ってプレゼントしようとしたのだが、エマはこちらを見もせずに、埃叩きで棚の掃除を続ける。



「いえ、それはエルリア様の物ですので、私は受け取れません。それより、ドレッサーのアクセサリーが減っているような気がするのですが…」



 ギクッ。



「…まさか、他のメイドたちにあげているのではありませんよね?」


「そ、そんな訳ないじゃない!」


「これからは、ご自分の物をそう簡単にメイドたちにあげてはなりませんよ。それにここにある物のほとんどは、元は前皇后陛下…、エルリア様のお母上の物でしたから。」


「えっ。」



 それは予想外だった。

 確かに冷遇されてる皇女にしては豪華な装飾品だとかアクセサリーだとかが多いなーとは思ってたけど、元々は母の物だったとは。


 原作で、エルリアの母は回想シーンで少しだけ登場する。

 エルリアは父似だから全く似てないとはいえ、母…イザベラも相当な美女だった。けれど性格に難アリで、メイドだったテオドールの実母を嫌って虐めていた話は有名だ。


 ったく、そのせいでテオドールはエルリアのことを“母を虐めていた女の娘”としか認識してなくて、妹として扱おうとしなかったのよね。


 だから兄が私にずっと会いにこなかったのも、初手から殺そうとしてきたのも、分かる話ではあるのだ。

 はぁ、ほんと勘弁して欲しい。



「うーん…、じゃあエマは私が何をしたら喜んでくれるの?」



 物をあげるのが一番簡単なんだけどなぁ、と思いつつそう聞いてみると、エマは「そうですね…」と少し考えた後、にっこり笑って言った。



「私はエルリア様が笑って暮らせていたら、それが一番の嬉しいのですよ。」



 あぁ、そっか。


 その言葉を聞いて、エマが何を欲しがるのか、不思議とすぐに分かった気がした。



「エマ」


「どうかなさいましたか、エルリア様。」


「エマ、だーい好き。」



 私は、ぎゅっとエマの腰に手を回して抱き締めた。ふわりと柔軟剤の匂いが鼻を掠める。

 それからすぐに、ピロリンと通知音が聞こえた。



《クエストクリア報酬:コイン10枚》



 ……まだまだ道のりは長そうだ。

 けどまぁ、コイン関係なしに、今この状況が報酬みたいなものかな、とエマのエプロンに顔を埋めつつ思うのだった。




 それから一週間。

 一日で二つものクエストをクリアしたのだから、とっくに他の色々なクエストをじゃんじゃんやりまくっている…、訳ではなく。


 二つ目のクエストをクリアして以来、私はこともあろうことかそれから一つもクエストをクリアできていなかった。



「だってさぁ…無理難題すぎるんだよなぁ…」


「え?今何かおっしゃいましたか?」


「こっちの話ー」



 残っているクエストは、



《▶︎冷酷皇帝、テオドール・ヴァーレン・フェザニカに一週間続けて朝の挨拶をしよう!(0/7)

 ▶︎皇帝の右腕、オスカー・アージェンティに可愛いと思われよう!

 ▶︎皇宮の中央庭園に花を植えよう!》



 の三つ。

 兄に一週間朝の挨拶するなんて、下手したら殺されそうだし、皇帝の右腕のオスカー…多分いつも兄の近くにいる黒髪の騎士だ…に可愛いと思われるのも、正直あまり自信がない。

 兄のお気に入りなんだろうし、その兄の前で彼にぶりっ子は厳しい。

 そして皇宮の中央庭園に花を植える、というのは、聞こえは簡単そうだが、おそらく最難関だと思う。


 というのも、中央庭園は元々、兄の実母…ユリアナのお気に入りの場所だったから。


 原作で、すっかり溺愛するようになった主人公と兄とで中央庭園を散歩してる時に思い出話をするシーンがあったから知ってることだけど、ユリアナは花が好きで、当時少年だった兄と一緒に中央庭園に花を植えて育てていたという。

 兄は母が亡くなった今でも、時折母を思い出して一人で中央庭園を訪れるのだ。


 つまりは、中央庭園は兄の母との思い出の大切な場所という訳で。

 母を虐めていた女の娘である私なんて、花を植えるどころか、足を踏み入れたら斬り捨てられそうなものだ。


 どのクエストも私からすると正直命がけだ。

 けどこのままクエストをクリアできなかったらコインも手に入れられない訳で、そうしたら後々原作通りに処刑されるだけ。


 新しいクエストが発生しないか、しばらく待ってみたけど音沙汰はない。おそらく今表示されている全てのクエストをクリアしてからでないと、新しいクエストは発生しないんだろう。


