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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-31. 久しぶりの事務局

週の明けた、というかダンジョン大会の翌日の月曜日の放課後。いつものように皆が部室に集まると、潤子さんは皆に向けて決意したような顔をしました。

「皆、聞いて欲しい。5月も半ばを過ぎて、ダンジョン大会も終わった。私もそろそろ本格的に受験に専念しないといけないと思うので、部活動から引退しようと思う」

とうとうその時が来てしまいました。皆も予感していたのでしょう、冷静に受け止めているようです。

「ちょうど良いタイミングだと思います。潤子さん、お疲れ様でした。三年生が一人で、これまで部が存続できたのも潤子さんが頑張ったからだと思います。これからは、私たちが頑張ります」

礼美さんが副部長らしく、潤子さんを労いました。

「ああ、よろしくな。それで、新部長は、現副部長のレミーにお願いしたいが、新副部長はどうしようか?」

「そうですね、副部長は佳林ちゃんか百合ちゃんの一年生のどちらかにお願いしたいと思いますけれど?」

「礼美さん、それなら百合さんの方が適任だと思います。私より落ち着いているし、ダンジョンのこととかも良く知っているし」

そうですね、佳林はダンジョン大会では立派にリーダー役をこなしましたけど、どちらかと言えば他の人に付いて行くタイプなので、誰かに前に立ってもらった方が安心ですものね。

「佳林ちゃんがそう言っていますけれど、百合ちゃんは副部長をやってもられるのかしら?」

「はい、副部長やらせてもらえるのでしたら、私、やります」

百合さんは大人し目かと思っていましたが、見かけ以上に頑張り屋さんのようですね。見直しました。

「では、私が新部長で、百合ちゃんが新副部長ということにしたいと思います。皆さん良いですか?」

礼美さんの問いかけに、皆異論がないことを示すために拍手で答えました。こうして、ミステリー研究部の新体制が決まりました。


そうして、新しい体制でのミステリー研究部の活動が始まったあとの木曜日の放課後、私は久しぶりに黎明殿本部の事務局に行くことにしました。連休明け以降、ダンジョン大会の練習もあって、しばらく行ってなかったのですが、まだ資料の整理が残っていますし、聞きたいこともありましたから。

駅の出口を出て歩いていくと、事務局のある建物の前に人が集まっている様子が見えました。その人達の中に見覚えのある鉢巻に法被姿の男性がいました。と言うことは、この集団は有麗さんのファンの人達と言うことですね。

私が建物の中に入ろうと近付いていくと、以前と同じように鉢巻の人が私に気が付いて、周りに声を掛けて道を開けてくれました。なので、私はその人に謝意を込めて軽く頭を下げて、建物の中に入りました。

「こんにちは」

部屋の中では、莉津さん、円香さん、希美さんが揃って自分の席に着いていました。

私が来なかった間に何か変化があったのか見回してみましたが、特に以前と変わるところは無さそうでした。そして、まずは荷物を下ろそうと、私はいつものように円香さんの隣の席に行きました。

「あら、清華ちゃん、お久しぶりね」

「はい、円香さん。連休明けから部活のイベントがあって、週末まで部活をしていたので時間がなくて。でも、そのイベントもこの前の週末に終わりましたので、これからは来られると思います」

「そうだったんだ。清華ちゃんが連休前に資料の整理を随分と進めてくれていたし、私も合間に少しやったから、資料室はもう少しで終わると思うわ」

「円香さん、整理してくれたのですね。ありがとうございます」

「別に清華ちゃんだけの仕事じゃないし、問題ないから」

「それでも助かりました」

私は荷物を席に置くと上着を脱いで、椅子に掛けました。そして、そのまま莉津さんのところに行きました。

「莉津さん、少し良いですか?お話ししたいことがありまして」

「構わないけど、どんなお話?」

「最近目撃された巫女のような女性のことについてなのですけれど」

私の言葉に、莉津さんは眉を上げました。

「分かりました。会議室へ行きましょう。希美さんも会議室に来てくれる?」

「はい、お茶ですか?」

「できればお茶もだけど、目撃情報調査の話になりそうだから」

「そう言うことですね。では、お茶を持って行きます」

莉津さんは私を連れて先に会議室に入りました。私は莉津さんに促されるまま、莉津さんの向かいの席に座りました。

そこへ希美さんも入ってきました。希さんは畳んだノートパソコンの上にお茶の湯飲みの入ったお盆を乗せていました。そして、莉津さんと私の前に湯飲みを配膳すると、自分の湯飲みを取ってお盆を移動し、ノートパソコンも持って、莉津さんの隣に座りました。

