ダドの恋人候補
前半は三人称視点、後半はヒーロ視点になります。
イーリスはグーモンスの森を出てから2日ぐらいでダークエルフの里ベルヒルドまで帰ってきていた。
プリメーゼに一刻も早く蜜を飲ませたいためにイーリスが自分の家のドアを勢いよく開ける。
「プリメーゼ! 手に入れたぞ!」
「きゃっ!? もお、お姉ちゃんびっくりさせないでよ」
「すまん! それより早くこれを飲んでくれ」
イーリスがダドからもらった瓶をプリメーゼに渡す。
「これは?」
「レインボー・オブザイヤーの蜜だ」
「えっ!? 見つかったの?」
「あぁ、レインボー・オブザイヤーを育てているミノタウロスの方がいて蜜をくれた」
「ミノタウロス!?」
プリメーゼはミノタウロスと聞くと筋骨隆々で荒々しいのを想像してしまうため花を育てていることに紐づけることができなかった。
「とりあえずそれを飲んでみてくれ」
「うん……わかった」
姉であるイーリスがせっかくグーモンスの森から持って帰ってきてくれた物なので出処が怪しくても意を決して飲むことにした。
「――――はぁ……すっごく甘い」
「どうだ?」
「――――わぁ、痣がなくなっていく」
「おぉ!」
プリメーゼの手にあった痣が体から消えた。ただ、アドレアで試したようにプリメーゼも治ったわけではないが2人には完全に治ったように見えていた。
「治って良かったぁ。ありがとう、お姉ちゃん」
「これぐらい大したことはない。妹のためだからな」
「これで私たちも何も気にせず暮らせるね」
「ああ、そうだな」
アドレアの場合はすぐに痣が戻ったが、プリメーゼの場合は自動回復の能力も相まっていまのところ痣は消えたままである。
「プリメーゼ、私はこの蜜をもらったお礼をしにグーモンスの森にあるダンジョンに行かないとダメなんだ」
「ダンジョン? それだったら私もお礼をしに……」
「ダメだ。グーモンスの森は思っていたよりも危険な場所だ。私一人でも死にかけたのだからな」
「でも、そんなところにもう1回行くなんてお姉ちゃんも危ないよ!」
「ああ、わかっている。ただ次は最短コースで行くからなんとかなるだろ」
グーモンスの森の魔物はイーリスを襲った3匹のオークが頂点ではない。あれよりも強い魔物が他にもいっぱいいるのでイーリスが最短コースで行ったとしても危険である。
「とにかく今日は家でゆっくり過ごすよ」
「うん、それじゃお手製のシチューでも作るから待ってて」
この日イーリスとプリメーゼは魔女の呪いが治ったものと思い姉妹揃って穏やかに過ごした。
そして次の日の朝、ベッドが2台並び姉妹揃って寝ている部屋でプリメーゼが目を覚ました。
「ふぁぁ……久しぶりにゆっくり寝た気がす――――えっ!? うそっ……」
プリメーゼの手には小さいが黒い痣が現れていた。
隣のベッドで寝ていたイーリスも異変を感じて目を覚ました。
「ん? どうした、プリメーゼ」
「お姉ちゃん、痣が……」
「えっ!? どうして……」
布団の中にいたイーリスがバサッと起き上がりプリメーゼのところに近寄る。
「治ったと思ったのに……あの花の蜜でも無理なのか……」
「どうしよ……」
「――――もう一度グーモンスの森に行ってくる。あの方々なら何か情報を持ってるかもしれないからな」
「それだったら私も連れてって! もうお姉ちゃんだけ危険な目に合わせるのは嫌なの!」
「しかし……」
「もしお姉ちゃんが知らない間に死んでたら、私はお姉ちゃんをここでずっと1人で待たないとダメなの。しかも、私もこれのせいでそのうち死んじゃう……嫌だよ、そんな死に方……死ぬならお姉ちゃんと一緒がいい!」
「――――わかった、一緒に行こう」
「うん!」
こうしてイーリスとプリメーゼがその日のうちに家を出発しグーモンスの森へ向かった。
そして4日後の朝、今回はプリメーゼが一緒の馬に乗っていたということもあり前回より時間がかかってグーモンスの森の入口付近に着いた。
「最短コースで行くならここから入るのがいいだろ」
「馬はどうするの?」
「木に繋いで魔除けの石を置いてから行く」
「へぇ」
プリメーゼは姉のイーリスとは違い魔物を狩るために外に出たりはせず普段は家で家事や土いじりをして過ごしている。そのため野宿などの外での過ごし方に関しては疎い。
「ここからはものすごく危険になる。私からは決して離れるなよ」
「うん」
「すいません、イーリスさんですか?」
「「えっ!?」」
2人がグーモンスの森に入っていこうとしたとき、今まで誰もいなかったはずの方向から声がした。
アナがペンダントに入ってから1週間ぐらいが経った日。
オレたちが家で朝食をとっているとき、グーモンスの森の外に2人の気配を感じた。
「ミコ、ヘルミー、森の外に例の人が来たかもしれないから見てくるよ。たぶんダドさんのところに連れていくと思う」
「承知しました」
