追放された獣人
ヘルミーと正式に恋人になった次の朝、まだ日が昇る前ぐらいの時間。
「ん……」
「ヘルミー、目が覚めたか?」
「ん……はい……ヒーロさん……」
ヘルミーが仰向けで寝ているオレの左腕に抱きつきながら少しずつ目を覚まそうとしていた。
「ヒーロさん……ウィネさんに聞いていた通りでした……わたくしではまだまだ……」
あいつは年端もいかない子にいったい何の共有をしているんだ。
「まぁそれはヘルミーがこれから強くなっていけば自ずと解決すると思うよ」
「そうですわね……これからもよろしくお願いいたしますね、ヒーロさん」
「ああ、一人前になるまで鍛えるから」
「ふふ、はい」
ヘルミーはこのまま鍛えれば冒険者としても級が上がっていくだろうし、そのうち冒険者としても有名になれば爵位をもらえるような仕事が来るかもしれない。
「そういえばヘルミー、近いうちにシャルリットさんに会いにいくか?」
「えっ、よろしいのですか?」
「ヘルミーが気を失ってるときにシャルリットさんには後日ゆっくり時間を取るからって伝えたんだけど」
「シャルと会って話がしたいですわ」
「それじゃ、シャルリットさんが次に学校が休みの日にでも会いに行くか?」
「はい、それでしたら6日後にでも」
「了解」
このあと数時間ぐらい寝てから起き、ミコも含めて朝食を食べていた。
「今日は夕方に王都に行ってくるよ。ランシリカさんとご飯に行くから」
「ヒーロさんの恋人に獣人の方が増えるんですね」
「いや、ご飯を食べに行くだけだけど……」
今の話を聞いてなぜランシリカさんが恋人になるという結論に至るのか謎なんだが。
「以前マスターからニオイがした狐獣人の人族でしょうか」
「そうそう、その人」
「私は虎獣人以外であれば何も言うことはありません」
「えーと、虎獣人ならどうなるの?」
「私が認めない限りマスターには指一本触れさせません」
えぇぇ、虎にだけ厳しいんだな。あまり身内でカーストが発生するのは困るから虎関係の女性には近づかないようにしよう。
「ヘルミーは今日はゆっくり休養したらいいよ」
「はい、それではウィネさんのところでゆっくりします、報告もしないといけませんから」
「報告? 大会の?」
「いえ、ヒーロさんとの夜の話ですわ」
わざわざ報告するの? ウィネとヘルミーはどういう関係なんだろうか、姉妹という感じでもないし友人という感じでもない……まぁ、信頼し合ってるからどんな関係でもいいか。
「オレも夕方まではゆっくりするよ」
「それでしたらマスター、私とよろしくお願いします」
「……やっぱりそうなるよね」
「ヒーロさん、さすがですわ」
そこは感心しなくてもいいからね。
その後ヘルミーをウィネのところに送り届けてから、結局ミコにアナも含めて3人で出発の時間が来るまでベッドの上で過ごすことになった。
そして、夕方になりオレは王都の冒険者ギルドを訪れていた。ギルドの受付にはランシリカさんはいなかったがギルド内には気配がしたので裏で帰る準備でもしてるのかなと思いギルド内にある椅子に座って待っていた。
「おう、待たせたな」
「いえ、さっき来たところです」
「ん? ――――ヒーロから獣のニオイがする?」
獣同士はニオイに敏感なのか……生活魔術でキレイにしたにもかかわらず匂うってどれだけ鼻がいいんだよ。
「えーと、虎ですかね」
「ほお、虎獣人の女でもいるのか?」
「……そんなところです」
ここで獣人ではなく虎そのものとか言ってしまうと混乱を招くだけなので避けておいた。
「それじゃ、さっそく飯屋に行こうぜ」
「了解です」
ランシリカさんのあとに続きお店に向かったが、お店はギルドの2軒隣だったのですぐに着いた。
お店自体はごくごく普通のレストラン的な感じでお客さんもそれなりに入っている。
「今日はオレが出しますんで好きに食べていただいていいですよ」
「そうか、誘っておいて悪いな。受付の給料も大したことないので助かるよ」
「やっぱり収入は減りますか?」
「ああ、そうだな。安定はしているんだろうがあたいみたいな冒険者からするとやっぱりトータルは減るな」
アウレーゼさんと同じぐらいの実力者なら普通に稼げるだろうからな。
「そういえばランシリカさんって何級の冒険者だったんですか?」
「2級だぞ」
「2級なんですね。実力的にはアウレーゼさんと同じぐらいかなと思ったんですが」
