腹ペコ女騎士の釣り方
「じゃ、頼んだわよ」
理津子に言われ、金槌やバールを手に軍手をはめ、付近に散っていく畑中家の面々。
焚火にするための木材を周囲の廃屋から調達するのだ。
「…レトルトがいいかしら。飲み水は節約したいし」
つまりは食材を洗ったりできないという事だ。ゆでこぼすとか論外だ。
トウユーで手にいれたレトルトを同じくトウユーで手にいれた鍋にいれ川の水を注ぎいれる。
そして、石を積んで作った簡易のかまどに、着火棒で火をいれた。
「焚火って不思議と心が休まるわねぇ」
十分に立った炎を確認して鍋を竈にかける。
家族が各自持ち寄った木切れをくべればより安定して炎が揺らめいた。
暫くするとふつふつと泡がたってくる。
その上に湯につかないようざるをおいてパック入りご飯をあける。
まずは4個を開けると上から鍋の蓋をかぶせて蒸す。
その間に皿をウェットティッシュで拭き、ラップをひく。
その上に温まったご飯を盛り付ける。
それを2回繰り返して合計八皿用意すると、今度は具材の入ったレトルトを湯で温める。
十分にあたたまったらそれをご飯の上にのっける。
今回使用したのはシチューのレトルトだ。
先程のパンの食べ方や水の飲みっぷりだと、暫く断食していたのかもしれないという事でカレーは次の機会にという事になったのだ。
ライスの上にシチューを盛ったシチュー丼の出来上がりである。
畑中家ではこの上にピザ用のチーズをかける。
第一現地人の女性と子どもにはパンも用意した。
「いたんじゃう前に、大きい方のトマトを食べて処分しちゃおう」
それにトマトとかいわれを添えた。
最期に残った湯で蒸しタマゴをつくる。
「ひさびさに、ちゃんとした物食べられるねー」
天ぷら蕎麦を年末に啜ったのが最後のような気がする。
その後は御節の残り、シリアル、焼き餅、カップ麺で過ごした。
「レトルトだけど…」
家にはキャンプ用品もあったはずだ。ちゃんと料理しようと思えばできるに違いない。
畑中家の面々がシチューをかきこみはじめると、第一現地人の女性と少年は顔を見合わせていたが、おそるおそる自分達の前におかれた皿を手にとる。
一口すくい取って口に運ぶと、あとは夢中になって食べはじめた。
「安全な水が確保できればもっといろいろ出来るんだけどねー」
理津子が今度はやかんを取り出し、ペットボトルの水で湯をわかしはじめた。
小さなスリコギを用意すると、そこにおかゆのレトルトを少量いれ、沸いたお湯を少々いれる。
それをごりごりとよくのばして、離乳食を作った。
「まずは上澄みからね」
スプーンで上澄みをすくい、赤ん坊の口にもっていく。
「まーじょうずね。弘夢が小さな頃を思い出すわー」
熱くないよう、温度を見て掬った上澄みを赤ん坊の舌に乗せれば、素直にコクリと飲んだ。
「最初は少量からっていうからねー。ごめんね、次はおさゆなのー」
赤ん坊はもっと欲しがってむずがったが、離乳食は急いで進めてはいけない。
「じゃ、もう一口だけねー」
なだめつつ、上澄みを口にふくませる。
そうしている内に眠くなったのだろう。耳のあたりを小さな手で触り始めた。
「これを飲まなかったら、また砂糖水で様子みようかな。お母さんのおっぱいが出るようにもっと食べてもらわなきゃ」
湯冷ましを哺乳瓶にいれ、赤ん坊にふくませる。
一度与えているところを見たからか、今度は女性が赤ん坊に哺乳瓶でおさ湯を与え始めた。
目がおかゆのレトルトを凝視しているので、食べたいのかなと思って、女性の空いた皿に残りをいれてやる。
女性は一口自分で食べると、少年の皿にとりわける。
「よっぽどお腹空いてたのねぇ」
理津子は感心してその様子を見守った。
他の畑中家の面子はパンに小枝をさして遠火であぶっている。
チーズがとろりと溶けうまそうだ。
パンの焦げたいいにおいとチーズの香りが充満する。
「はいタマゴ、火が通ったよ」
トングで蒸しタマゴをざるから取り出しつつ万理が理津子の皿を手にとった。
「お湯は捨てないでね。お皿を洗うのに使うから」
さりげなく注意しつつ、タマゴを手にとろうとしてあちち、と指を耳たぶにもっていく理津子。
「あれで、誘われて自分で登ってくるかしらねぇ」
見れば、その出きあがったチーズトーストをみかんのネットにいれ、井戸の底の方におろしている男性3人。
「だいぶ腹ペコのようだったから。あるいは…」
「まるで釣りの『さびき』だな」
「食いつくかな…」
「チーズとガーリックの組み合わせって僕的に最強だと思うんだよね」
弘夢の手にはガーリックバターの箱。
「「あぁぁ~~~」」
気の抜けたような同意の声とともに、チーズガーリックトーストは井戸の底に。
「かかった!!!」
ほどなくして、腹ペコドメスティック女騎士が釣れたようだった。