莉津さんは希美さんが席に着くのを確認すると、私の方を向きました。

「それで、どんなお話がしたいの?」

「三月の終わりと四月の終わりに秋葉原と新宿で巫女のような女の人が魔獣を斃したという話は知っていますか?」

「希美さん、どう?」

莉津さんは希美の方を向きました。希美さんはノートパソコンで確認してから口を開きました。

「3月26日の秋葉原と4月26日の新宿ですね。目撃情報が入っています」

「それで、それらの案件の扱いはどうなっているの?」

「どちらも目撃情報の数が多いので情報自体の信憑性は高いのですが、短時間のことなので、人物の特徴や巫女かを特定する情報が少なく、判定不能とされています」

「なるほど」

希美さんの返事を腕組みしながら聞いていた莉津さんは、組んでいた手をほどきテーブルの上に乗せて、私の方を向きました。

「そういうわけで、清華ちゃん、事務局としては情報は貰ったけど、その人が誰かも、その人が巫女かも判断するには情報不足としている状態ね」

「ビデオの映像もあるのですけど」

「残念だけど、ビデオだけでは判断できないのよ。巫女探しで一番重要なのは本人の特定で、本人を見つけて確認することで巫女だって判断することになっているの」

「そうなのですか」

事務局のやり方は、かなり慎重だと思いました。でも、目撃情報はたくさん寄せられるみたいなので、基準を厳しくしておかないと対応が大変かもしれません。

「そう言えば、探偵社で調べて貰ったら、五十年くらい前に本部の巫女として登録されていた阿寧という人に似ているとのことでしたけど」

「え?そうなの?」

莉津さんは希美さんの方を見ましたが、希美さんは首を振りました。

「いまは登録されていません。きっと亡くなられたか長いこと行方不明になったかで登録を消されたのだと思います」

「行方不明なら探さないといけないのではないですか?」

私は思わず聞いてしまいました。

「基本はそうなのですけど、ダンジョンに入ったまま行方不明になった場合は、一定期間経つと登録を消すことになっています」

「清華ちゃん、悪いわね。事務局は個人情報に関するものは不必要に保持しておかない方針なの。登録を消した人の情報は、皆廃棄してしまうのよ。探偵社には探偵社のやり方があって情報が残っていたのでしょうけど」

「いえ、良いです。どちらにしても、その人に関する新しい情報は無さそうなことは分かりましたので」

事務局には色々な情報が集まってくるので、何か新しいことが分かるかも知れないと期待していたのですけれど、空振りだったようです。残念でしたが、私は気持ちを切り替えることにしました。そして、頭を巡らせていて、別のことを思い付いたので試してみようと思いました。

「あの、本部の巫女で以前から登録されていた人に聞くというのはどうでしょうか?」

希美さんは、私に申し訳なさそうな顔をしました。

「良さそうな案ですが、古い人は行方知れずで連絡が取れない人ばかりなんです。いま連絡が取れる人は、登録されたのが三十年前くらいが一番古い時期になります」

「三十年前くらいですか。それだと五十年前のことは分からないですね」

「はい、そうなります」

こちらも駄目ですか。

「分かりました。お話いただいてありがとうございました」

私は席から立ち上がって、二人に向けてお辞儀をしました。

「いえ、力になれなかったわね。ところで、何故その人のことを調べているの?」

「友達がまた現れるんじゃないかって言っていて、手掛かりを探しているんです」

「そう。何か面白いことしているわね。もし見つけられたら、ここに連れてきてくれると嬉しいわ」

「そうします」

そして、莉津さんも希美さんも席を立ち、私達は一緒に会議室から出ました。

事務所の方は、私達が会議室に入るときと同じように円香さんが一人で机に向かっていました。

「円香さん、一人なんですね。有麗さんはまだ来ていないのですか?」

「え?有麗ちゃん、来るの?」

「来ると思いますよ。建物の前にファンの人達が集まっていましたから」

「そうなんだ。何で察知したのかな。有麗ちゃんのことになると、凄いよね、あの人達」

「そうですね。何かもう、プロですよね――」

言いながら、私は十郷さんの言葉を思い出していました。

「そうか、プロに聞くのが一番でした。私、行ってきます」

私は椅子に掛けておいた上着を取り、上着の袖に手を通すとスマホを手に事務局から出て建物の入口に向かいました。


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