03. 追加の転生特典
「むきーーー!!信じられない!ほんと信じられない!!せっかくお姫様になれたのに、十八歳までしか生きられないとかどういうこと?!」
私は羽毛が詰まったレースの枕を力一杯壁に向かって投げつける。
金の装飾品に掠ったらしく、派手な音を立てて床に落ちた。
エルリアという名前をゲット!してから数日。私は荒れに荒れていた。
それはそうだよ、“エルリア”と言えば人気小説に登場する超可哀想な脇役としてファンの間でも有名なキャラなんだから!
『聖女の祈りを杯に』、略して聖女杯は、前世になろう系サイトで投稿されたネット小説だ。
家は貧乏だけど心が優しく美しいヒロインが、実は帝国の皇女だったというありがちな設定から入り、最終的には聖女として覚醒したヒロインが主人公と一緒に悪役を倒すという物語。
エルリアはヒロインの異母姉妹で、寡黙で何処か冷たい美貌を持っていたため、作中で天真爛漫で可愛らしいヒロインを際立たせる、所謂引き立て役になっていた。
実の兄である皇帝もヒロインの底抜けの明るさに心を救われ、ヒロインを妹として可愛がり溺愛するようになる。ちなみに、皇帝はもちろんエルリアのことは妹なんて微塵も思ってない。
最終的には、エルリアはヒロインの暗殺未遂の疑いをかけられ、激怒した皇帝に処刑されるという訳だ。
読者からの評価はまさに賛否両論で、流石に皇帝が冷酷すぎるとか、メインキャラ以外が不憫すぎるとか、ヒロインが天然すぎてイライラするとかで好き嫌いが極端に分かれるという感じだった。
私はどハマりした口だけど、それはもちろん一読者だったからであって、自分があのエルリアの立場なら話は全く別である。
「出てきなさいよ、役員のおじさん!見てんでしょ?!なんとか言わないと髪の毛全部毟ってやるから!私のプライドにかけてそうしてやるから!この調子じゃあと十五年後にはそっちに行くんだから、首洗って待ってなさいよ!!」
とにかくイライラして続け様にベッドの上の布団を殴ったりしていると、急に目の前にヴゥンとウィンドウが現れた。何事。
《こちら、死者統括庁転生科窓口です。今回特別なご案内をした方から強いお呼び出しの念が届いたので、参上致しました。ご用件は何でしょう?》
何でしょう、じゃないわよ!ろくに人の話も聞かずに穴に落っことして転生させたくせして、その転生先が小説の可哀想な脇役だって?!
冗談じゃない、前世だって三十歳まで生きられなかったのに、今世は十八歳で殺されるなんて!
《お姫様としての地位があれば他には何も望まない、という話だったはずでは?一応こちらからの他の特典として一際美しい容姿もお付けしたのですが…お気に召しませんでしたか?》
エルリアは作中で絶世の美女だって明かされてたもんね、それはそうでしょうよ。
けどいくらお姫様でも美人でも、早くに死んでちゃ意味ないじゃない!そもそも私はあくまでも私が知る地球におけるお姫様としての立場を望んでたの!
説明しようとしたのにろくに聞かないのも問題だけど、ちゃんと地球外への転生も含まれてるってことを事前にちゃんと説明するべきじゃないの?!
《…(汗)》
《確かにそうですね、それはこちらの落ち度です。》
じゃあ取り敢えず私の寿命伸ばしてよ。
異世界転生とかさせられるんだから、作中の設定ちょちょっと変えるくらい簡単でしょ?
《すみませんが、それは了承しかねます。あくまで私共は死者統括庁なので、生者の寿命や運命に関与することはできないのです。》
え!なら私、このまま十八歳にあの怖い兄から殺されるのを待つしかないの?
《それはあなた次第です。》
そ、そんな自分勝手な…。
《…しかし、今ならこちらからあなたが生き残りやすいよう転生特典を追加することは可能です。成長するにつれてこちらとの繋がりも段々薄れてしまうのですが、あなたはまだ三年ほどしかその世界で歳を重ねていないので。》
別の転生特典ってこと?それってどんな?
《例えば剣術や話術の才能ですとか。けれどその世界の設定や運命を丸々引っくり返すことは基本的に御法度ですので、追加できる特典は一つ二つ程度になります。》
なるほど、生き残る為に必要な能力を特典として選べるってことか。
この世界で必要なもの…神聖力とか?
