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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第3章 憧れに至る道 (姫愛視点)
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3-12. 力の使い方

柚葉ちゃんから力の使い方をレクチャーしてもらう約束を取り付けたものの、残念ながら、その週末は仕事だった。なので、最初にレクチャーを受けたのは月曜日の放課後だった。

「柚葉ちゃん、ごめんね。何か、部活動の皆を差し置いて、私だけマンツーマンで指導受けるような形になってしまって」

「まあ、良いですよ。皆には清華が付いていますし、問題ないです」

私たちは部室で着替えた後、木剣と盾を持って出ようとしたら、柚葉ちゃんに呼び止められた。

「愛子さん、木剣と盾はここに置いていってください」

「じゃあ、武器はどうしたら良いの?」

「そこの剣で」

「訓練じゃないの?」

「訓練ですよ。でも、実践的な方が上達が早いですから」

訓練で剣を使うなんて大丈夫なのかと思ったが、柚葉ちゃんが教官なのだから言う通りにして、剣だけ持って校舎の裏手に出た。部の他の人たちが訓練やっているところから少し距離を取って、柔軟などの準備を始める。

「愛子さん、始める前に、ジャージの上を脱いでください」

「え?何で?」

「訓練するのにジャージ着ていると邪魔なので」

まあ、寒い訳ではないから脱ぐのは構わないのだけど、どうしてだろう。ともかく、ジャージの上を脱いだ。

「柚葉ちゃん、脱いだよ。それで、今日は何を教えてくれるの?」

「基本として押さえておかないといけない防御障壁、治癒と探知あたりを」

確かに基本っぽい。

「一番簡単なところで治癒からですが」

柚葉ちゃんは、勿体ぶったように間をおいてから後を続けた。

「治癒するには、まず怪我してもらわないといけないですね」

「嫌じゃ」

「そうですか、では次に行きましょう。どうせそのうち怪我すると思いますので」

何だその不吉な予言は。

「次は防御障壁です。簡単には盾の代わりです」

なるほど、だから盾が不要だったのか。納得。

「防御障壁なんですが、大きくは二つのパターンがあって、一つは盾のようにある大きさと形を持った障壁を張る方法、もう一つは体に沿って障壁を張る方法です。両方併用しても良いです。分かりましたか?」

「分かったと思うけど」

「じゃあ、やってみてください」

私は右手を前に出して防御障壁を張ってみた。右手の前に、薄い銀色の膜の壁ができた。

「どう?」

「できてますね。でも、右手は剣を持つ方の手ですよね?なので左手も練習しましょう」

今度は左手を前に出して防御障壁を張った。

「こちらも大丈夫ですね。じゃあ、どれくらいの強度かを見てみましょうか」

「?」

柚葉ちゃんは脇に置いてあった剣を取り、頭の上から振り下ろした。剣は、防御障壁を破って、私の左腕に当たって止まった。

「イッターイ!! ちょっとちょっと柚葉ちゃん、血だよ血、それに痛いよー」

「はい、愛子さん、慌てないで、痛いところに力を集めて治癒して」

痛いので集中できないんだけど、放っておくと大変なことになるので、頑張って力を集めて治癒するように念じた。すると、段々と痛みが引いて来た。おお、治るんだ。

「な、何とか治したけど」

「できましたね。愛子さん、筋良いんじゃないですか」

「褒められても痛いのは勘弁だよ」

「これで分かったと思うんですが、怪我をしてから力を集めるのは大変なので、戦うときは予め体中に力を巡らしておくんです。そうすれば、あとは念じるだけで済むので。それに力を巡らしておけば、好きな時に好きな位置で身体強化や防御障壁も張れますからね」

「いや、そういうことは、痛いことする前に言って欲しいんだけど」

「それじゃあ、いま言ったから、もう一度やります」

「えー、勘弁してくださいよ、お師匠様」

「だったら、いきなり実践で魔獣にボコボコにされても良いってことですか?」

「うう、そんな言い方はないですよぅ」

私は半泣きで地団駄を踏みながらごねたが、柚葉ちゃんは容赦がなかった。仕方なく言われた通りに体中に力を巡らしながら、防御障壁を張る。

「そうそう、血が出た時は、治癒の前に止血を先にしてください。出血量は少ない方が良いので」

え、まさか、それ先に言ったから良いでしょ、というつもりでは。

そんな私の思いにはお構いなしに、柚葉ちゃんが再度剣を振り上げる。もう痛いのは嫌なので、懸命に防御障壁を強くするとともに、体に力を巡らして身体強化しながら治癒にも備えた。

