グラストル王室の対応
前半は三人称視点、後半はヒーロ視点です。
競能会が行われた日の夕方ごろ、王城の謁見の間にシャルリットの父レベルト・レーアが訪れていた。
レベルトは片膝をつきひざまずいた状態で前方の少し高いところを見上げていた。
レベルトの前方には国王エヌヴァル・グラストルと王妃アンカージール・グラストルが椅子に座っており、その両側には第一王女クレメリー・グラストル、第二王女メラ・グラストルが立っていた。
グラストルには第一王子のマーク・グラストルもいるのだがマークはまだ14歳のためこの場には同席していなかった。ちなみに、エヌヴァルとアンカージールの年齢は40過ぎでクレメリーが20歳、メラが18歳である。
「レーアよ、此度はお主の娘を囮みたいにしてすまなかったな」
「いえ、ロリアデラ様のご命令であれば致し方ないかと」
「ああ、ロリアデラ様からこちらにいきなり連絡が来て、民を避難させるのに手一杯で他の案を出すことができなかった」
「結果的に被害者が出ませんでしたので国王様のご判断は間違いなかったと思われます」
エヌヴァルはレベルトにそう言われてもあまり納得いっていないような表情をしていた。
「ロリアデラ様から六魔天人の2人は対処したと報告があったが、詳しく教えてくれるか」
「私が把握しておりますのは闘技場に現れた六魔天人のラロジエのみでもう1人に関しては全くわかりません」
「うむ、そうか」
「ラロジエはまず私の娘を狙いましたが、競能会の決勝で娘と当たる予定だったヘルミー・ハウラプトがラロジエの相手をしました」
「ヘルミー・ハウラプト? ハウラプトと言えばあの一家心中したハウラプトか?」
「はい。アーロ・ハウラプトの娘でございます」
貴族で一家心中のような事件が起これば王室のほうにも報告が入っている。
「お父様、ヘルミー・ハウラプトは一家心中の際に生き残りその後奴隷になったはずです」
「レーアよ、クレメリーの言う通り我々の持っている情報ではそう聞いていたのだが、ヘルミー・ハウラプトは奴隷として出場したのか?」
「確かではありませんが、奴隷のような感じはしませんでした」
「そうか……して、そのヘルミーがラロジエの相手をできたのか? たしか、お主の娘と同じぐらいだろ」
「能力者として素人の私から見てもヘルミーは半年ぐらい前とは見違えるほど強くなっておりました。ラロジエと戦っても引けを取っていませんでしたがラロジエを倒すまでには至りませんでした」
「ほお、ということは誰が対処したのだ?」
ロリアデラは王室には使者を通して指示を出していたので、王室はロリアデラがその場にいたことは把握していなかった。
「ヘルミー・ハウラプトと一緒にいた男でございます」
「男? それは誰なのだ?」
「ロリアデラ様曰く、ロリアデラ様の恋人だそうです」
「ロリアデラ様の恋人……そういえば最近ロリアデラ様に恋人ができたと我らの耳にも入っておる。というか、いまロリアデラ様曰くと言わなかったか?」
「はい、ロリアデラ様もご一緒でした」
「人族大陸におられたのか……まぁ、ロリアデラ様の恋人であれば対処できても不思議ではないか」
「ちなみにですが、その男は人族でございます」
「「「「えっ!?」」」」
エヌヴァルだけでなく他の3人も同様に驚いている。4人はロリアデラの恋人と聞いて勝手に魔族と思い込んでいた……ただ、ヒーロも正確には人族ではないのだが。
「その男は名の知れた冒険者なのか?」
「名前はヒーロという方ですが、私は初耳でした」
「名前はヒーロか……たしかに、聞かぬ名前だな」
「私、お会いしたいですわ。あの顔をお見せしないロリアデラ様とどういった経緯で恋人になられたのかお聞きしてみたいですわ」
「メラ、お前な……ここに呼ぶにしても理由がそれではな」
「理由はどうであれ、今回の件を対処していただいたわけですから褒賞でも渡さないといけないのではなくて?」
「アンクの言う通りだな……」
エヌヴァルがアンクと呼んだのはアンカージールのことである。
「いずれにしてもその者を呼ぶにはロリアデラ様を通したほうが良いだろう」
「国王様、身勝手なお願いで申し訳ございませんが1つ申し上げてもよろしいでしょうか」
「ん? なんだ、言うてみよ」
「ヘルミー・ハウラプトにも何か褒賞をお渡しいただければと」
