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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第3章 憧れに至る道 (姫愛視点)
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3-5. B級ライセンス取得に向けて

「愛子さん、いらっしゃいませ」

喫茶店の中に入ると、いつものように琴音さんの声に出迎えられた。

「こんにちは」

挨拶しながら店内を見ると、案の定、カウンターにあの子がいた。あ、でも一人じゃない。もう一人居る。

「こんにちは、柚葉ちゃん」

私は柚葉ちゃんの隣に座りつつ、声を掛けた。

「こんにちは、愛子さん」

柚葉ちゃんは、私に向かって微笑んだ。

「柚葉ちゃん、お隣は?前に一緒にいた子かな?」

「ああ、そうです。こちらは清華」

そこで柚葉ちゃんは清華ちゃんの方を向いた。

「清華、こちらは愛子さん」

「愛子さん、初めまして。東護院清華です」

「清華ちゃんね。初めまして。これからよろしくね」

「はい。愛子さん、よろしくお願いします」

清華との挨拶が終わると、愛子さんは私の方を見た。

「柚葉ちゃんの言う通りになったよ。凄いね、どうして分かったの?」

「情報を手に入れたので。でも、詳細は秘密です」

柚葉ちゃんは笑っていたけど、それ以上は教えてくれそうもなかった。

「愛子さん、注文はどうされますか?」

おっと、そうだった。琴音さんから笑顔のプレッシャーが来てしまった。

「琴音さん、いつものキリマンジャロで。今夜のパスタは何ですか?」

「牛ほほ肉のスパゲッティになります」

「うん、美味しそうね。それ一人前で」

「ありがとうございます」

これで注文は終わった。

「それで愛子さん、どうなったんですか?」

私は柚葉ちゃんに返事をしようと思ったけど、陽夏に強く止められていたことを辛うじて思い出して、話すのを思いとどまった。

「それがね、言えないんだよね」

私が口ごもるのを見て、柚葉ちゃんは察したようだった。そして思案顔になったが、何かを決めたらしく、カウンターの中にいた琴音さんに呼び掛けた。

「琴音さん、お願いなのですけど」

「なあに?」

琴音さんはパスタを茹で始めて、調理台の前に移動しようかというところで、柚葉ちゃんの方を向いた。

「あの、二階の部屋を使わせて貰えませんか?」

そう言われて琴音さんも気付いたらしい。直ぐに笑顔になって柚葉ちゃんに返事をした。

「良いですよ。私は手が離せませんから、三人で二階に行ってらっしゃいな」

「琴音さん、ありがとう」

「どういたしまして」

柚葉ちゃんは席から立ち上がると、私の腕を引っ張った。

「愛子さん、一緒に二階に行きましょう」

私は柚葉ちゃんに連れられて、カウンターの裏側から店の奥に入った。そして、そこから階段を上って二階行き、一番近くの部屋に入ると、そこはリビングのようだった。

「愛子さん、そちらにどうぞ」

柚葉ちゃんに勧められるまま、私はソファに座った。柚葉ちゃんは私の目の前のソファに、そして清華ちゃんはその隣のソファに座っていた。

私がここからどういう話になるのだろうかと思っていたら、柚葉ちゃんが口を開いた。

「愛子さん、ここなら話をしても大丈夫です。それで、昨日のことが話せないというのは、誰かに口止めされたということですね?誰です?」

「うっ」

柚葉ちゃん、鋭いなぁ。それに何かとても貫禄を感じてしまうのは何故?相手は高校生の筈なのに。

「あの白銀の巫女ですか?」

「いや、彼女は口止めしてなかったよ」

「そうですか、では愛子さんの身の回り人ですね。お友達、いや、親友ですか?」

何かどんどん追い詰められている気がするのは気のせいだろうか?

「そのう、仕事仲間というか、仕事上の相棒というか」

「相棒さんですか、なるほど。でも、その相棒さんの判断はとても正しいです」

「黎明殿の巫女のことは他の人の前では絶対に話すなって言ってたんだけど」

柚葉ちゃんの眉毛が持ち上がったような気がした。

「へーえ、黎明殿の巫女って言ったんですか」

「え?柚葉ちゃん、何か怒ってる?」

「怒っていませんよ。感心していただけです。その相棒さんの見立てには私も賛成ですので。その話、相棒さんや私達以外に言っては駄目ですし、その私達に対しても安全なところ以外では話しては駄目ですよ」

「似たようなこと相棒にも言われた」

「それが普通に正しいことなんです。それで、そろそろ昨日の話をしてくれますよね?」

柚葉ちゃんが話を催促してきた。ここまで陽夏と同じことを言われたら、柚葉ちゃんのことも信じられると思った。そして私は昨日渋谷であったことを、一通り柚葉ちゃん達に話した。

