ここはどこ?
「暑い…」
八郎は着ていたパジャマのボタンを無意識にはずしていた。
かけていた上掛け布団はとっくに蹴飛ばしてベットの下に落ちているようだ。
隣のベットで寝ている妻の理津子も大汗をかいているようで無意識にパジャマをはだけさせててうなされている。
「おい、理津子。朝だぞ」
カーテンの隙間から日差しが差し込んでいて外はすっかりと明けているようだ。
枕元の時計を見れば7時を過ぎていた。
時間の割に妙に外が明るい。
それにこの暑さは異常だ。
八郎はエアコンのスイッチが入っていない事を確認すると、頭をふって窓のカーテンを開けてみた。
「なっ…」
そこは見慣れた家々が密集する見慣れた光景ではなかった。
「どこなんだ。というか何が起こった?」
そこへ、妻の理津子が声をかけてきた。
「あけましておめでとう?何?どうしたの?」
そして八郎と並んで外を見ると同じように言葉をなくした。
「こ、こんなことって…」
二人の眼前には深い緑の森がせまっていた。
それもどちらかといえば熱帯系の植生の。
「いひゃい…」
八郎は思わず、隣の理津子のほっぺたをつねっていた。
理津子もお返しとばかりに八郎の頬をつねる。
「ゆめひゃないねぇ」
「ああ、ゆめひゃない」
二人は顔を見合わせると3人の子ども達を急いで叩き起こす。
「「光平、万理、弘夢、起きなさい!!」」
「「なに?」」「「なんだよ」」
「つっか暑いんだけど、なんかした?」
久しぶりに「きぇぇぇぇ」以外の言葉をしゃべった長男に八郎は感動しかけたが、それよりも大事な事がある。
「外!外を見てみなさい!!!」
光平がリビングに面した窓のシャッターをガラガラとあげる。
とたんに、緑にいきれたむぁっとした空気が家の中に入り込んでくる。
「なんだこれ」
「え」
「へ?」
3人は間抜けな声で八郎達を振り返って見た。
「な?」
何故か八郎はドヤ顔だ。
「とりあえず、お雑煮にしましょう」
理津子は家事のルーチンをこなすことによって心の安定を図るようだ。
八郎も着替えてルーチンであるポチの散歩をこなすことにした。
「お雑煮は失敗だったかもね」
「おせちも食べて、いたんじゃうから」
電気や水は止まっているようなので、カセットコンロをだし、非常用の水を使って調理をした。
「失敗だったわ。鰹節を買い忘れたもの!」
「いや、そーじゃなくて、暑いのに熱いもの…」
「僕お好み焼きに使った残りがあるの知ってるよ!」
「でかした弘夢」
「やっぱり鰹節がないとねーしまらんよねー」
「じゃなくてですねぇ」
「ポチの散歩で、その辺ぐるっとしてきたけどやっぱり森だったぞ。それも南の方の密林ぽいの」
「ですよねぇ。窓から見た感じ、そうですもんねぇ」
普段の食事の時と比べて倍近く会話が続く。
「電波つながらねーわ」
「僕のはつながるよ!」
「弘夢でかした!」
「電話もメールもラインもだめ」
「僕のは検索機能だけ使えるみたい」
「うぉ、更新が、更新されているか見たいのに!!!」
「家族のグループラインは大丈夫っぽい」
「会社のはダメだ。休みでよかった」
「つーか、何とかなるわけ?これ、正月休みが終わる前にさ」
「どこなのかしらねぇ。ここ」
「庭も車庫も家と一緒に移動したみたいだがお隣の家との境のフェンスはなかった」
「案外家にじっとしてたらまた元に戻るんじゃね?」
「夢落ちにしちゃぁシュールすぎる」
「なんなのよぉ。もう、明日は友達と新年会の予定だったのにぃ」
「ねぇ僕達のこと、ニュースになってるよ」
畑中家、竜巻、行方不明で検索した結果を広夢が表示する。
「…竜巻で家ごとふっとんだ扱いになってるのか」
画像の中の畑中家のあった敷地は綺麗に更地になっている。
「ここにあるんだけど家も庭も」
「…だからここってどこさ?」
光平の突っ込みに八郎は答えを探す。
「わからん」
唯一検索機能だけ生きている弘夢の携帯でこのアイフォンの位置を探す、で場所を特定しようとするが、
「ダメだよ。知らない形の地形しかうつらない」
「この中で一番地理に詳しい人?」
「私世界史。」
「僕も」
妻の理津子と弘夢は世界史選考だったらしい。
「俺日本史」
「まぁ出張いく関係で国内はだいたいは」
と八郎と光平。
「自信ないなー」
とは長女の万理。
しかし、誰もわからない。
「どっかの市町村の形かなぁ」
「縮小してみようよ」
「だめだわからん。どこだここ」
「ちょっと離れたところに川があるね。」
「川の名前の表示もないな」
携帯の示された地図を拡大したり縮小したりしても少しも見覚えのある形になってこない。
「とりあえず場所については後にしよう」
八郎は家長として意見をまとめる事にした。
「とりあえず現事態を災害にあったと仮定して水や食料の確保を先にしよう」
そう、水道は止まり、電気も止まっているのだ。ざっと見た感じ付近にコンビニどころか人家もないようだ。
特に水の確保は重要である。