そして、柚葉ちゃんが剣を振り下ろすと、今度は防御障壁で剣が止まった。必死になったのが良かったらしい。

「やりましたよ、お師匠様。防御障壁で攻撃を防げました」

「そうですね。まあ、これくらいは防いで貰わないと困りますが」

柚葉ちゃんは一旦防御障壁から離れると、もう一度剣を振りかぶった。ん?何か剣の先が少し輝いているようだけど。

「愛子さん、今度はもう少し強く行きますから、覚悟してくださいね」

「え?待って」

柚葉ちゃんは、待ってくれなかった。剣は防御障壁を割り、左腕に当たって止まった。まずは止血と痛み止めをやった。確かに力を巡らしてあると対応が早くできたし、痛むのも短く済んだ。でも、痛いのは痛い。

柚葉ちゃんが剣を私の左手から外すと、私はすかさず治癒をした。

「二回目なのに、随分と上達しましたね。やっぱり、実践的にやると気合の入り方が違いますね」

「その、上達するのは嬉しいのですけど、もうちょっと優しい方法はないでしょうかね、お師匠様」

「うーん、結局は実践あるのみだし、優しくってのは時間が掛かるだけで、結局同じですよ」

「そうですか。まあ、そうかも知れないけど」

文字通り歯を食いしばって付いて行くしかないのかな。

「じゃあ、あと何回かやってみましょう。そうそう、目は逸らしちゃ駄目ですからね」

「はい、お師匠様」

私は痛みを堪えながら、目を逸らさずに、柚葉ちゃんの打ち込みに耐えた。結局、それ以降は防御障壁で柚葉ちゃんの打ち込みを防ぐことができなかった。なので、毎回痛い思いをしたけど、回数をこなすほど治癒の対応が上達している実感はあった。それだけが心の支えだ。でも、良い子は、こんな訓練絶対にやっちゃいけないと思う。


そうして、防御障壁を張るのと、治癒するのに慣れたころ、柚葉ちゃんの訓練が次に移った。

「それでは、次は探知の訓練をします」

「はい」

「探知には近接探知と遠隔探知があるのは知ってますか?」

「いいえ」

「まずは、それぞれのやり方を教えます」

それから私は近接探知と遠隔探知のやり方を教わった。近接探知は自分中心に相手の位置や動きを測り、遠隔探知は頭の描いた地図の中に見つけたものをプロットするようなものだった。

「探知の仕方は覚えましたね」

「うん、大体覚えられた」

「では、実際にやってみましょう」

え、実際にとか言ったよ。嫌な予感しかしない。

柚葉ちゃんは、短パンのポケットからアイマスクを取り出した。

「はい、愛子さん、これ付けて」

「お師匠様、これってアイマスクだよね?」

「そうですね」

「アイマスクすると見えなくなるよね?」

「そうですね」

「その状態で、お師匠様の剣を受けろとか言わないよね?」

「あら、愛子さん、やろうとしていることが良く分かりましたね」

「やっぱり、やるのね」

「やらないと上達しませんからね」

そうですよね。分かっていましたよ。私はアイマスクを付けて、攻撃に備えて体中に力を巡らし、さらに探知に集中した。

柚葉ちゃんも流石に最初は私の前の方で左右に移動しながら打ち込みをする程度にしてくれていたけど、私が慣れるにしたがって、色んな方角から攻めてくるようになった。私はともかく必死で柚葉ちゃんの位置の把握に努め、剣を打ってくる方向を見極め、防御障壁を張り、怪我をする端から治癒することを繰り返した。繰り返すけど、良い子はこんな訓練はしてはいけない。というか巫女じゃなければ、ヤバいよ、これ。

そんなこんな言っても、集中力の賜物か、上達は早かったと思う。何十回か受けるうちにほぼ確実に防御障壁で受けられるようになった。防御障壁で受けられているってことは、力いっぱいの打ち込みではないってことなんだと思う。その辺りは手加減してくれている。

と油断していたら、防御障壁だけでは受けきれなくなったし。でも大丈夫。まあ、私も柚葉ちゃんのパターンに慣れて来たってことかな。

「うん、大体こんなところですかね」

柚葉ちゃんの声色が満足そうに聞こえる。

「じゃあ、このまま戸山ダンジョンまで歩いていきましょう、と言いたいところですが、愛子さんは普通の人の設定なので、普通の人の装備を持ってダンジョンに行きましょう」

私は脱いでいたジャージの上を羽織った。柚葉ちゃんがジャージの上を脱がせたのって、どう考えても怪我させる前提だったとしか思えないけど、そう指摘するときっとしらばっくれることだろう。ダンジョンに向かうので、ライトの付いたヘルメットも被った。

「そう言えば、ここで防御障壁とか出しちゃっていて良かったの?私が巫女だってことは内緒だよね?」

「皆には、愛子さんとは手品の練習するからと言っておいたので、問題ないです」

え?なにそれ、無茶苦茶雑な設定じゃない?


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