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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-21. お父様との対話

道場から出て、柚葉さんを再び私の部屋に案内しようとしたところで、柚葉さんからお願いがありました。

「あの、さっき言ってた武器庫とか、家に伝わる古い書物とか見せて貰えないかな?」

「武器庫はありますよ。書物は見たことが無いですね。お父様に聞いてみるしかないと思います。武器庫の方が近いですし、その後でお父様に聞いてみましょうか」

「お願いしても良い?」

「ええ」

私は柚葉さんを伴って武器庫に向かいました。武器庫は一階の奥にあります。道場と同じ地下に保管することも考えられたそうですが、地下だといざと言うときに運び出すのが大変ということで、一階に保管することにしたと聞いたことがあります。

武器庫の扉の横には、家の認証端末が設置されていました。私は端末で認証して武器庫の扉のロックを外しました。

「扉の鍵を外しました。中に入りましょう」

私は扉を開いて柚葉さんを武器庫の中に導きました。ここの武器庫はそれほど広くなく、四畳半程度の空間です。住んでいる人数も少ないですし、働いている人を加えても知れたものです。いざという時に武器を必要とする人数が少ないこともあって、置いてある武具も少ないのです。ただ、整理はきちんとされていて、剣や槍などが種類ごとに分けて整然と並べられていました。

「ここが武器庫です。必要なだけしか置いていないので、数が少ないですけど」

「見たところ、そんな感じだね。でも、一応、一通り見させてもらって良い?」

「ええ、どうぞ」

柚葉さんは武器庫の中をぐるりと観察し、剣など幾つかの武具を手に取って確認していましたが、興味を惹かれるものは見つからなかったようです。

「見せてくれてありがとう、清華」

「いえ、どういたしまして。目ぼしいものは見つからなかったですか?」

「そうだね。魔道具の剣か何かがあれば、と思ったんだけど、ここには無いみたい。やっぱり東の封印の地に行って調べてみたいな」

「そうですね。今日のところは残念ですけど」

調査して満足したのか、柚葉さんは一人先に武器庫から出ていきました。私は柚葉さんを追いかけるようにして武器庫から出て、扉を閉めてロックを掛け直しました。

「それではお父様のところに行ってみましょう」

私たちは武器庫の前からお父様の書斎の前まで移動しました。そして、書斎の扉にノックしながら声を掛けました。

「お父様、清華です」

「ああ、開いているよ」

了解の返事があったので扉を開けて中を見ました。書斎にはお父様以外の人はいませんでした。

「柚葉さんがお父様に聞きたいことがあるそうですが、良いでしょうか?」

「何かな?構わないから中に入ってソファに座りなさい」

「はい」

「お邪魔します」

柚葉さんも挨拶しながら中に入り、二人並んでソファに座りました。

お父様も椅子から立ってソファの方に来ました。

「何か飲むかい?と言っても未成年の君たちが飲めそうなのはお茶かウーロン茶くらいだけど」

「お茶をお願いします」

「冷たいのと暖かいの、どちらが良い?」

「冷たいので」

「清華は?」

「私も冷たいお茶をお願いします」

「分かった」

お父様は、グラスを二つ取り出すと、冷蔵庫から取り出したお茶のペットボトルからお茶をグラスに注ぎました。そして、そのグラスを私たちの前に置いてくれました。さらにグラスを一つ取り出して同じようにお茶を注ぎ、ペットボトルを冷蔵庫の中に戻すと、グラスを持って私たちの向かい側のソファに座りました。

