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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-33. 隠された扉

有麗さんと私の間にしばし沈黙の時が流れました。すみません、私にはこの場をフォローするための良い言葉が思いつきません。

私が途方に暮れているのが分かったのか、有麗さんが助け舟を出してくれました。

「あー、ごめん。そんなこと言われても清華ちゃんも困っちゃうよね」

そうした言葉にも同意して良いのか分からなくて、私は有麗さんをただじっと見つめることしかできませんでした。

そしたら、有麗さんは私の頭を手でポンポンと叩きながら儚げな笑みを浮かべました。

「清華ちゃん、大丈夫だから。自分で立ち直れるから心配しないで。気を遣わせちゃったわね」

「いえ」

私の方こそごめんなさい。何の気の利いたことも言えなくて。

「じゃあ、今の話のことはサラッと忘れて貰って、清華ちゃんが調べていたことを聞きたいのだけど、何を調べてたの?」

あんな重たい話をサラッとは忘れられないのですが、引きずっていても誰も幸せにならないので、私も有麗さんの話題の切り替えに乗ることにしました。

「有麗さんは『白銀の巫女』のこと聞いたことがありますか?」

「あるよ。ファンサイトのコメントでも読んだかな」

「その巫女のことを調べているのですけれど、有麗さんは何か知っていますか?」

「動画も見たことあるよ。顔は良く分からなかったけど、巫女っぽかったよね」

「本部の巫女ではないのですね?」

「遠目の映像でしか見たことないから良く分からなかった」

「写真ならありますよ」

私はスマホに保存していた写真を表示して有麗さんに見せました。

「この人なのですけれど」

「本部の巫女ではないね」

元々本部の巫女のデータベースとは一致しないと言われていたので、本部の巫女ではないだろうとは思っていました。でも、もしかしたらという気持ちで聞いてみたのですが、駄目だったようです。

「だけど、何か何処かで見た顔のような気もするかな?うーん、分からない」

有麗さんは頑張って思い出そうとしていましたが、何も出てこなかったようです。大丈夫ですよ、有麗さん、思い出せないのは年のせいじゃないですか、とは言いませんから。

「分からなくても仕方ないです。皆さん、分からないみたいですので」

「だったらさっきは何の情報を手に入れたの?」

「ああ、それは次にその人が現れそうな日にちと場所の情報です」

「へえ、それは凄いね。でも、また現れるってどうして分かるの?」

「分かってはいないです。柚葉さんがまた現れるだろうって言っていたので」

「柚葉さん?」

「はい、南森柚葉さん。夏の巫女、つまり南の封印の地の巫女です」

「南の封印の地って沖縄じゃないの?こっちに来ているってこと?」

「四月から私と同じ高校に通っているのです。何でも、こちらに来るようにとお告げがあったらしくて」

「そう。巫女仲間が同級生とか珍しいけど、楽しそうね」

「そうですね、楽しいです。でも、ついつい自分と比べようとしてしまうのですよね」

「まあ、身近にいればそういうこともあるんじゃない?あれ、どうしたの?落ち込むようなことがあったの?」

私が元気を失くしたのを見た有麗さんが、心配そうに私を覗き込みました。

「いえ、柚葉さんと私とで、随分と実力差があるのを思い出してしまいまして」

「え?向こうも封印の地の巫女なのでしょう?なら、そんなに実力差は出ない筈だけど」

「そうかも知れませんけど、この前打ち合いしたときは、身体強化で加速した柚葉さんの太刀筋を見失ってしまって」

有麗さんは腕組みして私の話を聞いていましたが、そのまま考える風になりました。

「太刀筋の見極めにそんなに差が出るとは思えないわね。単純に訓練しているかどうかだと思う」

「何の訓練ですか?」

「だから、太刀筋の見極めの訓練」

有麗さんは立ち上がって私の手を取りました。

「ここの整理が終わったときのご褒美と思っていたけど、まあ良いわ。殆ど片付いているし、落ち込んでいる貴女を見ていられないしね」

有麗さんは私を資料室の奥に引っ張って行きます。

「良い?これから教える事は誰にも話しては駄目よ」

「はい」

私が頷くのを見ると、有麗さんは資料室の通路の突き当たりの壁に手をついて力を込めました。すると、壁と思っていたところに扉が現れました。扉の真ん中には透明な石が嵌っています。