「はい、わかりましたわ」
森の外にいる2人の場所はダンジョンから北に上がったあたりだったのでワープホールを作ることができすぐに近くまで移動できた。
移動すると2人の女性が少し離れたところに見えたのでオレはダドさんが言っていたイーリスさんかどうか確認するため近づいた。
「すいません、イーリスさんですか?」
「「えっ!?」」
背の高い人はオレと同じぐらいの身長だからたぶんイーリスさんだろうけど、もう一人は雰囲気が似てるから魔女の呪いにかかってる妹さんかな。
「はい、私がイーリスですが……」
「やっぱりそうですか。オレはヒーロといいます、今からダドさんのところに行くんですよね?」
「ダド様のお知り合いですか?」
ダドさんのこと様付けなのか。まぁ、レインボー・オブザイヤーの蜜をくれたわけだから様付けでもおかしくないか……ダドさんは不要とか言いそうだけど。
「えぇ、ダドさんの友達です。ところで、そちらは妹さんですか?」
「はい、妹になります」
オレが妹さんのほうを見ると妹さんを隠すようにイーリスさんが少し動いた。
「魔女の呪いなんですよね?」
「えぇ、そうです」
「能力のことは聞いているんですけど、まだ大丈夫ですか?」
「まだ影響が出るほど広がってはいません」
「それは良かったです。蜜を飲んでも1回リセットされるだけで治らなかったと思うんで気にはしていたんですよ」
「えっ、ご存知だったのですか?」
ああ、これはきちんと説明しないとダドさんが悪者になりそうだな。
「この前イーリスさんがここに来たときオレはいなかったんですけど、そのときオレは別の魔女の呪いにかかった人のところに行っていてその人に蜜を飲んでもらったんです。そのときに蜜では治らないことに気付きました」
「なるほど、たまたまタイミングが重なったわけですね」
「そういうことですね」
「あの……レインボー・オブザイヤーの蜜ってそんなに手に入るものなんですか? 噂では1年で少ししか手に入らないと聞いているんですが」
イーリスさん、オレのことをものすごく警戒してるな。
まぁ、いきなりどこからか現れて声をかけられたら警戒もするか……日本でやったらおまわりさん呼ばれるかもしれない状況だからな。
「ダドさんの部屋にあるレインボー・オブザイヤーの持ち主はオレなんですけど、あのレインボー・オブザイヤーはなぜかいっぱい蜜を出してくれますね」
「えっ、あなたが持ち主なんですか?」
「オレがあの花の発見者になりますね。で、ダドさんが育てたいって言うんでダドさんの部屋で育ててもらってる感じです」
「そうなんですね」
ちょっと警戒心が消えたかな。
「ヒーロさんと言いましたか、その魔女の呪いにかかった人はどうなったのですか?」
「治しましたよ。いまも元気にしています」
「本当ですか!? 治せたのですか!?」
「えぇ、治せます。なので、イーリスさんがここを訪れるのを待っていたんです」
「そうだったのですね……失礼しました。改めて、私はベルヒョード山のふもとにあるベルヒルドという里のイーリスと言います。こちらが妹のプリメーゼです」
「プリメーゼです!」
長々と会話したけどこれでダドさんのところに連れていけるかな。こうなるんだったら最初からダドさんも連れてきたら良かった。
「ここでも治せますけど、とりあえずダドさんのところに行きましょうか」
「はい、それは良いのですが、私の妹は戦えないので守りながらになってしまいます」
「あぁ、気にしなくてもいいですよ。一瞬で移動するんで」
「えっ?」
オレはワープホールをダドさんの部屋につながるように作る。
「ここを通ればダドさんの部屋に行けます」
「それは何ですか?」
「細かいことを説明すると時間がかかるんでとりあえずオレのあとに続いて通ってください」
オレはワープホールに入りながら2人に手招きをして、2人をワープホールの中に入れた。
「えっ!? うそ……なんで、ここに……」
「あれっ!? さっきまで森だったのに……」
ダドさんの部屋に移動すると2人は驚いた様子で周りをキョロキョロと見渡している。
「あっ、ヒーロさん。イーリスさんを連れてきていただいたんですね」
「今回は妹さんも来たみたい」
「あっ、ダド様。この度はありがとうございました」
「いえ、こちらも蜜では治らないことを知らずに渡してしまい申し訳ありません」
イーリスさんはダドさんに頭を下げているが、プリメーゼさんのほうは目の前でミノタウロスを見たからかちょっと後ずさりしている。
実はオレはウィネからイーリスさんがダドさんにどういうお礼をするのかを聞いていたので、イーリスさんをなんとしてもここに連れてきたかった。
これでうまいこといけばダドさんに恋人ができるかもしれない。ダドさんは草食系男子だけど恋人ぐらいいてもいいでしょ……ミノタウロスとダークエルフという変わった組み合わせだけど。




