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第4話 最初の治療から難易度が高かった

「――この部屋です」


 俺が案内された部屋に入ると若い女性がベッドに寝かされていた。熱が高いのだろう、頬が赤く火照っているのが分かる。


「数日前から熱が下がらなくて咳も続いているんです。処方された薬も定期的に飲ませているのですが、なかなか効果が出ないんです」


 彼女が心配そうに、側に置いてあった水桶でタオルを絞り、妹の額の汗を拭う。


 「あれ? マリーお姉ちゃん? お仕事は大丈夫なの?」


 汗を拭かれた事により眠っていたミリーが目を覚ましたが、まだ完全に覚醒していない様子だった。


「ずっとこの状態が続いているんです。どうか妹を治してやってくれませんか?」


「分かりました。任せてください」


 俺はそう答えると治療のために患者の前に立った。だが、初めての治療に気持ちが逸っていた俺は『治療には患部に触れなければならない』ことを説明することを忘れたままに診察を始めてしまう。


「では、患者の状態を確認します。状態鑑定――」


 状態鑑定スキルを使うと俺の右目の色が黄金色に変化し、患者の状態がスキャンされる。その時に治療が必要な部位が赤く光り、その部分に触れて治療スキルを使えばいい簡単な仕事だ。


「呼吸器系、肺の炎症を起こしているようですね。これは辛いでしょう」


 最初はただの風邪だったのかもしれないが無理をしたのだろう、彼女は肺炎を起こしていた。現代日本だったら入院させて抗生物質を投与で様子を見るとなるのだろうが、この世界の薬学レベルはそこまで発展していないのだろう。


「病気の原因が判明しました。治療を開始しても良いですか?」


 身体を触るのだ、本人の同意は絶対に必要だろうと俺は患者であるミリーにそう問いかけた。


「お願い……けほっ……します」


 熱があるために辛そうな表情をしながらもミリーは俺の治療に同意した。


「では、治療を始めます」


 俺は彼女にかけてある毛布を剥ぐと徐にミリーの胸に手を押し当てて治癒魔法を唱えた。


「完全治癒(ヒール)」


 治癒魔法が発動し、緑色の光が俺の手を中心にぼんやりと浮かび上がる。女神様の祝福がきちんと発動している証拠だろう。


「すぐに楽になりますからね」


 時間にして数十秒ほどで手の光は消え、ミリーの胸に吸い込まれていった。


「ふう。これで大丈――」


 パシーン!


 俺が安堵の息を吐いた瞬間、隣で治療を見届けていた姉のマリーがいきなり俺の肩を掴んで自分の方に向けると頬を思い切り叩いて叫んだ。


「いきなり妹に何してるのよ! この痴漢! 変態!」


 マリーはそう叫んでキッと俺の顔を睨みつけたのだ。


「どうしてちゃんと治療をしたのに叩かれなきゃならないんだ!?」


 俺は叩かれた痛みよりも『どうして?』という疑問に捕らわれて、いまだに説明不足だったことに気が付かなかった。


「……君の治療は胸を触らないと出来ないのかね?」


 側で見ていた町長のバルドも冷ややかな視線を俺に向けながらそう問いかけてきた。そこで初めて俺は事前説明が不足していたことに気がついたのだった。


「あっ、治療方法について事前説明が無かったことは謝ります。ですが、今回の場合は仕方なかったんです」


「どういうことだね? しっかりと説明をしてもらおうではないか。そこで私が納得のいく説明がなければ君の身柄は拘束させて貰うことになるよ」


 バルドの表情は至って本気で、このままだと捕まってしまう可能性も十分にある。このままでは不味いと俺が説明をしようとした時、背後から救世主の声が響いた。


「あれ? 胸が苦しくない。身体のダルさも治まったようだし、熱も下がってるみたい」


 俺が声の主に振り向くと、そこには治癒魔法が効いて体調の回復したミリーがベッドから半分体を起こして胸をさすったり額の熱を確認したりしながら首を傾げていたのだ。


「ミリー! 大丈夫なの!?」


 すぐさま姉のマリーが駆け寄り妹の状態を確認し、無事に回復したのが分かると思い切り抱きついた。


「良かった! ずっと熱は下がらないし、本当に死んじゃうかと思ったんだから!」


 マリーは涙を流しながら何度も「良かった」を繰り返した。


◆


「――本当にごめんなさい。そして妹を治してくれてありがとうございました」


 ミリーの容体が回復したのが俺の治癒魔法のおかげだと認識したマリーは深々と頭を下げながら謝罪とお礼を言ってきた。


「いや、俺も治療方法についてきちんと事前説明をしておかなかったのは悪かったと思う。確かに、いきなり女性患者の胸に手を置く行為は誰が見てもびっくりするだろうからね」


 俺は叩かれて赤くなった頬をさすりながら苦笑いをした。


「その傷は治癒魔法では治せないのかね?」


 俺の行為を見て疑問に思ったバルドが聞いてきたので俺は苦笑いをしながらそれに答えた。


「ええ、非常に言いにくいのですが、俺の治癒魔法は『女性にしか効果が無い』のです。つまり男である俺自身に治癒魔法をかけたら現状よりも酷くなる(・・・・・・・・・)と聞いています。もちろん怖くて試したことはないですけど」


「いやはや、女性限定の治癒士とはな。他に治癒方法について、なにか制約はあるのかい?」


 バルドの問いかけに俺は正直に答える。ここで話しておけばこの町で治癒を仕事にした時のセーフティになるかもしれないからだ。


「ひとつは今話した『女性患者限定』でもうひとつは『患部に手を当ててスキルを使う』こと。こちらは重篤の度合いによって触れている時間が変化します。つまり『治るまでは手を離すな』ってことです」


「ふむ。聞けば聞くほど不思議な能力だ。だが、君が迷い人であるという事実に服薬では治らなかったミリーの病気がたちどころに治った事実も変わらないからな。分かった、私はその言葉を真実だと信じようじゃないか」


 バルドは頷きながらそう言ってくれた。これでいきなり牢屋行きは免れたに違いない。


「さて、無事にミリーも回復したことだし依頼の報酬を与えねばならないが何か希望はあるか?」


「そうですね。そう言えばここに来るまでに『身分証の発行』が必要だと聞きましたが町長様の権限で発行は出来るのでしょうか?」


「身分証か。それならば私が君の保証人となるので斡旋ギルドで新たに発行してもらうといい。併せて登録料も報酬として出すことにするから心配するな」


 また、斡旋ギルドの話が出たな。どうやらこの町で仕事をするには切っても切れない場所なのだろう。


「ありがとうございます。では、早速ギルドに行ってみることにします」


 俺はすぐに準備してくれた紹介状と登録料、それに当面の生活費まで上乗せしてくれたバルドに再度礼を言ってから屋敷を出た。


「もう、お話は終わったようですね。では、私が斡旋ギルドまでお送りしますね。ああ、町長から報酬は頂いてますので気にされなくて大丈夫ですよ」


 そこで出会ったのは先程の御者の男性。なんと、バルドはギルドまでの馬車手配までしてくれていたのだ。これは俺に対する期待なのか、それとも恩を売っておきたい気持ちからなのか。


「ありがとうございます」


 だが、どちらにしても俺には断る理由がないのでありがたく送ってもらうことにしたのだった。

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