「それじゃ利用者登録するから、石のところに手を当てて力を流し込んで」

私が石に右手を当てると、有麗さんが私の手の上に自分の右手を乗せました。そして、私が力を流し込むのに合わせて、有麗さんも力を流し込み始めました。しばらくすると、石が輝き始めました。

「これで登録完了よ。今度は一人で力を流し込んでみて」

言われた通りに力を流すと、扉が向こう側に開きました。

「え?これって?」

扉の向こう側にも空間がありましたが、この建物とは異なる雰囲気でした。

「はい、さっさと中に入って」

促されて扉の向こう側に入ると、有麗さんも入ってきました。そして、扉は閉まりました。

「こちら側では、扉は消えないのですか?」

「消えないわ。この中に入れる人には秘密にしても仕方ないし。だけど、登録した人しか開けないのは来たときと同じよ」

空間の内部は照明もないのに明るく、天井もあるのかないのか分かりません。広場みたいな広い場所を囲むように、大小の建物が立っています。

「ここは何処なのでしょうか?事務局のあるところが探知出来ません」

「ここは本部の巫女用の共用異空間なの」

「異空間ですか。そんなことも出来るのですね」

これまでの力の知識とはかけ離れたものを目にして私は呆然としました。

「これ、私に教えて良かったのですか?」

「大丈夫よ、他のメンバーにはきちんと許可は取ってあるから。それに長老会はここで開催しているから、貴女のお祖母さんも知っていることよ」

確かにお婆様は長老会に参加していると言ってました。あれ?でもお婆様は、封印の地のある伊豆半島から外には出ていない筈。

「もしかして、扉は封印の地にもあるのですか?」

「多分ね。封印の地の中のどこかか、その近くか。私は事務局の扉しか使えないから詳しい場所は分からないわ。貴女はいずれ東の封印の地の扉も使えるようになるんじゃない?」

それはまだまだ先の話のように思えます。

「それで、ここで訓練するのですか?」

「ええ、訓練場があるの。こっちよ」

有麗さんは、また私の手を取って、一つの建物まで引っ張っていきました。

建物の中に入ると通路があって、左右に扉が並んでいます。

「右側はトイレと倉庫、左側が更衣室ね」

有麗さんは、「更衣室」と書かれたプレートが貼ってある扉を開けて中に入っていきました。私も後に続きます。

更衣室の中は、思ったより広い部屋でした。左右にタンスとロッカーが並んでいて、ロッカーの前にはベンチがあり、部屋の奥はシャワー室になっているようです。

有麗さんは右側のタンスの一番上、51と左上に書かれた引き出しを開け、Tシャツと短パンを二セット取り出し、そのうち一セットを私に差し出しました。

「私のだけど、きちんと洗っているから綺麗よ。その格好じゃあ動き難いから着替えた方が良いわよ」

「はい、そうします」

私は有麗さんから有難く借りることにして、制服から着替えようとロッカーの前に移動しました。

「番号の書かれていないロッカーを自由に使って大丈夫よ」

有麗さんは、私より先に着替え始めていました。ロッカーは引き出しと同じ51と書かれた一番右側のを使っています。私は有麗さんのロッカーから三つ目、右の53、左の48に挟まれた番号の書いていないロッカーを使うことに決め、着替えました。

私が着替え終わって見ると、有麗さんはベンチに座って運動靴を履いてました。

「ごめん、靴は予備を置いていなかったんだよね。まあ、今日は足は使わないと思うから、そのままで我慢してくれる?」

「そうします」

有麗さんと私は連れ立って更衣室を出て、通路を左の方に歩いて行きました。途中、倉庫に寄って木剣を取ると、通路の突き当りまで進みます。突き当りの扉を開けると、そこは闘技場のようでした。周りは高い壁で囲われ、その向こうからに階段状に座席が並んでいる様子が見えます。

「ここは闘技場なのですか?」

「そうみたい。だけど、私も観客席にお客様が入っているのなんて見たことないよ」

有麗さんが中央に向かって歩いて行くので、私も付いていきました。そして、真ん中まで行くと体を半回転させて私の方を向いて、何度かジャンプして軽く体を解す動作をしました。私も有麗さんに倣って、体を軽く解しました。

「準備運動は良い?」

「大丈夫です」

私の言葉に有麗さんは頷いて、木剣を前に構えました。

「さあ、やろうか、清華ちゃん」


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