へんな生き物がいる
とりあえず、一日につき一人3リットルの水が必要だったような覚えがする。
畑中家に現在あるのは、2リットル入りのペットボトルが6本入った箱が3箱と500ミリリットルの炭酸飲料24本入りが1箱、お茶の2リットル入りのボトルが6本入った箱ひとつと500ミリリットルのお茶のボトルが24本入った箱がひとつ。
あとは冷蔵庫に野菜ジュースと牛乳と豆乳が少々。
軽く見積もって4日分と少々、節約して5日分あるかどうか。
米を洗ったり食器を洗ったりしたらもっと早くなくなる。
食料は米の買い置きがかなりあるので、水の確保が急務だろう。
「こう暑いと水の消費が早そうだし、さっき地図で見えた川に行ってみるとしようか」
「店でアルカリイオン水を汲んでいた頃の5リットル入るペットボトルが4本あるわ」
「空いてたポリタンク見つけたよ」
「待って、誰か一人は留守番してた方がいいと思う」
万理の言葉に光平は首を振る。
「いや、別々に行動していて、何かあった時に行方がわからなくなって、事情がわからない方が怖いと思う」
「家族だもの一蓮托生ね」
理津子が言い、それってなんか使い方が違う気がすると弘夢がつっこんだ。
「さっき付近を歩いた感じだと、虫がいそうだ、長袖、長ズボンでな。」
八郎の言葉に各自あわてて春夏ものをクローゼットから引っ張り出し、支度を整えた。
「さあ、防虫スプレーかけて」
夏の残り物のスプレーを首筋や手首にかけタオルを首にかける。
「さあいくぞ」
皆の支度が整ったのをみて、八郎は号令をかけ、玄関を出たところでふと気がついて言った。
「お前達、トイレは使ってないな?多分下水と繋がってないから、詰まって大変だぞ?」
「…早く言ってよ」
「普通気がつくだろ、俺、外でしたもん」
「五月蠅いわねぇ。大はしてないわよ。」
「水を汲んだら、少し流してみようか、うまくすれば土に染み込むかも?」
「臭うの前提で言わないでよ」
「臭うでしょ?」
「臭うよね」
「絶対臭う」
「…悪かったわよ」
万理は早々に降参して八郎に続いて外に出る。
「お外でトイレってハードル高っ!」
「帰ったらお外のトイレも作らないとねぇ…」
パパ、お願いとばかりに拝まれて、八郎は肩をすくめた。
家を出て。密林の中の道なき道を進む。
「やっぱ、カマの切れ味、悪くなってきた。」
「剪定バサミも刃がボロボロ」
男二人で、進行方向の邪魔な枝や草を取り除いているが、効率が悪い。
「鉈でもあればねぇ。弘夢、こっちの方角でいいの?」
「うん。そうそう。その先にねって、うっひゃぁぁ」
「え?何なに?」
「どうした弘夢!」
家族がかけつけると弘夢は気持ち悪そうに片足をあげている。
「何か今、変な感触が…」
おそるおそる足をあげてみると靴の下からは銀色に光る何かが…
「魚?」
「おい、こっちにもだ」
見ればあちこちに銀色に光る魚が木の枝にひっかかっていたり地面に落ちていたり。
「…なんで?」
「竜巻に吸い上げられたんだろ。ほら猫又だ」
猫もまたいで通ると言われる、骨の多い小さな魚がほとんとで、たまにちょっと大きいのもまざっていたりする。
「あ、あれ?ヒラメじゃないの??」
「カレイだよ目が右だろ」
「…持って帰れないかしら。干して干物とか」
「…気温が高いからどうかな。まぁまだ大丈夫みたいだが」
「これ鯖じゃない?」
「こっちのイワシ」
「うぁぁぁ小っちゃいけど、シュモクザメだぁぁ」
「…キスね、これ」
「めぼしいのは拾って川で開こう。食料も限りがあるしな。帰ってすぐに焼いて食べれば大丈夫だろう。鮫はやめとけ、臭いとか言うしな」
八郎の指示で大きそうなのを選んで、拾ってビニール袋にいれていく。
「うへぇ。手がなまぐさい」
光平が自分の指の臭いを嗅いで嫌な顔をする。
美津子と万理はウェットティッシュを使ったようだ。
「川がみえたよ!」
弘夢が歓声をあげたので、、八郎は顔をあげた、手前の藪の向こうに河原があり、そのむこうを小さな川が流れている。畑中家の子ども達が小さい頃によく川遊びに連れていったような川だ。
「水も透明で綺麗だが、飲めるかな」
よくみれば小魚のような魚影もみえる。
「だとすれば、ほぼ大丈夫だろうが…」
やっぱり煮沸は必要だろう、目に見えない菌や寄生虫などがいたら怖い。
手分けをして水を汲む。
「うーん。らしくないなぁ」
光平は川を見てぶつぶつ言っている。
熱帯地方の川ならばもっと川幅があって水も茶色く濁っていそうなもんだ。
ただ、乾期なのかもしれない。と、いうのも河原がけっこう広く、岸には水流によってえぐれたとおぼしき痕もあるからだ。
「こっちは上流の方かもなぁ。たしかに山もあるし」
見晴しのよい河原に出た事によって、多少は見通しが出た。
光平は、手をかざしてぐるりと四方を見た。
八郎と弘夢は手分けをして水を汲んでいる。
美津子と万理もそれを手伝っているようだ。




