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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-32. ファンの力

私がエレベーターを降りて入口の方を見ると、まだファンの人達は建物の前に集まっているようでした。

その中に頭に鉢巻を巻いている人を見つけ、私はその人に近づきました。前に道を開けてくれましたし、何となくまとめ役のようにも見えたからです。

「お嬢さん、ここを通りたい――のでは無いようだけど、どうかしたのかい?」

危ない人だったらどうしようかと恐々でしたけれど、普通そうで安心しました。

「あの、聞きたいことがあるのですけど。お兄さんは有麗さんのファンなのですよね?」

「いかにも。あのキュートで可愛いのに時折り見せる力強さに格好良さ、まさにカッコ可愛いとは彼女のためにあるような言葉、我らの忠誠は常に彼女の下にあり、そう、この地上に舞い降りた我らの大天使、有麗ちゃんのファンです!」

前言撤回。やっぱり危ない人でした。

「いえ、あの、有麗さんは天使ではなくて巫女だと思うのですけれど」

「何を言いますか、巫女と言うのは彼女の借りの姿に過ぎません。彼女は我らのラブリーエンジェル、いや、寧ろ女神と言っても過言ではない」

彼は両手を握り拳にして体中に力を入れて主張しています。分かりました。これは否定しては駄目なパターンでしたか。聞き流さないといけなかったのですね。反省します。

「あー、はい、有麗さんのファンであることは良く分かりました。それで質問なのですけれど、今日は有麗さん、ここに来るのですか?」

「確実にと言いきれないところが辛いのでありますが、きっと来るはずなのです」

「それってどうして分かったんですか?」

「それはですね。我らが女神の最近の足跡を、同士天粕氏の行動分析理論に照らし合わせた結果なのです。天粕氏によれば、本日90パーセント以上の確率で、ここに立ち寄る筈とのことでした」