「それでね、ダンジョン探索ライセンスのB級を取れば、アーネが私を強くして仲間にしてくれるって」

「ふーん、そうなんですね」

柚葉ちゃんは、思案顔になった。

「柚葉ちゃん、どうかしたの?」

「いえ、何でもないです。それで、B級のライセンス取るんですよね?」

「勿論だよ。今日、講習受けて、C級のライセンスは、手に入れたよ」

「早いですね」

私の行動の早さに吃驚したらしい。

「思い立ったが吉日って言うからね」

「まあ確かに。それで、どうやってB級になるんです?」

「いやぁ、それが問題で、どうしたら良いかが分からないんだよね」

私は腕を組んで、溜め息をついた。この先について、まったく知恵が思い浮かばないからだ。

そのとき、琴音さんが部屋に入ってきた。

「愛子さんに注文していただいたものを持ってきたのですけれど、私が入ったらお邪魔ですか?」

「いえ、問題ないです」

柚葉ちゃんが答えていた。

「それなら良かったです。はい、愛子さん、ご注文のキリマンジャロです。それからこちらはスパゲッティのサラダになります」

「あ、琴音さん、ありがとう」

愛子さんは、私の前にコーヒーとサラダの皿を置いてくれた。

「パスタが出来たら持って来ますね」

琴音さんは、そう言い置いて、階下のお店に戻っていった。

私はコーヒーカップを持って、一口啜る。うーん、ここの珈琲はやっぱり美味しいなぁ。でもなぁ、B級ライセンスの取得は、どうするかなぁ。

「愛子さん、悩ましげですね」

「そりゃ、どうしたら分からないからねぇ」

珈琲を飲みながら、ウンウン唸っている私を眺めている柚葉ちゃんと清華ちゃんは何だか楽しそうだ。

「ん?柚葉ちゃん達、何?私が悩んでいるのがそんなに楽しいの?」

私は少し怒った風に言ったつもりだったんだけど、二人は何だか益々楽しそうな反応になっている。

「いや、愛子さん、いつになったら気が付くかなって思って」

柚葉ちゃんが笑い出しそうになっている。

「え?何に?」

私は相変わらず何のことだか分からない。

「愛子さんにこの前話したじゃないですか。私達、ダンジョンに入っているって」

「あ、ああ、そう言えば、そう言ってたね。何?柚葉ちゃん達がB級になれるように教えてくれるってこと?」

まだ何を言われているのか分かり切らずに、戸惑った顔をして柚葉ちゃんを見たら、柚葉ちゃんは笑っていた。

「良いですよ、愛子さんの相談に乗りますよ。ねえ、清華?」

「そうですね」

清華ちゃんも微笑んでいた。

「ありがとう、柚葉ちゃん、清華ちゃん」

私は、柚葉ちゃん達の手を強く握って感謝の意を示した。

「それでどうしたら良いの?」

「そうですね。私達の部活動は放課後ですけど、放課後に学校に来られる日ってあります?」

「月曜日と火曜日は行けると思う。水曜日は仕事が終わった時間次第かな」

「分かりました。校内に入る許可を取るので、月曜日の放課後に学校に来てください」

「柚葉ちゃん達の学校って、山手線の内側だっけ?」

「そうです、督黎学園です。分かります?」

「うん、分かると思う。あと、チャットのアドレス交換もしてくれる?」

「良いですよ」

私は柚葉ちゃん達とチャットだけでなく電話番号などの交換もした。

「学校に来るときは、動き易くて汚れても問題のない服を持ってきてくださいね。訓練などでどうしても汚れてしまうので」

「分かった。他には何か持っていくものはある?」

「あとは学校にあるもので大丈夫と思うので。もちろん、ライセンス証はダンジョンに入るときに必要になるので、忘れないでくださいよ」

「勿論だよ」

私は柚葉ちゃんと約束した。これで頑張ればB級ライセンスが取れると思うと、踊り出したい気分だった。

「あら、愛子さん、嬉しそうね。はい、ご注文のスパゲッティです」

琴音さんが再びやってきて、スパゲッティを出してくれた。そして他のお客様のオーダーがあるからと、また直ぐにお店の方に戻っていった。私が二階に来たばかりに手間を掛けさせてしまって申し訳ない。もっとも、連れて来たのは柚葉ちゃんなんだ。私が悪いんじゃない。

私は気を取り直すと、フォークとスプーンを持ってスパゲッティのお皿に向かう。ライセンスのB級が取れた後のことを考えて楽しい気分で食べたスパゲッティは、とても美味しかった。

「あ、そうそう、愛子さん、白銀の巫女が黎明殿の巫女みたいだなんて外で言っては駄目ですよ」

「え?」

「黎明殿本部は、まだ白銀の巫女が黎明殿の巫女だと認めていませんから。愛子さんも十分注意してくださいね」

「はい」

柚葉ちゃんに釘を刺されてしまった。高校生の方が私より大人に見えるのだけど何故?


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