ディアン達のクラス対抗戦その五
「兄様!」
なんだ朝早く……もう少し寝かしてくれ
俺はマーリナの声で起き上がり外を見る。日が昇ったばかりじゃないか!時間で言うと五、六時かな
しかもここ男子寮。ノックも無しに扉を開けるんじゃありません
「マーリナ、何か言うことは?」
「とても心配しました!」
泣きそうな顔をしてそう叫ぶマーリナ
それを言われるとこちらとしては何も言えなくなりますな
「あー、うん。それについてはごめん」
「本当に……心配しました。無事でよかった……」
ついに泣き出してベッドに座っていた俺に抱きつく
ダメだなぁ俺は。妹にこんなに心配かけて
俺はマーリナの頭を撫でて泣き止むのを待った。ダメな兄貴で本当にゴメンな
「もう大丈夫か?」
「は、はい。恥ずかしいところをお見せしました」
顔を真っ赤にして俯くマーリナ。可愛い
「で、お前も気は済んだかアレン」
「何だ、バレてたか」
コイツ、マーリナが部屋に入ってきた段階で起きてたくせに
「えっ、アレンさんにも恥ずかしいところ見られました!」
「気にすんな。ディアンが出てった後からこんな感じだったろ」
それが本当ならマジでスマン。心配かけたってレベルじゃないわ。これ以上は心配かけ過ぎで心労で死んでしまうわ
「………今度何かしてやらんとな」
「そうしてやれ。ホント、見てるこっちが冷静になれるくらいには慌ててたからな」
「アレンさん!」
アレンに腕を振り上げて威嚇するマーリナと、楽しそうに笑って立ち上がるアレン
まぁ何にせよ。助かった上に強くなった。今後はこんな綱渡りはしないようにしよ
俺はそう誓った。ぶっちゃけると俺も心臓破裂しそうなくらい緊張したんだかんな!
◇◆◇◆◇◆
「で、儂に用事とは?」
書類に目を通し、手を止めることなく聞いてくる
朝早く目が覚めてしまった俺は、理事長室に来ていた。朝早くからお仕事お疲れ様です
「昨日、勇者テレーズに会いに行ってきまして」
「あぁ、聞いておる。全く無茶しおって。あまり妹を泣かせるものではないぞ?」
ニヤリと笑う理事長
「言わないでください……まぁ今後は無いと思いますよ。それで、勇者が居た場所なんですが」
「………場所?」
理事長はニヤニヤ顔から一転して真剣な顔を浮かべる
「魔族領域内に居ました。それも他に勇者がいる様子でした」
「複数の勇者で魔族領域に……魔獣狩りではないのじゃな?」
あの辺にはそれほど有用な魔獣がいなかったはずなので、その線は薄いだろう
「恐らくは」
俺の肯定の言葉にムムムと唸る
「こりゃ最悪を考えた方がいいかもしれんのぉ。勇者召喚後のレベル上げ、なんて考えで来たりするやもしれぬ……実際、王都などと言われておるがここの守りは手薄じゃからの」
えぇ、王都って手薄なの……?あー、魔王が住んでないもんな王都。名ばかりの都市よ……
魔王は魔王城に居るので、王都にはいない。魔王城、実は空にある。その転移陣が王都にあるだけなのだ
その転移陣も魔力を込めるのに時間がかかるらしくてすぐに起動出来ない。その為長期戦じゃないと使えない
「理事長、勇者は王都に来ますか?何のためかなんて考えても分からないですけど」
「来るじゃろうな。理由は儂にも分からん。じゃが、人族側に有益な何かがあるのか、ただ単に戦力を減らす為なのか、新人勇者を育てる為か。思いつくのはこの辺りじゃろうな」
だろうな。せめて勇者育成とかで攻めてこないでほしい。魔族はRPGのモンスターじゃないんだぞ!結構出てくるけどさ!
「仕事を増やしおって人族の奴らめぇ……テレーズは儂に任せてお主は他の勇者を殺して欲しいのじゃ。師匠と殺し合うのは辛いじゃろ?勝てるかもわからん」
人殺し。魔獣の血ではなんとも無かったが人を殺すとなると、どうだろうな。正直、分からない
「人を殺せないか?」
理事長が優しく微笑む
「……分からないです。悪人なら確実に殺せます。ただ、無抵抗なら無理かな、と」
「そうか。元々学生に頼むことではない。お主もまだ子供じゃ。あとは大人に任せておくが良いわ。教員を集めればテレーズ以外の勇者を何とか追い返すくらいなら出来るじゃろ」
理事長はそう言って部屋を出ていく。対策を練るのだろう
理事長はあぁ言ってくれたが、王都が襲われれば生徒も戦線に出て行くだろう。それに、追い返せても戦力は減る。俺とマーリナが出ても守りきれるとは思えないな
俺は理事長室を出ながらそう考える
まだ来ると決まった訳じゃない。テレーズが稽古をつけてくれた理由が分からなくなるし。それに新しい勇者がどの程度使えるのか分からない。流石にテレーズ程強いなんてことは無いはずだ
「兄様……?」
部屋の外で待機していたマーリナとアレンが不思議そうにこちらを見る。これ以上心配をかける訳にはいかないな
「さ、行こうか。高等部二、三年の試合を見に!」
俺は出来るだけ笑顔でそう言った。何か言いたげだった二人だが、何も聞かれなかった。ホントスマン
◇◆◇◆◇◆
「何か、パッとしなかったな。それに司会の先輩三年の選抜だったな」
俺はアレンの言葉に頷く
司会の先輩、負けてたけどな!
