表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/47

ドクロ紳士の告白

若いものは出払っていて人気のないカフェテリア…従業員用の休息所にて、

シッキムは旧友とお茶を飲んでいた。


いつも陰気な雰囲気の、ドクロ紳士トーマスが、ひとつ悲しみがあるというので。


『オルハンに、はじめましてって言われたんだ。』


『ああ…。』


シッキムは息をはいた。


オルハン…つまりはオリバーが起き上がれるようになって間もない頃、イルハンに紹介されたトーマスに、オリバーは丁寧に挨拶していたのだ。


『オルハンとも生まれた頃からの付き合いだった。全く覚えてないんだもん。』


トーマスは、そうこぼした。


シッキムは、目を閉じて1つため息をつくと、

声を落として言った。


『これな。

イルハンにも言ってないんだけど。

……オリバーは、ウィルフのことやリザのことも、たぶん、ろくに覚えていない。』


『え。』


『…オリバー、子供のころに魔力麻疹で死にかけてさ。そのとき一回、それまでの記憶無くしてるんだ。

魔法の知識だとか、イルハンに関しては後から思い出してるみたいなんだけど…

それ以外の家族にまつわる記憶が曖昧みたいなんだよ。』


『もしかして、オルハンがリザに会いたがらない理由って…』


『たぶん、覚えていないからじゃないかと思う。』


トーマスは、ぱたり、と涙を流した。


『あ、すまない。

君たち夫妻からしたらショックだったよな。』


シッキムはタオルを差し出した。


『ありがとう、でも、違うんだ…。』


『え?』


トーマスは、むらさきのレンズの入ったサングラスを外すと、受け取ったタオルで目元を拭った。


『やっぱり、傷ついていたんだなと思って。』


『…?』


『当時は、あの子が生まれたことによる家族の負担を心配していたけど…』


『あぁ?』


『今思えば、可哀想だった。』


『…どういうことだ?』


『当時、彼が生まれたということは、公爵家にとっては大変な出来事だったんだ…。

生まれなかったことにしようという話も出たと聞いている。』


『それは…』


トーマスは頷くと首を切るジェスチャーをした。

シッキムの眉が跳ね上がる。


『彼らはそうしなかった。

先々代のじい様がとにかく反対したらしい。

だけど、オルハンが生きていきにくいことは容易に想像がついた。

だから、付加価値をつけることにした。』


『付加価値……魔法か?』


『そうだ。

オルハンは物心つく頃には、1人塔に移されて、朝から晩まで教育をうけた。』


『……。』


『たまに、ウィルやリザが連れ出していたけどね。

一通りを習得すると、今度は魔獣狩りにつれていって実戦を積ませていた。』


『魔獣…』


『当時はここの穴も空いていたから、たくさん出たんだよ。

ただ、あんまり運動神経は良くなかったみたいだけどね。

だから、よく怪我もしたみたいだ。』


『怪我…でも、オリバーは治癒魔法がきかない体質だぞ?』


『そうなのか?それは知らなかったが…。』


『それでも会えば気丈にふるまっていたんだ。

誰に対しても…少し高飛車なくらいだった。

ませた…というか、憎たらしいところもあって…。』


『…………。』


シッキムは、沸き上がる怒りを鎮めるために、

深く息を吸い、はいた。


そのとき、地の底を這うような、それはそれは恐ろしい声がした。


『立ち聞きをするのも申し訳ないので、わたくしも同席してよろしいですか?

できたら個室で。』


二人が悪寒で震えながら見上げると、

この世のものとは思えぬ憤怒の形相のレイリークが立っていた。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