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ディアン絵本の話を聞く

「理事ちょ、う?」


「ん、おかえり」


俺は転移後すぐに周囲の状況を把握、床に血だらけで倒れる理事長とそれを見下ろすテレーズを見つける


「理事長!……死んではないですよね?」


「やっぱり強かった。でも手加減はしたから死んでない」


「あぁ、言ったこと守ってくれたんだ……」


即戦闘になるかと思ってちょっと緊張してきたのに、ちょっと脱力


「………お、再生したのじゃ」


理事長の体から傷が無くなっていく。どうやら内部ダメージの方が大きく、その修復に時間がかかったようだ


「理事長、指示ください。足止めくらいしますんで」


「わ、わ、待って。私もう戦わない」


俺がテレーズ相手にどれだけ耐えれるかは分からなかったが、理事長との共闘なら倒せるかもしれない


そう考えて言ったが、テレーズには本当に戦う意思はなくなったようだ。というか、俺が転移した時には剣しまってた


テレーズ、魔族に恐れられている割に戦いに発展しなくない?


「勇者全滅時には……帰還が許されてる。いぇーい」


無表情でピース。いや、どこの物語の人ですか


「えっと、じゃあ帰るんですね?」


「うん」


あっさり頷くなぁ……


「捕らえた勇者は……好きにして。多分見捨てられるから」


うわ、助けに来るとかないんだ。人族って血も涙もねぇな!魔族が言うなって?魔族は仲間意識高いもん


「少しいいか勇者テレーズ。お主、昔と性格違いすぎるじゃろ。人族の方針が変わったのか?」


理事長がテレーズにそう聞く。テレーズの昔話は少し気になるな。ちょっと調べようかな?


「人族としての方針は……変わらずに魔族全滅。ただ、私の意見が変わっただけ」


「ほぅ、愚者にでもなるか?」


「……必要があれば?」


愚者って何だろ。知らないことばっかで話についていけなくて辛いです


「アレだけ機械の様だったお主が、まさか普通の人族のように感情を持つとはなぁ。いい事じゃ」


「ん、ありがとう……ディアン」


「えっ、俺なんにもしてなくね」


急にこっちに話を振られても困るんですが!説明して!ゆっくりたっぷり説明して!


「じゃ、帰る」


「あ、うん。またねテレーズ。今度は遊びに来てよ。戦闘じゃなくてさ」


俺は混乱する頭でそう言った。言って思ったけど勇者が魔族領域に来るのって駄目じゃねぇか!?


しかしテレーズの驚きながらも、分かりにくいが嬉しそうに微笑む顔を見ると、まぁいいかってなる


来た時は理事長呼ぼ。対抗戦力は必要だよね……?


「じゃあ、また来る。バイバイ」


手を振って転移魔法でどこかへ転移()んでいった


「………ディアン=フォーループ。勇者テレーズが来たら儂も呼べ。彼奴をお主にだけ任せてはおけんからのぉ……」


「勿論ですってか、気づいたら来てくださいマジで」


そんなこんなで、勇者襲撃は終わった。建造物的な被害はかなり多いが、死者はいないようだ


復興まで学園は中止


被害の中にダンジョンがあり機能停止状態になってしまったので、今後の授業ではダンジョンが使えないそうだ。楽しみにしてたのに!






「あ、兄様!」


「マーリナ。お疲れ様、勇者倒せたみたいだね」


俺はマーリナの元に転移。見たところ怪我もなく元気そうだ。アレン達も無傷!先生方が結界で守ってくれてたおかげか。優秀な先生方がいて良かった


「はいっ!案外大したことなかったです」


そう言えるのは限られた人だけだと思うよ


「怪我がなくて良かった。体に異常は?痛みとか無い?かすり傷でも治すよ!?」


「に、兄様。心配しすぎですよ」


「いや、そんなことは無い。マーリナに傷があれば俺の心がかなり傷つく。それにあのバカ親もな」


「兄様……っ!大丈夫です!私の全ては兄様の物なのです!勝手に傷を作るようなことはいたしませんとも!まぁ例外もありますが」


「嬉しいぞマーリナ!このこの!」


「きゃーー!」


嬉しそうに俺に頭をくしゃくしゃと撫でられる


兄ちゃんは兄思いのいい妹をもてて感激だ!ちょっとだけ言ってること重たい気がするけど、まぁ気のせいだな!


「ディアン殿たちについてはもう何も言うまい」


「懸命な判断だなツールドさんよ」


何か言いたいなら聞こうじゃないか、アレンにツールドさん?


