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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第3章 憧れに至る道 (姫愛視点)
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3-28. 護ると言うこと

「姫愛は、安心すると手を抜くタイプ?」

陽夏に指摘されてしまった。

「そうかも知れない」

「私、盾使うの止めよっかな」

「お願いだから、それは止めて」

私は焦った。これ以上プレッシャーを掛けられても辛い。陽夏には、何とか思い留まって欲しいと思った。

「じゃあ、止めるけど、姫愛は私が盾を持っていない想定で戦ってよ」

「うん、頑張る」

不味い、このままの状態が続くと、陽夏は本当に盾を捨てかねない。私は戦い方を変えることにした。

もう一度だけと二体の魔獣がいるところに行き、防御障壁を張りつつも、今度はどちらも自分の方に引き付けるようにする。一方を剣で攻撃しながら、もう一方には光弾を放った。陽夏に攻撃が行くくらいなら、自分が攻撃を受けた方がマシと考えた。

思惑通りではあったが、双方からの攻撃を凌ぎながら戦うのは大変だった。身体強化と探知と剣と光弾と転移と浮遊と、持っているもの全てを投じて二体と戦い続けて、何とか勝利した。陽夏の前に張った防御障壁は破られずに済んだ。

「今回はどう?防御障壁は破られずに済んだけど」

「そうね、一歩前進したね。偉いよ、姫愛」

それまで厳しかった陽夏が褒めてくれて嬉しかった。

「でも、二体相手にこれだけ手間が掛かってしまったところはまだまだかな。気合が足りないのかもね」

「気合い?」

「ここでお前を斃して絶対後ろには行かせないぞ、っていう気迫というか、決意というか、そんなものかな?後ろにいる人たちを護るために、ここで止めるぞ、みたいな気持ち?」

そうか、戦っている最中は、どうしても魔獣を斃す方に頭が行ってしまうけど、護ることを意識しないといけないのかも知れない。

「もう一回、二体相手でやってみる」

私は陽夏とともに、次の魔獣のところに向かう。

今度の戦いでは、陽夏と防御障壁と魔獣二体の位置関係を常に意識しながら、陽夏の方に魔獣を行かせないように戦ってみた。そうした方が、何となく攻撃力が上がるような気がした。

そして二体を斃すと、そろそろ三体に行こうと陽夏に言われた。

「二体も三体もやることは同じだからさ」

危険度が増す筈の陽夏からそう言われては仕方がないので、今度は三体で群れているところに向かった。

やることは同じ、ともかく、陽夏と防御障壁に魔獣三体が近づかないように全力を尽くすだけ。魔獣をどう攻撃するかではなく、防御障壁に一番近いものから斃すか遠ざけるかするしかない。私は、ともかく防御障壁に近づけてなるものかと、身体強化か転移で移動しながら、剣あるいは光弾で攻撃し続けた。私は三体の攻撃にさらされながら、必死になって戦い続けていたら、気が付いたときには三体とも斃していた。

「姫愛、できたじゃない。それに前より強くなっている気がする」

「そう?陽夏、ありがとう。でも、疲れた。体力は力で何とかなるけど、精神的に辛いね」

「でも、その緊張感が、姫愛を強くしたんじゃないかな」

「私、強くなっているのかな?」

「なっているって、自信持ちなよ」

「うん」

とは言ったものの、そんなにすぐに自信が付くわけでもなく、私は再度魔獣が三体いるところを探し、そちらに向かった。

次の三体は、イノシシのような魔獣だった。突進攻撃をしてくるこの魔獣を先に通さないと言うのは私には難しい話だったが、敵の選り好みはしていられないし、通してしまえば陽夏が傷付くと思うと、腹を括るしかなかった。

イノシシのような魔獣は、ここのところ突進を避けて背中側から攻めていたが、それだと時間が掛かり、次の魔獣を通してしまうことになってしまう。なので、正面から攻めるしかなかった。私は絶対に後ろに通さないと強く決意し、構えた剣に力を乗せて魔獣を迎え撃つ準備をした。私の心に呼応したのか、剣の輝きが前より強くなっている。

