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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-34. 見極めの訓練

有麗さんの声を受けて、私も木剣を構えました。

「それじゃ、最初に思いっきり身体強化を掛けて打ち込んできて」

「いきなりですか?」

「まずは今の清華ちゃんの力量を確認したいから。どんなに強く来ても大丈夫よ」

どこからそこまでの自信が出てくるのか分かりませんが、大丈夫と言うのだから大丈夫なのでしょう。

「分かりました。行きます」

私は半ば自棄になって身体強化を最大限まで掛けて、右から打ち込み、受けられるや直ぐに左から打ち込み、正面から突き、右から、下から、とにかく間断無く打ち込み続けました。しかし、私の打ち込みは尽く有麗さんに受けられ、あるいは受け流されてしまいます。それに大きく動くこと無く、ほぼ剣の位置を変えるだけで対処されています。

「うん、大体わかった」

有麗さんは、私の打ち込んだ木剣を、木剣を持っていない左手で掴み、止めました。

「全然通じませんね」

私は柚葉さんと打ち合ったときと同様の敗北感を味わいながら、剣を下ろしました。

「まあ、仕方のないところもあるけど、まだまだ伸びしろはあるから。元気出しなさいよ」

「本当ですか?」

「本当だって。教えてあげるから。だけど、その前に受けの方も試させて貰うよ。身体強化を掛けて構えて」

私は有麗さんに言われるまま、身体強化を掛け、木剣を上げて構えました。

「じゃあ、最初は普通に行くから」

有麗さんが打ち込んできます。右に左に向きを変えながら重い打撃が落ちてきます。南の封印の地で訓練するときの身体強化を掛けたお母様と同じくらいの感覚です。

「これは余裕みたいね」

有麗さんは打ち込むのを止めて、木剣を下ろしました。

「お母様と訓練する時はこれくらいなので」

「これが力の使い方のレベル1だってことは知ってる?」

「はい、身体強化と防御障壁を使って、守り中心に戦うのですよね?人を相手にするときは、レベル1までにしなければならないと教えられました」

「次の段階のことも?」

「レベル2ですよね。力の刃や近接の攻撃技は使っても良い。人目のあるところで魔獣と戦うときはレベル2までだと」

「そう。だけど、その間にもレベルがあるってことは聞いたことがある?」

「いえ、ありません。あるのですか?」

「あるのよ。レベル1.5、あるいはレベル1プラス。身体強化のレベルを上げる」

有麗さんがドヤ顔してます。

「清華ちゃん、良い?試しに打ち込んでみるから受けてみて」

「やってみます」

私が木剣を体の前に構えると、有麗さんは木剣を上段に構えます。

「行くよ」

声とともに木剣が落ちて来た筈なのですが、私の目では捉えられませんでした。気が付いたら、有麗さんの木剣は私の肩に当たって止まっていました。防御障壁も張っていましたけど、衝撃の余韻が肩に残っています。