「それで聞きたいことって何かな?」

お父様は柚葉さんの方を見ました。

「ここに巫女のことを記した古い書物があったら見せて貰えないかなって思いまして」

「巫女のことを記した古い書物ね。うーん、ここには無いかな。伊豆の家で調べるしかないと思うよ」

「そうですか。残念です」

「そういえば、清華。本部の事務局の資料室には無いのかい?」

「資料室にあるのは、研究者が調べた古い書物での巫女に言及した内容の論文がほとんどでしたけど」

「私が読みたいのは、巫女が自分で記した書物か、巫女から直接話を聞いた人が書いた書物です。そういうのは、事務局の資料室にある?」

「いままで整理してきた中には無かったですし、残りの中にも無さそうな気がしますね」

「事務局だと一般の人の目にも触れるし、そういうところには置いていないと思うんだ」

「だから封印の地の関係者のところにあるのではないかと思っているのですね」

「そういうのがあるという確証は無いんだけど、あるとすれば封印の地かなって」

「柚葉くんは、その書物を読んで何が知りたいんだい?」

柚葉さんはしばし考える風でしたが、お父様の方を向いて口を開きました。

「巫女の力の使い方についても情報が欲しいけど、一番知りたいのは、どうして封印の地を作ったのかと封印の地をどうやって作ったのか、かな?」

「それはまた難しそうなテーマだね」

「そうですね、そう思います」

柚葉さんも難しいことは分かっているのでしょう。その表情は悩ましげではあるものの、調べようという決意を感じるものでした。

「そういうことが書いてある書物の話は聞いたことが無いけど、一度東の封印の地に行って調べてみると良いよ」

「はい、そうさせて貰います」

話の区切りが付いたと考えたのか、お父様はグラスを取ってお茶を飲みました。

「それで柚葉くんの聞きたいことは終わりかな?」

「もう一つあるのですけど、良いですか?」

「僕で答えらえることなら構わないけど」

「地下の道場に鎧が飾ってありますよね?あの鎧は、清華のお父さんの会社で作ったものだと聞きました」

「ああ、そうだね。それで?」

「あの鎧の素材は、魔獣の皮だと思うのですけど、見たことが無い魔獣のものでした。貴重なものではないですか?」

「良く分かったね。その通りだよ」

「それでお願いなんですけど、その魔獣を斃した人を紹介して貰えませんか?」

柚葉さんのお願いに、お父様は首を振って答えました。

「残念だけど、私も知らないんだ。あの素材は、出入りの業者を使って買ったもので、誰が斃したか聞いていなくてね」

「それは残念です」

「君はその人に会ったらどうするつもりだったんだい?」

「相当強そうな人だと思うので、指導して貰いたいと思ったんです」

「一人じゃなくて複数人で斃したのかも知れないよ」

「そうですね。その場合はリーダーの人に会えれば」

お父様は、右手で顎をさすって興味深げに柚葉さんを見ました。

「あの魔獣は何層にいたと思っているのかい?」

「六層じゃないですか?」

「どうしてそう思ったんだい?」

「貴重な魔獣は五層にはいませんし、六層より下だと、帰りに六層を通らないといけないですよね。六層だと大型の魔獣の群れに出くわすかも知れないのに、わざわざその先まで素材を取りに行くのは割に合わないです」

「君は六層に行ったことは?」

「ありますよ。だけど、念入りに探索したことは無いです。そしてそれは大抵の人がそうじゃないですか?大体は五層で用が足りますから」

「まあ、そうだね」

お父様は満足そうな顔付きになりました。そして、お茶をもう一杯飲むと、両手で膝を叩きました。

「よし、分かった。今度その魔獣を斃した人を教えて貰えるか業者に聞いてみるよ。もし教えて貰えたら、君に伝えよう」

「ありがとうございます」

話が済んだ私たちは、お茶のお礼を言ってお父様の書斎を出ました。

「清華、お父さんに会わせてくれてありがとう」

「いえ、どういたしまして。それでは部屋に戻りますか?」

私たちは私の部屋に戻り、その後、伊豆の家に行く計画について、二人で相談しました。

その話も終わると、柚葉さんは家に帰るとのことで、私は玄関で柚葉さんを見送りました。そして、自分の部屋に戻ろうと振り返ると、お父様が立っていました。

「なかなか可愛くて楽しい子だね。清華は柚葉くんのことをどんな子だと思っているのかい?」

「素直で優しい人だと思っていますけど?」

お父様が何故その質問を投げかけて来たのか分からず、答えが疑問形になってしまいました。きっと怪訝な顔をしていたと思います。

「まあ、確かに素直とは思うけど、それだけではなさそうだね」

「え?そうなのですか?」

「ああ、結構な食わせ者だと思うよ」

「それは、どうしてですか?」

「さっきの話、地下の道場に飾ってある鎧の素材の魔獣だけど、六層で斃したことになっているんだ」

「え?どういうことですか?」

「実は六層じゃなかったんだよ。だけど、そうすると話が面倒になるから六層ということにしているんだ。そして、柚葉くんはそのことに気が付いていたみたいだね」

私は思考が追い付かずに、お父様の言うことを呆然と聞いていました。

「彼女は相当に頭が切れるね。それに実力もあるだろう。決して侮らない方が良いよ」

そう言葉を残して、お父様は書斎に戻っていきました。

私は柚葉さんは力や知識はあるけど素直で良い子だとばかり思っていたので、知らなかった一面を指摘されて戸惑いを覚えるのでした。


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