魔獣が三体並んで突進してくる。自分から右の方が手前にいるので、まずその魔獣に狙いを定め、敵の牙を避けながら剣を顔面に突き刺した。その反動から、きっちり刺せたという手応えを感じたので、私は剣を引き抜きながら回転し、その勢いのまま隣を走ってきた魔獣の鼻っ柱に剣を叩きつける。その向こう側でもう一体が駆け抜けようとしていたので、柚葉ちゃんが撃っていた小さいが強力な光弾をイメージして光弾陣を左手の先で描き、急いで、しかし最大限に力を籠め、一番防御が弱そうな目を狙って撃った。その光弾は思い描いた通りのスピードで魔獣の横方向から目を打ち抜き、魔獣はそこで体勢を崩して倒れた。

「凄い、姫愛できたじゃない」

陽夏の称賛を受けたが、私は精神的に疲労困憊だった。

「も、もう駄目だよ陽夏。心が疲れたよ」

「何言っているの。いまの感覚を忘れないうちに次をやらないと、また元に戻ってやり直しになっちゃうよ」

確かに、それは一理ある。また一からやり直しは辛すぎる。

「分かった。もう少し頑張るよ」

私にも段々分かってきた気がする。巫女の力は、ただ強くなりたいと思って強くなるものではないのだ。自分が後ろに庇っている普通の人々にとっての最後の砦、自分を超えられたら普通の人々に危害を加えられてしまうという危機感と、だからこそ自分から後ろに行かせないという覚悟の強さが、自分を強くしてくれるのだと。巫女の力が護りの力という、その本質の一端を理解できたような気がした。

「それじゃ、次、第三層に行こう」

しかし、陽夏のその積極性は何処から出てくるのだろう。



第三層は、群れている魔獣の数が増えている。第二層では見られた単独の魔獣はほとんどなく、三~四体の群れが多いが、中にはもっと多いのもある。

「姫愛、四体以上の群れね」

まずは三体の群れからと思っていた私の考えを見透かすかのように、陽夏の指示が飛んできた。

「何度も言うけど、陽夏が危ないんだよ」

「でも、そうじゃないと、姫愛は本気にならないでしょ」

うう、まあ、そうかも知れないんだけど。

「もう数が増えたら、いくつでも一緒だよ。最初にどれだけ先制攻撃で斃せるかだから」

「陽夏は簡単に言ってくれるなぁ」

私は四体の群れを見つけ、近づいて行った。陽夏の言う通り、先制が肝だからと覚悟を決めて、一体目の魔獣の目の前に転移し、力を乗せた剣を振り下ろす。

「次」

確かな手応えを感じたあと、近くにいた二体目を次の目標に定め、今度は剣を水平に振るう。

「そっちには行かせない」

私が二体目を攻撃している隙に、一体が陽夏の方に向かおうとしていた。私は二体目から剣を引き抜くと、その一体の前方に転移して迎え撃つ。陽夏に手出しはさせないと思うと、力が湧いて来る。その力を剣に込めて三体目を斬り倒し、そのまま最後の一体に近づいて同じように剣の餌食にした。

「姫愛、分かってきたみたいじゃない」

「うん、まあ、何とか力を出せるようになってきたみたい。陽夏のお蔭だよ」

「その調子でどんどん行こう」

私は、斃した四体を転送すると、次のターゲットとして四体の群れを定め、そちらの方に行こうとした。

「姫愛、次は五体で」

陽夏の言葉で立ち止まり、声のした方に振り向くと、陽夏はニコニコした笑顔で応えた。私は溜息をついて五体の群れを探し、そちらに向けて方向転換した。陽夏は常に私を追い詰めたいらしい。

とは言え、五体の群れもそれほど苦労することなく撃破できた。しかし、陽夏の要求はさらに上がるだろうし、気を抜いて失敗してしまうと陽夏が危険になるので、ここで慢心しないようにと自分を戒めた。

「もう数だけ増えても問題ないでしょ?第四層に行こう」

「ごめん、流石にまだちょっと。この層でもう少し大きな群れをもう一回やらせて」

「まあ、仕方がないけど、良いよ」

私は七体の群れを見つけて攻撃し、失敗することなくすべてを斃すことができた。

「姫愛、満足した?統率の取れていない群れは、数が多くてもそれほど脅威じゃないよ」

「そうみたいだね。分かった気がする」

そして私たちは第四層に足を踏み入れた。


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