「アウレーゼと知り合いなのか?」
「ええ、ちょっとした知り合いですね」
さすがに王都にいる冒険者だからランシリカさんもアウレーゼさんとは知り合いっぽいな。
「その様子だとまだアウレーゼは手を付けていないみたいだな」
「どういうことですか?」
「あいつはアマゾネスだから気に入った男がいるとすぐ強引に手を付けるんだよ」
「はは……そうなんですね」
この前危なかったけど、やっぱりアウレーゼさんには気をつけよう。
「でも、2級であれば義足をつけてでも冒険者を続けられそうな気がしますけど」
以前からランシリカさんを見て思っていたが、街中には義手や義足をしている人を見かけたことがあったのでランシリカさんも義足をすれば冒険者を続けるぐらいはできそうな気がしていた。
「ん……ああ……そうだな……たしかに、そうかもな。ただ、義足も高いからな……」
「まあ、たしかに安くはないでしょうね」
「なあヒーロ、あたいの昔話を聞いてくれるか? まだ出会ってちょっとのあんたに言う話でもないがヒーロならいいような気がして」
「ええ、かまいませんよ」
ちょっと暗い話を振ってしまった気がするが、ランシリカさんを知るにはちょうどいいか。今日、蜜を渡すかどうか決めるつもりだったし。
「あたいはもともと4人チームで行動していたんだ。男1人女3人の獣人のチームでな」
絵にかいたようなハーレムパーティだな……オレが言うのもなんだけど。
「それで唯一の男はあたいの他の女2人に手を出していてな、その男はあたいにも手を出そうとしたんだ。ただ、あたいは仕事上一緒にいただけでその男のことは特になんとも思ってなかったから断ったんだよ」
なんかどこかで聞いたことある話の流れな気がするが、もしかしてそのあと……。
「そのあとに何を血迷ったか3人がグルになって王都のダンジョンであたいを罠にはめて殺そうとしたんだ……足のケガはそのときのだ。この前も言ったが、たまたま他の冒険者チームが通りかかって助けてくれたから今もこうして生きていられるんだ」
まんま追放ものだった……まぁ、ランシリカさんは覚醒とかはせず他の方に助けられてるけど。
「で、その元仲間はどうなったんですか?」
「もういないよ……あたいの能力を見くびった結果だな」
「ランシリカさんの能力?」
「あたいは剣術で短剣を使うんだが他に【付与魔術】も持っていてな、普通のバフの魔法より強めの効果を与えられるんだ」
この世界にも付与魔術を使われて、あたかも自分の力だと勘違いする奴がいたのか。
「もういないということは、死んだということですよね?」
「ああ、ダンジョンの帰りにモンスターハウスに入って対応しきれず死んだそうだ。死体を見た冒険者がいたからな」
「なるほど、ありがとうございます。ランシリカさんのことがわかりました」
「いや、いいよ。飯のときに暗い話をして悪かったな」
「それはそうと、ランシリカさんはもし義足なりケガが治ったら冒険者を続けたいですか?」
「うーん……どうだろうな。納得できるぐらいの義足を手に入れるまで結構時間がかかりそうだからな、でも手に入れたらそのうち冒険者に戻りそうな気もするが……なぁヒーロ、そうなったらあたいと組んでくれよ」
「いいんですか? ランシリカさんは男に痛い目に合わされているのに」
「ははっ、あんたなら大丈夫だろう、あたいの嗅覚がそう言っている」
獣人の方に嗅覚とか言われるとなぜか信頼度が高まるな、まあ、オレもそうなれば悪いようにしないけど……というかそもそもオレそこまで冒険してないけどね。
「まぁ、それはそのときになったら考えます」
「あたいはしつこいからな、覚悟しておけよ」
「あはは、わかりました…………あっ、ランシリカさん。これなんですけどランシリカさんにあげます」
「ん? これはなんだ? 何の液体だ?」
「それは回復薬みたいなもので、飲む飲まないはランシリカさんに任せます。飲む場合は家に帰ってから飲んでください」
「そうか……」
このあと1時間ぐらい食事を楽しんだあと、ランシリカさんを宿まで送り届けオレは家に帰った。
ランシリカさんが冗談半分でそのあとも誘ってきたが断ることにした。あの人はおそらく渡した蜜を飲むだろうし、今後どう生きるかは1人でゆっくり考えたほうがいいだろうから。