「うむ……ただ、ヘルミー・ハウラプトはいまヒーロとともにおるのだろう。であれば、ヒーロに褒賞を出せばそれで良い気がするが……」
「たしかにその通りでございます……申し訳ございません、少し私情が入りまして」
レベルトにしては珍しく急いた判断で要望を口にしてしまった。
「お前はたしかハウラプト家と仲が良かったか、よく気にかけていたように記憶しておるが」
「その通りでございます。私とハウラプトの当主アーロは親友でございまして、アーロの娘のヘルミーも大事に思っております」
「なるほどな、お前の気持ちもわかる。ただ、今回はヒーロに褒賞を出すのが妥当だろう」
「はい……」
「しかし、もし次に何かあったときは今回の件も考慮しよう」
「ありがとうございます!」
こうしてヘルミーが知らないところでヘルミーの貴族への道が少し前進していた。
オレは競能会が行われた数日後、みんなとリアの城でゆっくりしていた。
今回はミコ、ウィネ、ヘルミーに加えてイーリスさんも連れてきている。イーリスさんは妹のプリメーゼに会いたいだろうと思ったので連れてきた。
「ヒーロ様、紅茶でございます」
「ヒーロ様、茶請けでございます」
「お、おう。えーと、アドレアさんとプリメーゼ2人でやらなくてもいいんじゃないかな」
オレたちはいつものごとくリアの城の大きな部屋でソファに座っていたのだが、なぜかオレのところにアドレアさんとプリメーゼの2人がメイドとして付きっきりになっている。
「私どもは将来ヒーロ様のメイドになりますが、それはまだ不確定。であれば、ここぞとばかりにアピールしないと。あとヒーロ様、私のことも呼び捨てでお願いします」
「了解。まぁ、たしかに不確定だけど……」
「そうです。私たちが必要であることをわかってもらわないと」
「いや、紅茶とか出されただけでは何も変わらないから無理しなくてもいいけどね」
「うっ……ということは、もっとすごいことをしないといけないわけですね」
「なるほど、ではまだ朝ですがベッドのほうに」
いや、なんでそうなるんだよ。
「プリメーゼ、お前は逞しくなったな」
「お姉ちゃん、私もようやく自分の幸せのためにやるべきことがわかったわ」
ちょっといい風な感じの会話してるけど、やるべきことがちょっとズレてるからね。
「2人ともオレの家が大きくなればちゃんとメイドとして来てもらうから今はリアの城のメイドとして普通に仕事して」
「くっ、仕方ありません。今は我慢します」
「はい……せっかくヒーロ様とできると思いましたのに」
2人ともさっきと目的が変わってるから……あと、いま自分で言っておきながらこの2人のために家を大きくしないといけなくなった気がする。
「ふふ、ヒーロさんと一緒にいるとやはり楽しいですね」
「そう思ってくれるのはいいけど、そういえば何か話があったんじゃないのか?」
今日ここに訪れたのは気分転換もあったが、リアから話があると連絡を貰っていたからでもある。
「昨日、グラストル王国からヒーロさんに褒賞を授与したいと連絡がありました」
「褒賞? 何の?」
「先日行われた競能会への襲撃を対処した件です」
「うーん、それってヘルミーはもらえないの?」
「ヒーロさんであればそうおっしゃると思いましたので、私も確認しましたが今回はヒーロさんにお渡ししたいと」
オレとヘルミーの関係をどう認識しているかだが、もし主従関係と思われているのであれば主であるオレに渡すのはわかる。
ただ今回はもしかするとリアの恋人としてオレに何かを渡したいような気もする。
「向こうにはオレがリアの恋人であることはバレてるよね?」
「そうですね、レーア家の当主にも言いましたし私に恋人がいることは伝わっているでしょうから」
「どうしようかな……オレとしてはヘルミーにうまいこと繋げたいんだけど、それだと今回は保留でいいかな」
「わかりました。この件は私のほうでうまいことやっておきます」
「助かるよ。次の機会にヘルミーも一緒にとかなら喜んで行くから」
「ヒーロさん、わたくしのために気をつかっていただきありがとうございます」
「ヘルミーは恋人だからな」
「はい!」
とはいえ、ヘルミーはまだ16歳だからそのヘルミーが国から爵位を授かるのはまだ早いかもしれない。よっぽど大きなことでもしないとさすがにもらえないだろう。
ただ今回の件でヘルミーの名前が王室の耳に入っていれば間違いなくヘルミーの夢は一歩前進しているはず。