そんなことは置いといて、確かにレベルは高かった。ステータスを生かして戦えていたし、新しく作られたという魔法も使い勝手の良さそうなものも幾つかあって参考になった
敵を策にはめるのも中等部とは比べ物にならないくらい上手かった。ただ
「ナタルーシェ=アシュレーと比べてしまうと……」
マーリナがそう言う。俺はテレーズと比べていた
最強と比べてしまうと何もかもがワンランクどころではないくらい下がってしまう。うーん、いい事なんだけど何だかなぁ
「ナタルーシェ先輩と比べちゃ可哀想だぜ。俺にはどれも凄ぇと思えたぞ」
アレンはその辺分けて考えられるのは凄い。楽しむ時は楽しむってことか
「まぁ、最強相手に死ななかった俺からしたらナタルーシェ=アシュレーさんもそこまで脅威じゃなくなったわ」
「流石兄様ですけど、次は許しませんからね」
マーリナのジト目プライスレス。なんてぼけてる場合じゃねぇ
「分かってるよ。出来るだけ無茶は止めるから」
「本当に止めてくださいね。でもこれでEXバトルは優勝確定です!」
「早くマーリナも強くなってくれよ。魔王軍に入れなんて俺はもう言わない。危険だってわかったからな。ただ、力はあった方がいい。自衛の為に。アレンもだぞ!」
「分かってます兄様」
「当たり前だ。俺は魔王軍に入るけどな」
嬉しそうに笑うマーリナと不敵に笑うアレン。うん、やる気があってよろしい
「じゃ、強くなる為に取り敢えずEXバトル勝ち抜けるとしますか」
「はいっ!」
「な、なぁディアン。俺もダンジョンに入れるようにしてくれよ!」
「ばーか、お前は頼んでも無理だよ!戦力になるかわからないってな感じで無駄死にさせてはくれないぜ!」
「んだとコラァ!」
笑いながら寮に戻る。今日の用事はもう無いし時間もあまり無いからな
明日は俺たち初等部全学年で一組決める。一年で三組、二年で二組、三年で二組か。合計七組のバトルロイヤル。ツールドさんたちには悪いが、負けるわけにはいかないんだよね
◇◆◇◆◇◆
〜六日目〜
「さぁやっていきましょうクラス対抗戦。今日は初等部全学年で生き残っている組が全員で戦いますよ!人数が多くて混戦になりやすいですから頑張っていただきたいですね!前回お茶を飲んでた四人!今回は真面目にやってね!」
昨日負けたのにかなり元気な司会の先輩がそういった。大丈夫大丈夫。今回はすぐ終わらせるから
「なぁディアン……今回も」
「アラースト、スマンが今回は譲れ。明日のEXバトルは限界まで手を出さないから」
「えっ」
「明日はナタルーシェ先輩が出るだろ?ナタルーシェ先輩は俺が抑えるとして、それ以外をアラースト達に任せたいんだ。今回はすぐ終わらせて、明日への調整にしよう」
「……勝てるの?」
オーディーさんがそう聞いてくる
「勝てる。ナタルーシェ先輩だけなら」
それ以上だと魔力隠して戦うとか無理
「ふむ、俺達はEXバトルは諦めていたんだがディアンはそうでは無かったようだな。アラースト、この後特訓に付き合え」
「ヤーナル……分かった。ディアン、今回は任せた。だが明日は任せてくれ。絶対ナタルーシェ先輩だけを引き離してみせるから」
「私も頑張るわ」
三人とも納得してくれたようだ。最悪マーリナがいるからなんとでもなるけど、やっぱり仲間だし頼ってかないと
「それでは、試合開始!」
「メテオレイン」
ーーー……どおおおおおん!!!
開始の合図で魔法の絨毯爆撃。俺達は結界張ってるから無傷。煙で相手が見えないが、大体はこれで終わったろ
「えっ、ちょっと何が起きたの!?」
絨毯爆撃しました。声には出さないけどね
「けほっ、流石にこれはないだろうディアン殿」
「死ぬぅ、魔力切れで死んじゃいますぅ」
ツールドさんとマリアさんか。生きてるとかやるな!
他に数名立ち上がる者がいるがみんな満身創痍だな
「フェイクフェアリー:雷」
立っている者に五個ずつ飛ばす。気絶させれば勝ちだからな
この魔法を耐えきったのはツールドさんとマリアさんだけ。あの二人実戦慣れしすぎじゃないか?
刀術スキルで魔法を切ったツールドさん。何であの人Cクラスなんだ
「ふぅぅ……無理!もう腕動かないよ!ディアン殿のバーカ!」
「えっ!?」
突然ですが、ツールドさんに馬鹿にされました。ナンデ!?