えーと、どんな理論が展開されたそういう結論になったのかは分かりませんが、そこを深く掘り下げるのは避けたい気分です。

「す、凄いですね、その理論」

「天粕氏は、我々では到達し得ない大賢者の領域に踏み込んだ誇るべき同士なのです」

はい、尊敬していると言うことですね。

「それは素敵なことですね。それで、もう一つ聞きたいのですけれど」

「何でしょう?」

「白銀の巫女って知っていますか?」

「最近、二回だけ目撃されたという女性ですね?自分は有麗ちゃん一筋ですが、同士の中には彼女を追いかけている者も居りますね」

「その人達の中で、白銀の巫女が次にいつ現れそうか調査している人っていますか?」

「有麗ちゃんにおける天粕氏のような人物のことですな。直接の心辺りは無いですが、ファンのコミュニティで聞いてみましょう。誰か知っていれば反応が来る筈ですので」

鉢巻の人は、スマホでメッセージを打ち込みました。

「問い合わせは出してみましたが、反応がすぐ来るかどうか」

「ありがとうございます。何か分かると良いのですけど」

私は祈るような気持ちで反応を待ちました。

「ところで、我々が有麗ちゃんのファンであることをご存知の貴女は、事務局の関係者か何かなのですか?」

「はい、たまに手伝いに来ています」

「そう言えば、以前にも来てましたよね」

「連休前のこと、よく覚えていましたね」

「ここに女子高生が来るのは珍しいですからね。何となく記憶に残っていただけです。しかし、と言うことは有麗ちゃんと話をしたこともあるのですね」

「え、ええ、まだ一度だけですけれど」

「おおおっ、羨ましい。自分もぜひ一緒にお手伝いをしたいものです」

お兄さん、鼻息荒いです。

「いや、人手は間に合っていると思います」

「そうですよね。前に一度アルバイトに応募したいと申し入れたことがありますが、募集は無いと言われてしまいました」

既に行動に移していたのですね。この行動力もファンの力のなせる業なのでしょうか。

私がしょげているお兄さんを励ましたものか悩んでいると、丁度タイミング良く、お兄さんのスマホが鳴りました。

「お、反応がありました。何々、『白銀の巫女については、先日潮見氏が法則性を見つけたと言って喜んでいたらしい』ですと」

「潮見さん?」

「はい、我らが同士の中でも情報収集に長けている者です。天粕氏の分析も潮見氏の情報を

使っていると聞いたことがあります」

ファンには色々な専門家がいるのですね。

「その潮見さんとは連絡が取れるのですか?」

「もちろんです。我らが大天使を崇拝する同士ですから。残念ながら、本日はここに居ませんが、聞けば返事をくれるでしょう。個人チャットで聞いてみます」

鉢巻の人がスマホを操作してメッセージを送信すると、今度は直ぐに返信が来たようです。

「うむ。潮見氏によると、白銀の巫女の出現場所と日にちは、魔獣の出現を預言したネット上の呟きと一致していた、とあります」

「ネット上の呟き?」

「アドレスが付いていました。そこを見ると確かに呟いています」

私は鉢巻の人にお願いして、そのアドレスを教えて貰いました。

「この人、次の出現についても呟いていますね」

「ですが、これだと情報としては不十分では?」

「そうですけれど、潮見さんもこれ以上は無理だったのですよね?」

「無念ではありますが、そのようです」

不十分ではありますけれど、有力な情報を入手することに成功しました。

と、その時、周りの人達がざわついていることに気が付きました。皆、同じ方向を見ていたので、私もそちらを見てみました。すると、遠くから歩いて来る人影がありました。すらりとした肢体にワンピースのスカート、それにジャケットを羽織り、サングラスをしているけど、見覚えのあるショートボブの髪型。本当に有麗さんが来たのです。

「凄い、当たりましたね」

思わず、言葉が口を突いて出て来てしまいました。

「うむ、流石は天粕氏、良い仕事をしましたな」

鉢巻の人は満足そうです。

有麗さんが近づいて来ましたけど、ファンの人達は駆け寄ることなく、皆その場で待っていました。皆さん、マナーを守っているようです。

そんなファンの人達に有麗さんは声を掛けたり、手を握ったりしていて、皆嬉しそうです。そうしてファンサービスをしながら、有麗さんは私のところまで来ました。

「あら、こんなところで何をしているの?」

「あの、情報を探していまして、有麗さんのファンなら知っているかもと思って聞いていたのです」

「私のことなら、直接聞いてくれれば教えてあげるのに」

「いえ、有麗さんのことではなくて」

「そうなの?それで、情報は見つかった?」

「はい、この鉢巻の人に教えて貰えました」

「それは良かったわね」

そして、有麗さんは鉢巻の人の方に向き、その人の手を握りました。

「私の可愛いお友達を手助けしてくださったのね。ありがとう」

有麗さんの、思いっきりの可愛いオーラに当てられた鉢巻の人は、顔を真っ赤にしました。

「あ、いや、人助けは当然のことでありまして、有麗ちゃんにお、お礼を言われるまでのこともなく」

緊張しているのか、声が上ずっている上に、言葉に詰まったりしています。

「まあ、奥ゆかしいわね」

有麗さんがニッコリ微笑むと、鉢巻の人は陸に上がった魚のように口をパクパクさせていました。

有麗さんは笑みを崩さないまま私の方を向きました。

「それで、情報が入手できたのなら、用は済んだのね」

「はい、お蔭様で」

「じゃあ、行きましょう」

有麗さんは私を促しつつ、周りのファンの人達に挨拶などしながら入口の方に向かっていました。

「今日は、助けていただいてありがとうございました」

私は鉢巻の人にお辞儀をしてから有麗さんを追いかけました。

有麗さんと二人でエレベーターに乗ると、疑問に思っていたことを尋ねてみました。

「有麗さんて、今日ここに来る予定だったのですか?」

「予定というか、何となく習慣というか」

何となく言葉を濁したような返事です。もう少し深く聞こうかと思いましたが、エレベーターが事務局のあるフロアに到着してしまいました。

事務局のオフィス内に入ると、有麗さんは挨拶もそこそこに私を引っ張って資料室に入りました。

「それにしてもどうしたの?入り口にファンのお迎えはあると思ったけど、清華ちゃんまでいるとは思わなかったわ」

「ファンの人達が待っているって思っていたのですか?凄いですね」

「まあ、行動がパターン化しているところもあるからね。それに探知すれば集まっているのも分かるし、だったら来ないわけにもいかないじゃない」

「と言うことは、予測が当たったというより、予測を信じて集まった人に有麗さんがサービスしたということですか?」

「そうとも言えるわね。貴重なファンだし」

有麗さん、凄いサービス精神ですね。流石はアイドルです。

「でも、そろそろ限界を感じつつあるのだけど」

「何故ですか?」

「年齢的にアイドルと言うのは辛いかなって」

「え?二十代前半ですよね?」

「見た目はね。それで、この見た目で五年やってきたのよ」

「でも、二十五ならまだ大丈夫ではないですか?」

「そりゃ、二十五なら大丈夫と思うわよ。だけど、実際には違うわけ」

これ、聞いてしまって良い流れなのでしょうか。戸惑った私は沈黙してしまいました。

しかし、有麗さんも黙ったままでした。静けさに耐え切れずに私が口を開きました。

「あの、それって実際に何歳か聞いても良いのですか?」

有麗さんは半分死んだような目になっていました。

「三十五よ」

聞かなければ良かったと後悔しても後の祭りでした。


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