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第9話 領都への旅と招かれざる客

 次の日の朝、斡旋ギルドの前には小型の馬車が出発を待っていた。乗り合い馬車とは違い定員四名ほどで御者の男性と客席には案内人としてだろう女性がひとり乗っていて、こちらに気づいたらしく馬車から降りてきてお辞儀をした。


「お待ちしておりました。治癒魔法士のナオキ様ですね? この度はアーロンド様の依頼をお受けいただきありがとうございます」


 彼女は優しく微笑むと今後の説明をしてくれる。


「アーロンド伯爵様は領主邸にてお待ちですのですぐに出発させて頂きます。領都までの時間は約四日、途中に村がありますのでその日は宿を予約しております。その他の日は夜営となりますのでご了承ください」


 案内人の女性はテキパキと運行説明をしてくる。


「お荷物は宜しいのでしょうか?」


 俺が何も持たずに馬車に乗り込もうとするのを見て彼女が聞いてきた。


「ええ、荷物は全てアイテムボックスに入れてありますから大丈夫ですよ」


「アイテムボックスですか?」


 女性は初めて聞いたとばかりに不思議そうに首を傾げる。


「ええ、こんな感じで別の空間に荷物を入れておける魔法スキルです」


 俺はそう言いながらアイテムボックスから飲み物を取り出して彼女に差し出した。


「!? 今、何もない空間から取り出しました?」


 俺は彼女の態度を見て、アイテムボックスの認知度の低さに苦笑いをしながら説明をした。


「これがアイテムボックスですよ。聞くところによれば意外と珍しい魔法スキルだそうで初めて見た方は驚かれることが多いですね」


 俺が普通に接すると彼女もそれ以上深く追求することなく頷いてくれた。


「あ、自己紹介を忘れていましたね。私はアーロンド伯爵家の侍女長をしているミリーナと申します。領都サナールまでのお世話を申し付けられておりますので宜しくお願いします」


「治癒魔法士のナオキです。領都は初めて行くので色々と教えて欲しいことがあるので宜しくお願いしますね」


 お互いに簡単な自己紹介をすませた頃、ひとりの女性が何か叫びながら走って来た。


「その馬車待ってくださーい!」


 その聞き覚えのある声に俺は思わず叫んでいた。


「リリスさんじゃないですか!」


 懸命に走る彼女に俺は彼女がギルドマスターと話していたことを思い出していた。確か俺のお目付け役として同行するとかなんとか言ってたな。


「はあはあ。ふう、良かった間に合いました」


 息を切らして来たリリスはギルドの制服姿で傍から見れば何か重要な忘れ物でも届けてくれたみたいにも見えるだろう。


「えっと、あなたがアーロンド伯爵様からの案内係ですか?」


「はい、ミリーナと申します。その服装からギルドの関係者さまでしょうか?」


「サナール斡旋ギルドのリリスと申します。今回、当方のギルドに所属されているナオキ様に同行するようにギルドマスターから命令を受けています。これを……」


 リリスはギルドマスターからの手紙をミリーナに手渡す。ミリーナが書類を確認すると頷いてリリスに伝えた。


「拝見いたしました。どうぞ、ナオキ様と一緒に馬車へお乗りください」


 ミリーナはリリスにそう告げると俺も馬車に乗るように促す。俺が馬車に乗り込むとミリーナは御者の男性に指示を出し、自らも馬車に乗り込むと出発の合図を出した。


「――先日の話でも出ていたと思いますが、私も仕事でサナールの斡旋ギルドに行く許可が出まして。それで先方へのナオキさんの事情説明も兼ねて同行するようにとのギルマスからの指示があり、同行させて頂くことになりました」


「それは簡単に言うと『俺が何をするか分からないからしっかりと見張っておけ』という意味なのかな?」


「まあ、ぶっちゃけそうですね」


「はあ……。俺はそんなに信用ないかな?」


「いえいえ、そんな事はありませんよ。ナオキさんの場合は信用が無いんじゃなくてやらかすのが普通ですから」


 リリスは全く悪びれずにニコニコしながら俺をディスってくる。


「あの……。ナオキ様は本当に大丈夫な方なんでしょうか?」


 俺たちのやりとりを横で聞いていたミリーナが不安そうな顔でリリスに聞いた。


「ほら、リリスさんが不安を煽るからミリーナさんまで俺を信用しなくなるじゃないですか」


「あはは、ごめんね。ナオキさんの顔を見てたらいつもの調子でやっちゃったの。まあ、いろいろ言いたい事はあるけれど腕前だけは信用して良いですよ」


「そ、そうですか……」


 ミリーナは微妙な表情で生返事をしていたが、一応納得してくれたようだった。


◆


 そんな会話をしているうちに馬車は野営の出来る水場に到着した。領都までは乗り合い馬車で約五日、今回の直行馬車でも四日はかかる予定だ。その途中に小さな村があるだけで基本的には野営をして休息を入れていくのが普通だった。


「今日はこの辺りで野営をします。夕食の準備をしますので馬車から降りられてゆっくり休まれてくださいね」


 ミリーナが馬車の荷物置場から簡易の調理器具と材料を取り出して夕食の準備を始めた。


「領都って結構遠いんですね。カルカルの町と比べてどのくらい大きいんですか?」


 夕食作りの手を止めずにミリーナが答えた。


「町の規模はカルカルの四倍くらいでしょうか。当然ながら住んでいる人達の数もそれ以上ですのでナオキ様の職業が活かせる可能性が高い町だと思います」


 ミリーナはそう答えると手際よく夕食を作り終えた。


「出来ましたので夕食にしましょうか」


 辺りには作りたての料理の匂いが漂っており、簡易的なものとは思えない出来栄えに俺が感心していると、後ろの方から男達の声が聞こえてきた。


「なんかいい匂いがすると思ったらこんな所に旨そうな獲物がいるじゃないか」


「邪魔者は片付けて飯と女はいただいて行くとするか」


「馬車は目立つから馬だけで車(はこ)は谷にでも落としておくか」


 ニヤニヤと下品な笑い顔をした男達が剣を片手に近づいてきた。野盗の類だろうが、この世界はこんなに治安が悪いのかと俺は頭を抱えたのだった。

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