「降参、降参!」「ツーちゃん待ってぇ!」
会場を走って出ていった二人。無言の空間がそこに残った
「あー、えっとぉ、試合終了!残ったのは一年Aクラスです!」
「「「「「「「わあああああ!!!」」」」」」」
司会の先輩がどうにか立て直してくれた。俺達はそそくさと舞台裏に引っ込んだ
「ディアン、あれはちょっと……」
「……最低」
「ま、気にするな」
苦笑いのアラーストに、ジト目のオーディー、笑うヤーナル。そして無言で微笑むマーリナ
や、やめろぉ!そんな目で俺を見るんじゃないやい!
「ま、まぁ勝ったし?良かったんじゃね?」
「「「「………………」」」」
「やり過ぎました!」
「「「「よろしい」」」」
勝ったのに……俺勝ったのに……もうナタルーシェ先輩とは刀でしかやらんわ
俺は寮に帰って休むことにした。中等部と高等部の試合は見てる気分じゃなくなったよ!
◇◆◇◆◇◆
〜ナタルーシェ視点〜
あの魔法、私でも危なかったかもしれません。初等部のAクラスはあのような人材が入ったのですね
「ナタルーシェ様」
初等部の試合を見ていると、背後から声をかけられました。選抜の仲間ですわ
「何かしら」
「リーダーがお呼びです」
彼女が……仕方ないですわね
「すぐに行きます。案内なさい」
「はっ」
立ち上がって歩き出すその背を追います。全く、まだ手の内を見切っていないというのに……彼、厄介ですよ
「よく来た」
通された部屋にはチーム全員が揃っていました
「要件はなんですかラン=ネヤルガ。私、忙しかったのですけど」
主に勝つ為の情報収集に
「分かってるよ。だがよ、アイツやべぇだろ?」
アイツ?
「初等部一年ディアン=フォーループ。さっきの魔法を使ったヤツだ」
ディアン=フォーループ。フォーループと言えば《雷帝》と《氷帝》の家名だったわね。成程、二帝の息子というわけね
「確かに。あの歳であの強さ。私自信をなくしましたわ」
「お前より強いと思うか?」
「えぇ、確実に」
去年私が倒した先輩方の気持ちが少しわかる気がします。やはり、年下に抜かれるのは気分が良くないですね
「今回魔王様から褒美貰えるって事で喜んでたが、これは予想してなかったぜ」
「私もですわ。でも、負けたと決まった訳では無いでしょう?」
「……勝てると思ってんのか?」
何故そんなに困った顔をしているのでしょう
「私が彼を抑えます。貴女方は他のメンバーを倒してこちらに駆けつけてください。そうすれば多少勝ち目があるでしょう」
「何秒持つ?」
「秒……信用無いですわね。三分、いえ五分は持たせて見せますわ」
そう胸を張る
あれ、何故か呆れられてしまっていますわ
「いや無理。私ら真っ先に狙われるんだし、四人と九人なんて勝負にならん」
あら、諦めているのですね
「珍しいですわ、貴女が泣き言なんて」
「………ディアン=フォーループは次席って言ったら信じるか?」
次席……えっ、まだ上がいるんですの!?
「主席の間違いではないのですね?」
「マーリナ=フォーループ。ディアン=フォーループの妹。今年の主席は妹だ」
私、自信が粉砕されましたわ………
「無理ですわ。できるだけ頑張りますけれど、諦めた方がいいですわ」
「だよな。幸い三位までは褒美をくれるらしいから、要望あったら言ってくれ。お前がいなければ高等部一年は残っていなかっただろう。皆もお前の意見を通すと言っている」
まぁ、そんな。こんな私でいいのでしょうか
「でしたら、皆で食事でもしたいですわ。魔王様と一緒に、ね?」
「「「「!?」」」」
実はこのチーム、全員魔王様をお慕いしているのです。もちろん私も
ですのでこの提案、皆へのお礼を兼ねているのです。ふふふ、見事でしょう?
「わ、分かった。入賞したらその褒美にしよう!」
「俄然やる気が出ましたわ!一位は無理でも、二位は貰います!」
「「「「おぉーー!!!」」」」
頑張りますわ!
◇◆◇◆◇◆
〜七日目〜
自分が原因でとあるチームが優勝を諦めたとは知らずに、翌朝を迎えたディアン
「さて、今日は学園最強を決める試合になるんだ、頑張ろ」
俺は着替えて寮を出る。アレンはもう席を取りに出て行った。早すぎるが、まぁ最終日は人気だもんな
「兄様、お待ちしておりました」
「待たせたねマーリナ。行こうか」
マーリナが嬉しそうに隣を歩き出す
その時、会場の方から爆発音が轟いた
嫌な予感がした。まさか、早すぎる。この間まで魔族領域の端にいたのに……っ!
「に、兄様!?」
マーリナの手を握る。待ってられるより一緒にいた方が守りやすい
クッソ、どうやってこんなに早く!いや、今は理事長んとこ急ごう。情報はそこに集まってるはずだ!
焦る気持ちを抑えて探知魔法で理事長を探し出した
「転移!」
俺は理事長の元にすぐに向かった