「兄様、それで他の勇者は?」


おっと、説明がまだだったな


「待ってね。先生方も聞いてください。理事長からの言葉を伝えます」


俺は生徒をまとめている先生達に声をかける


「いいですか?……生きていた勇者は帰還しました。この街に来ていたのは五人。死亡二人、拘束二人、帰還一人。帰ったのは勇者テレーズ、通称狂った勇者です」


この通称あんまり言いたくないんだけど


「なんと……」

「あの勇者が来ていてこの被害なら……」

「理事長は無事か!?」

「拘束した勇者は何処に?」

「取り敢えず被害を確認してこい!」

「魔法で仮の避難所を作って!」


おぉ、流石に優秀な先生なだけあって対応も早い。土魔法で仮住居等々を作る。王都に家がある人は帰宅させているようだな。無事を確認させる為だろう


「ディアン=フォーループ君だったね。理事長に伝言を頼みたいのだが、魔力はあるかね?」


確か、校長か!転移魔法を使えるのを知ってたっけ?まぁいいや


「えぇ大丈夫です。なんと伝えましょう」


「生徒を帰宅させる許可と、暫く休校すると伝えてください。流石にすぐに治る被害ではないですし、授業の変更をせねばなりません」


成程な。それならばお安い御用だ


「分かりました」


俺が返事をすると校長はお辞儀をして先生達に支持を飛ばし始めた。凄いな、校長なだけある、ということかな?


「兄様、私も参ります」


「あぁ、行こうか。アレン、ツールドさん、マリアさん、一旦別れるが後で会おうか?」


「そうだな」「うむ」「それでいいと思うよぉ」


よし、場所は探知魔法あるから探して声をかければいい。では理事長の元へー!


◇◆◇◆◇◆


「了解じゃ。こればっかりはどうしょうもないからの」


忙しそうに指示を出している理事長の元に転移し、少し待って声をかけて校長の言葉を伝える


「しかし、被害が大きい。学園だけでなくその周囲にも崩壊している箇所が何箇所もあるな」


「好き勝手暴れてましたからね、勇者」


「まぁ、テレーズが暴れなかっただけマシですか?」


「うむ。彼奴が暴れれば学園なんぞ消し飛んでおるわ」


げぇ、そんなにやばいのかよ……よく無事だったな今回


「勇者テレーズですか。父と母も戦ったけど歯が立たなかったとか」


戦ってたのか両親よ。生きててよかったな


「そうじゃな。今出来ることは終わったし、絵本にもなっている昔話でもしようかのぉ」


「えっ、どうしたんですか急に」


「なに、気まぐれというやつじゃよ」


内容は、魔族の間で子供を躾する時に使われる狂った勇者についての絵本


◇◆◇◆◇◆


昔、無敵の魔王様がいました。今はその座を譲り、元魔王となって学園を運営しています


その魔王様が出陣した戦場は常勝無敗。人族達は逃げ惑うしかありません


しかしある時、人族が異なる世界から他の人族を呼び出したのです。人族は彼らのことを勇者と呼びました


そして、それが鍵となったのかこの世界の人族にも勇者として覚醒する者が出てきました


魔王様はそれでも勝ち続けました。異なる世界の人族を蹴散らし、この世界の勇者を倒し続けました


やっぱり魔王様には誰も勝てない。魔族は勿論、人族ですらそう思いました


そして、人族領域王都に魔王様は攻め入りました。ここを落とせば魔族が勝っていたでしょう


そう、落とせたなら


その日、魔王様が初めて敗北を知りました。しかも負けた相手は人族の女の子供でした


この少女こそ後に狂った勇者と呼ばれるようになる少女です


三日三晩に渡る激戦。魔王様と少女は絶え間なく戦っていました。勝敗を分けたのは、味方の兵士達です


人族の兵士達は陣形を組み、次々に魔王軍の兵士達を倒していきました


魔王軍の兵士達は個々の能力は高いですが、他の人と協力することが苦手でした。それに引き換え人族の兵士達は他の人と協力することが得意でした


各個撃破された後には魔王軍は魔王様を残すのみとなってしまっていました


魔王様はこれはまずいと、初めての敗走をしたのです


人族側では祭りになりました。これまで蹂躙してきた魔王様に一矢報いることが出来たのです。勇者を祭り上げて、大いに盛り上がりました


勇者以外は


勇者である少女は顔色一つ変えずに部屋に戻ります


「それが…私の仕事…だから」


少女は褒められると毎回そう言いました


初めての敗戦後も何度か魔王様と勇者の少女は殺し合いました。魔王様は魔族の為、少女は人族の為に力を振るいます


しかしその一度も魔王様が勝つことはありませんでした。何度も傷つき、殺される


時には少女一人に対して、魔王様含め数百の軍勢で向かうこともありました。しかしその全てを無表情のまま全て殺し尽くしました。戦うごとに強くなり、最後には魔王様すら数分立っていられるのがやっとでした


それ以降、魔族が進軍することはなくなりました


また人族もこちらに進軍することも無くなりました


しかし、この平穏は長く続くとは思えません


将来、魔族の子供達が安心して暮らせる日々が来ていることを作者(わたし)は願っています


◇◆◇◆◇◆


「絵本はこんな感じじゃったか」


これ本当に絵本ですか……?