 こうなったら、腹を括るしかない。




「お兄様ぁ!」


「エルリア様っ、お待ちください…!っちょ足速!!」



 翌朝。私は皇宮内の執務室を訪れた。

 後ろから「ほんとに三歳児なんですか?!」とか言いながら、やっと追いついてきたジェーンの姿を確認して、私は一度深呼吸をしてドンドンと執務室の扉を叩いた。



「お兄様!エルリアです、中にいらっしゃるんですよね?!ねぇお兄様ったら〜!」



 絶対に声の震えは伝わらないように。無邪気な、ただ兄を求める幼い少女を演じる。


 これは賭けだ。


 原作で、天真爛漫なヒロインには心を開いた兄。前皇帝はかなりの女好きな上眉目秀麗だったため、相当な数の女がいたことは有名な話で、実際兄妹として登場する三人は皆母親が違う。確かヒロインの母は美しい平民の女性だったとか。


 まぁ私が何が言いたいかと言うと、ヒロインとエルリアは条件が同じだということ。

 異母妹のヒロインが兄に溺愛されたなら、私にもそれは可能なはず…、尤も私の母のことを兄は大層嫌っているから、溺愛はされなくても、妹として扱うくらいはしてくれるはず。


 それに賭けて、私は天真爛漫を地で行く明るく可愛い妹を演じるのだ!



 執務室の扉は固く閉ざされていたが、私が十分近く呼びかけ続けていたら、しばらくして扉がガチャリと開いた。



「皇女殿下、大変恐縮なのですが、皇帝陛下は現在とてもご多忙でございまして…また出直していただいてもよろしいですか?」



 嘘つけ!小説で、この時期は予算の決定とかもし終わって比較的忙しくない時期だって知ってるもんね!

 もうここまできたらとことんやるしかない、私は出てきたおじいちゃん執事の足の間を潜り、執務室に突入した。



「お兄様!」


「…朝から喧しいな。」


 輝くプラチナブロンドの髪に、まるで紅玉(ルビー)のような瞳。加えて、すっと通った高い鼻、完璧なEライン。


 な、なんてイケメンなの!!こんな人が今世の私の兄だなんて…。


 ほぅ…と見とれかけたが、危ない危ない。私が見とれていたら本末転倒だ。


 なんたって、兄の方を私に見とれさせなきゃいけないんだから!顔だけは兄と似ている今世の美貌を最大限に生かして、どうにか「殺すのが惜しいほどには可愛いな…」と思わせなきゃなんないんだから!!



「ジェームズ。皇女のことは追い返せと命じたはずだが。」


「申し訳ありません。皇女様は運動神経が優れていらっしゃるようでして…」


「えへへ、私、最近は強くなろうと思って鍛えているんです!」



 私がそう言うと、兄は深くため息をついて、万年筆を持つ手を止めた。



「皇女が鍛えてどうする。他国か、国内の有力家門へ嫁ぐのが精々お前にできる役目だ。まさか、我が国の役に立ちたいという先日の言葉は嘘だったとでも?」



 確かにそれはそうだ。強いムキムキ皇女なんて、いくら顔が良くても誰も結婚したいなんて思わないだろう。



「私が唯一お役に立てることは政略結婚だなんて、少しも気づきませんでした!さすがは私のお兄様!」


「ふん、嫌味か?まぁいい、ここへは何をしに来た?」


「もちろん、お兄様に朝の挨拶を申し上げようと思って参りました!」



 ドレスの裾をつまみ、右足を少し前に出してお辞儀をし、「朝からご機嫌麗しゅうございます。皇帝陛下に最高神ペルセウスのご加護があらんことを。」と言う。



「お兄様に会いたかったから、挨拶するためにたくさん練習したんです。」



 よし、我ながら完璧。自分に懐いてくるこんなに健気で可愛い妹、嫌いになれないでしょ?



「お兄様に、朝から会えて私は幸せ者です!これで今日も楽しく過ごせそうです、ありがとうございます!では、お邪魔しました!」



 初日はほとんど私の方を見ることはなかったけど、それから朝の挨拶をし始めて一週間経つ頃には、兄の物腰は大分柔らかくなっていた。


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