この世界の人間は基本的に皆固有の魔力を持っているけど、一部例外がいて、魔力の代わりに神聖力を持つ人もいる。限られた少数派だから重宝されるし、何よりヒロインが神聖力を宿した聖女だ。
この世界で神聖力があれば間違いはない。
それとも生き残るには剣術の方がいいかな?いっそ女騎士になるって言うのもありだよね、原作とあんまり関わらなくなるかもしれないし。
…あ、けどそういえば。
この世界で一番役に立つのって意外と神聖力よりも魔法だったりするんだっけ。
神聖力は持ってるだけで重宝されて、浄化とか治癒を中心にできるみたいだけど、魔法は固有魔力とか鍛え方によっては他にも色んなことができるから。浄化は例外だけど。
確かエルリアが生まれつき持ってるのも魔力だし。魔力はほとんどの人が持ってるけど、魔力を扱って魔法ができるのは一部の才能ある人間だけ。エルリアには才能がないから魔法は使えない。
ならその才能を貰っちゃえばよくない?
よし、決めた!特典として望むのは魔法の才能で!
《あ、長く考えていたみたいですけど、ようやく結論が出たんですね。承りました。元々皇族は魔法の才能がある人が多いので、今のあなたに魔法の才能を授けるのは比較的簡単なので助かります。》
比較的簡単って言ったって、私がその才能を開花させるのは簡単ではないんだけどね。
最初から才能開花させるのはダメなの?
《それはさすがにダメです、頑張って自分で努力してください。…と言いたいところですけど、まぁあなたは色々と不満を持っているでしょうし、魔法の腕を磨く手助けくらいの特典ならもう一つつけられますよ。》
えっほんとに?!意外と太っ腹だ、言ってみるものだね。で、何をくれるの?
《こういう連絡ツール以外にもこのウィンドウを開けるようにしておきますから、色々と便利になると思いますよ。まず、ここから自分のレベルやスキルに関して確認できるようになりますし、アイテムの売買も可能です。それと好感度もここから見れます。あ、では私はそろそろ定時なのであがりますね。詳しくは自分で色々いじって確かめてください。それじゃ、お疲れ様です。》
そしてス…といつの間にか目の前のウィンドウは消えていった。
ていうか天界(?)にも定時とかってあるんだ…私は定時になんてあがれたことないのに、なんて羨ましい…!次死んだら死者統括庁に勤められるようにしてもらおうかな。
そんなことを考えているうちに、ふと視界の隅に小さなタブのようなものが現れているのが目に入った。もしかしてさっき言ってたウィンドウだろうか。
ふっと軽く指でスライドしてみると、再びヴゥンとウィンドウのメニューが表示された。
《▶︎ステータス ▶︎アイテム ▶︎クエスト
▶︎好感度 ▶︎情報》
取り敢えずステータスのところをタップしてみる。
《エルリア・ヴァーレン・フェザニカ
▶︎レベル:1/100 ▶︎魔力量:1/100 ▶︎属性:?
▶︎スキル:なし ▶︎体力:1/100》
よっっっっっわ!!!
エルリア(私)弱っっっ!!超雑魚じゃん…これだから作中で取り柄は顔だけみたいな扱いされてたのか…。
これ、十八歳までに自分の身は守れる程度にちゃんと成長できるのかな…?なんか心配になってきたぞ。
そもそも、作中でエルリアが処刑されたのはヒロインの暗殺未遂の疑いをかけられて、それを信じた兄が激怒したからで。
つまり私に必要なのは、処刑されそうになっても執行される前に逃げ切ること。ヒロインが暗殺されそうになった時、すぐに逃げれば余計疑いはされるだろうが、魔法の腕と体力があればきっと逃げ切れるはず。
兄レベルの強さがあれば安心なんだけどなぁ…。
兄、テオドールは魔法の天才だ。炎属性の魔法を自由自在に操り、豊富な魔力量で攻撃されると一溜りもないらしい。
帝国が今でも尚、他国からの侵略を一切許していないのは、皇帝が兄だからこそなんだろう。
そんな兄と半分とは言え血が繋がってるんだからエルリアも魔力量には恵まれてるかと思ったけど、現実はそう甘くないらしい。
100がMAXで1ってほんとに何事?
こんな最弱キャラで生き残れるか心配なところではあるが、とにかくやるしかない。
魔力量は生まれついてのものだからどうしようもないし、まずは体力からだ。体力は言わばHP…HPがなければ生き残れるものも生き残れまい。