「太刀筋が見えませんでした」

私は木剣を下ろして、がっくりと項垂れました。

「レベル1.5は、普通に視力で何とかするには限界があるのよ。だから、まずそれを何とかするのが先決ね」

「方法があるのですか?」

「あるから、元気出しなって」

そして、有麗さんは左手を短パンのポケットに手を入れました。

「じゃーん、これが清華ちゃん用の訓練用具です」

ポケットから取り出して左手には、黒い布のようなものを持っていました。

「それは何ですか?」

「目隠し」

「これからどこかの秘密基地に連れて行ってくれるんですか?」

「違うから、ミステリーツアーとかじゃないから」

有麗さんは少しげんなりしたような顔をしました。けれど、直ぐに立ち直ったようです。

「清華ちゃん、四の五の言わずに目隠しするのよ」

「分かりました」

私は大人しく指示に従い目隠しをしました。

「それで、清華ちゃんは近接探知はできるのよね?」

「できます」

「私の位置は分かるわね?」

「分かります」

「剣先の位置は分かる?」

「大雑把には」

「じゃあ、剣を構えて受けてみて」

私が木剣を構えると、有麗さんが木剣を振り下ろしてきましたので、持っていた木剣を横にして受けます。

「そう、そんな感じ。繰り返すから、全部受けてね」

有麗さんは、さらに打ち込んできました。右に左に、有麗さんは自分の位置も変えつつ、打ち込む傾きも変えてきます。そして、それを何度も何度も繰り返しました。

「良い?力の感覚を研ぎ澄まして、剣の形がしっかり分かるようにするのよ。これから段々速くするから追い付いて来て」

その言葉の通り、繰り返される打ち込みの速度が段々と上がっていきます。

私は有麗さんの木剣の形を捉え続けるようにして、打ち込みの位置とタイミングを測り、手にした木剣で受けていきます。

「うん、その調子。正確に受けられるようになってきているし、剣の振りが速くても対応できてるわね」

有麗さんは喋りながらも、打ち込みの手は休めずに繰り返しています。

「どう、剣の形は見えて来た?」

「前よりはハッキリしてきましたが、輪郭はまだぼやけています」

私は有麗さんの打ち込みを受けながら答えました。

「そう。でもまあ、形が見えてきているなら、そろそろいけるわね。もっと速くするわよ」

有麗さんの打ち込みのスピードがさらに上がっていきます。身体強化しても体の動きが追い付かなくなってきたので、なるべく動かずに済むようコンパクトに立ち回るようにして、ギリギリのところで有麗さんの打ち込みを対処するようにしました。

しかし、それでもなお有麗さんの打ち込みのスピードが上がり続け、ついには木剣で受けられなくなってしまいました。

私の対応速度が限界に達したところで、有麗さんは打ち込みを止めて木剣を下ろしました。

「こんなところかしらね。レベル1.5までは行けてなくてレベル1.3くらいのところだけど、最初にしては良くできたと思うわ。あ、治癒は使わない方が良いわよ。体が強くならないから」

剣筋を見極めて体を限界まで動かして打ち込みを受けるのに精一杯で、治癒を使う暇もなく疲労困憊なのですが、ここで治癒を使うなと言いますか。

「鬼ですね」

思わず、心の中の言葉が口を突いて出て来てしまいました。

「何言っているの、貴女のためだから。対応速度を上げるには、もう少し筋力を付けた方が良いのよ」

「筋肉ムキムキになったりしませんか?」

「そこまでは求めていないから。まあ、加減は自分で考えてみて」

「分かりました。そうします」

「それと近接探知ももっと磨いた方が良いわよ。その目隠しは貸してあげるから、日頃から出来るだけ目隠しして過ごすようにしてね」

「でも、目隠しのまま学校に行くのは恥ずかしいんですけれど」

「いや、だから、誰もそうしろとは言っていないわよね。とは言っても、その気になれば本に印刷されている文字も、パソコンの画面も近接探知で見えるようになるわよ。そっちはどれだけ鍛えても筋肉ムキムキにはならないから良いんじゃない?」

どうも先程のボケを気にされていたようです。ですけど、近接探知は物の形だけしか分からないと思っていたのに、色も分かるようになるとは思っていませんでした。奥が深いです。

「そうですね、取り敢えずは打ち合いで使えるレベルを目指します」

有麗さんは、ウンウンと頷いていました。

「さて、受ける方は良いとして、今度は攻める方策の方ね」

「よろしくお願いします」

「うん、任せて。と言っても筋力上げて対応できるようにすれば、ある程度は解決する筈なのよね。と言ってもそれだけでは心許ないから教えるけど、体に負担が掛かるから多用するのは避けた方が良いわよ」

「はい、それでどうすれば?」

「分かった分かった、教えるから。でも、その前に目隠しを外した方が良いわ」

私は目隠しを外し、有麗さんから一つの方策を授かりました。


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