それに思ったけど、テレーズどんだけ生きてんの。長生き過ぎない?


「魔族との戦争が無かった頃の彼奴は、反乱軍などの討伐をしておったらしい。最近ではその仕事も少ないみたいじゃが」


「えっと、理事長。勇者テレーズは何歳なのですか?理事長と同じくらい長生きしてることになりますが」


マーリナが理事長に聞く。それめっちゃ気になるんだよ


「……人族の中には《守人(もりびと)》という者が現れることがあるらしい。《守人》は不老とされている。死なぬ訳では無いが、老いで死ぬ事は無い。多分彼奴は《守人》なのじゃろう」


へぇ……《守人》ね。なんか違う気もするが、理事長が分からないなら多分これが一番近い答えなんだろう


「狂った勇者と呼ばれ始めたのは魔族との戦争がなくなったあとじゃな。同族の人族ですら無表情に慈悲もなく殺す。それが由来じゃ」


そんな風には見えなかったが、テレーズが言った通り考えが変わったからか?何にせよ今のままのテレーズなら仲良くできそうだ


「さて、儂は仕事に戻る。お主らも両親に無事を伝えに帰ると良いわ。学園再開の際には各家庭に連絡を送るのじゃ」


お、久々に家に帰れるのか。久々とは言っても一月くらいか?数えてないからわからないが、久々と感じるくらいには濃い時間だったようだ


「そういえば、クラス対抗戦はどうなるんです?」


「あぁ、お主らには伝え忘れておった。一応対抗戦メンバーに再戦するかと声をかけたところ、お主ら以外は全員首を横に振りおったわ。「勇者を倒せる生徒には勝てない」と口を揃えて言いおってなぁ。学園が直ったら叩き直さんといかん」


あぁ、先輩方、ご愁傷さまです。理事長の訓練は辛いですぞ……


「で、お主らはまだ戦いたいか?」


理事長はニヤリと笑うと、俺とマーリナに聞いてきた


「「勿論、対戦相手がいれば」」


兄妹で、笑顔で声を揃えて言う。理事長は腹を抱えて笑った


「ハッハッハ!やはりこうでなくては!お主らの優勝じゃ!魔王からの褒美を考えておくが良いわ!それに、魔王と四天王のチームと戦う権利をくれてやろう」


お、淳也とチーム戦か。これは楽しみだな


タワーディフェンスゲームというものがあるだろ?淳也、あれ上手いんだ。チェスも淳也に勝てない。だから指揮系統は淳也が上


まぁ俺はレベル上げて殴るやつなので、ゲームではユニットの火力で勝ってたけど。でも今回は俺とマーリナ以外はいい勝負そうだからな


死ぬこともないし、ゲームみたいだ。四天王って事は仲間との連携も上手いんだろうな。前の二人(カラミナとガウィディア)はそこまででも無かったけど!


それにサルマニア。あいつも協調性はなさそうだ。あれ、案外勝てそうだぞ?魔王軍大丈夫なのか……あ、ダメだから俺たち呼ばれたんだった


「ふむ、そうなると帰宅は遅らせてもらうしかないのぉ。明日、瓦礫を撤去して場所を確保しておくのじゃ。もしかしたらお主らのチームメンバーが既に帰宅しているかもしれぬが、その時はどうする?」


そっか、解散したの結構前だもんな。家族が心配して既に迎えが来ているかもしれないのか


「あ、じゃあ居なかったら代わりを用意するのを許可してくださいよ」


まぁ、代わりってアレン達なんだけどさ。他に頼れる人知らないし


「良かろう。早速アラースト=リオレール達に声をかけてこよう。参加しないと言った場合も代役を立てるのを許可する」


「ありがとうございます」


俺とマーリナは理事長にお辞儀をする。これ以上仕事を邪魔しちゃ悪い


「ま、明日は頑張ると良い。今日は……どこで休むのじゃ?」


「壊れていない寮を見つけてるのでそこでいいかなと。他に部屋も無さそうですし。宿も埋まってるでしょう」


皆が帰宅するなら一部屋くらい空くだろ


「そうか。本当はそんなことさせたくないのじゃが、スマンのぉ」


「いいですよ。理事長が悪いわけじゃないですし」


「えぇ。勇者なんて天災のようなものですから」


酷い言い様だが、否定出来ねぇ……


「そう言ってくれると少しは気が楽になるのじゃ。不便があれば言ってくれ。出来る限りなんとかしよう」


「ありがとうございます。では」


部屋を出て寮に向かう


「部屋があるといいですね、兄様」


「そうだな」

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