第30話 聞き取り調査を始めました。
オリバーの修復を第一の目的に据えたプランAから、
アスランを泣かさないためのプランBに移った。
そんなことは本人は全く知らなかったが、
アスランは久しぶりに構ってもらえて嬉しそうだった。
そんなアスランの現在の主な関心ごとは、新しいお友だちのスカーレットだ。
『すかちゃんは、知らない大きい人が苦手なんだと思うの。』
オリバーの膝の上で足をぷらぷらさせながら、
アスランはカイラに言った。
『ミネルバさまが怖いだけじゃなくて?』
サンドイッチを綺麗に切りながら、カイラは問い返した。
『んー。
ミネさまは迫力あるもんね。
絵本で見たライオンに似てるよ。
すごく、声も、おっきい。
でも、すかちゃんは、カイラと僕以外の人は、たぶんちゃんと見分けついてないと思うの。』
『『やっぱりそう思う!?』』
おもわず、オリバーとカイラはハモった。
『たぶんだけど、ミネさまとばー…エディンさまの見分けもついてないと思う。』
『目が悪いのかしら…』
すんでのところで、むしろ頭が…という言葉を飲み込みオリバーはアスランの頭をなでた。
『うーん。どっちかっていうと、みたり、みられたりするのが苦手なのかも。
お顔みてお話してても、一秒ごとに視線はずしたり戻したりするんだよね。』
『たしかに』
『そうね。』
『でも、おともだちだから、お話したいの。』
『たしかに』
『そうよねー。』
『そしたら、気がついたの。
すかちゃんをみるんじゃなくて、すかちゃんの見てるもの見ながらお話すると
お話続くって。』
『たしかに!』
『いいことに気がついたじゃない!』
『すかちゃん、カイラの作るイカの唐揚げが好きなんだって。昨日は唐揚げみながら、いっぱいお話した。』
『たしかに、(美味しかったです。)』
『しょ、庶民的なお嬢様ね。』
アスランは、宙を一度見てから頷いた。
『ん、決めたの。
すかちゃんのこと、助けるの。』
力強く宣言するアスランの頭を
オリバーは励ますように優しく撫でた。
☆
『たぶん、スカーレットがいじめられたのは
わたくしたちにも原因があるのですわ。』
公爵夫人ズの中では比較的小柄なナタリーはそう話始めた。
『スカーレットの通うオトメゲーム学院は、
マウント女子に勘違い男子が多いことで有名ですの。』
『まうんとってなに?』
『相手をねじふせてその上に乗り上げて自分の優位を高らかに叫ぶことですわ』
『うわー。学院って怖いねぇ。』
アスラはプルプルと震えた。
オリバーもまつげを震わせた。
『まあ、だいたい世の中どこもそんなもんですわ。
相手の弱味を見つけたら、そこを叩いてえぐって切り刻んで塩を塗り込む…そうやってライバルを排除して行くのです。』
『えぇえ…。』
『たしかに…』
『わたしたちはスカーレットの弱味なのですわ。』
『なんで?』
『15人もいるからです。』
『…そうなの?』
『具体的な話をしても?』
ナタリーはオリバーをみた。
『…150枚くらいオブラートに包んでいただければ。』
『オブラートってなに?』
『苦い薬の味をわからなくするための薄い包みですわ。』
『苦いんだ。』
『にがえぐまずいです。』
☆
『ねぇ、アスラ。』
もうそろそろ、オリバーに許された時間が終わろうとしていた。
タイマーはあと15分をさしていて、
オリバーはベッドに腰かけていた。
『ん?』
アスラは自分の枕を設置し、犬と猫はすでに潜り込んでいた。
『アスラはスカーレットにどうなってほしいんですか?』
『幸せになってほしい。』
『幸せ…どんな風に?』
『んー。』
アスランは、オリバーを見上げた。
『自分は幸せであるべきだって思ってほしい。』
オリバーは、一瞬きょとんとしたが
たしかに、と呟き頷いた。
『たしかに、たしかに。
ではアスラン。明日も頑張りましょう。
おやすみなさい。』
アスランに毛布を被せ、
自分も横になり
残りの10分、オリバーは暖かさを楽しんだ。
『たしかに、幸せになるべきですね。』
プランAとは違う幸福な眠気に
オリバーは沈んでいった。




