ロリアデラ - 悲しき力
魔族は雌雄によって誕生する種族もあれば、単一で増えるもの、自然発生するものなど多種多様である。
ヒーロが転生するより2000年ぐらい前、魔族大陸の最南端にある砂漠地帯で謎の気力だまりが発生していた。
その砂漠地帯に生息していたある一匹の白蛇は異常な状況に気付くことができずその気力だまりに入っていく。蛇ぐらいであれば本来耐えられずに死ぬはずだが、このときはなぜかその白蛇を基にして一人の魔族が誕生した。
誕生した魔族は見た目は150cmぐらいの少女でメデューサのように髪が蛇になっており額には第3の目もあった。
「ん? …………ん、ここは?」
その魔族が目を覚まし自身のことを理解していく。
「私は――――なるほど、魔族としてここに生まれたのですね……名は――ロリアデラですか……」
ロリアデラは生まれながらにしてその名を持っており、すでに完成された個体だった。
ロリアデラが起き上がり自身の周りを見渡す。
「この世界は石しかないのですか?」
ロリアデラの能力は魔眼であったがその1つ石化眼は自動発動なうえ、視界に入ったあらゆるものを石化し元に戻すこともできない。
石化眼が発動するのは両目と蛇の目であり全方位をカバーしているため周りはすべて石化されてしまっていた。ちなみに、第3の目は見るための目ではなく石化眼以外の魔眼を発動するときにのみ使用される。
ロリアデラが石の世界を歩いて行くと遠くに動くものが見えたが次の瞬間には石になっていた。ロリアデラ自身と同等かそれ以上であれば石化されない可能性があったが、すでに魔族として随一の強さを誇っているためすべてが問答無用に石化されてしまっていた。
「このままでは何もわかりません。この世界を視てみましょう」
生きているものが確認できたため、魔眼の1つ千里眼で世界を確認することにした。第3の目で千里眼を使用し世界を確認するといろんな情報が入ってくる。
「なるほど、普通に生物は存在するのですね。ただ単に私が近づくと石化されるだけですか」
世界の様子が確認できたことで、ロリアデラは自分の視界をすべて閉じた。これにより石化されるものは現れなくなった。
ロリアデラが目を閉じ生きていくことを決めてからほどなくしてある小さい村に住み始める。
この村は特別なものはないが住んでいる魔族はみな穏やかでロリアデラもすぐに溶け込み静かに暮らしていた。
ロリアデラが外で大きい魔物を狩って村に帰ってくると、小さい子供が近寄ってくる。
「ロリアデラのお姉ちゃん! また大きい獲物狩ってきてくれたんだ」
「ええ、私は畑仕事よりこちらのほうが得意ですからね」
「ロリアデラさんが来てくれてからは肉が食べられる日が多くなって助かっていますよ」
近くにいた大人の魔族がそう言うようにこの村の魔族で戦える者は少なく魔物を狩りに行く者もロリアデラ以外ほとんどいなかった。
ロリアデラが村に住み始めて1年ぐらいが経ったころ、この日もロリアデラは魔物を狩っていたがロリアデラの魔眼の1つ感知眼が村のほうで反応する。
「村人でない魔族の気配が!? ――――早く戻らないと!」
気配の感じから戦闘が行われていることに気づいたロリアデラがすぐに戻ると20人近くの魔族が村を襲撃していた。
「なんてことを!」
ロリアデラはすぐに村を襲っている魔族を次から次へと殺していったが、1人で対処していたためどうしても救出に間に合わない村人も出てきている。
そして、ロリアデラの近くで襲撃してきた魔族が村の子供を襲おうとしたとき、その子供を助けたい気持ちが強かったためかロリアデラは無意識にすべての目を開けてしまった。
「あっ……」
その瞬間、村の魔族から襲ってきた魔族まですべてが石化されてしまいロリアデラの周りはすべて石だけになった。
ロリアデラの石化眼は自身の強さも相まってただの建物ぐらいであれば貫通し、この小さい村であればすべて石化されてしまう。
ロリアデラが助けようと思った子供のところに行き石になっている子供の顔を震えた手で触れる。
「どうして助けようとした私が命を奪ってしまうのです! どうして私はこんな力を持ってしまったのです!」
ロリアデラは一緒に暮らしていた村人を助けられなかった悔しさ、自身が殺めてしまった悲しさでしばらくその場で涙を流していた。
そのままいくばくかの時間が過ぎたとき、ロリアデラはある1つの大きな力がこの村のほうに向かっていることに気づく。
ロリアデラは同じ轍は踏まないために再び目を閉じその大きな力の持ち主を待ち構える。
「ほお、わっちと同じメデューサであったか」
「あなたは誰ですか?」
「わっちはこの領土を治めておる魔王のトリーニデだ。強大な力を感じたのでわっち自ら確認にきたのだ」
トリーニデは魔王歴が2000年を超える強者であり、穏健派の魔王としてこの世界に名を馳せていた。
また、トリーニデの種族はメデューサで石化の能力を持っていたがロリアデラの魔眼の能力とは異なり発動をコントロールできる力だった。
「お前はどうして目を閉じているのだ」
「私の目が勝手に石にするからです」
「ほお、お前の目は制御できないのか。ちなみに、わっちには効かぬと思うぞ」
「――それでも開きません。もう私は誰も何も石にしたくないんです!」
ロリアデラは自分が石にしてしまった子供の件で目を開かないことを心に強く誓っていた。
「お前がそこまで言うのなら何も言うまい。それより、ここで何があった?」
ロリアデラがトリーニデにこの村で起こったこと、自分がすべてを石にしてしまったことを説明した。
「この石はそういうことか……。ところで、お前はこの後どうするのだ?」
「…………」
この村もたまたまたどり着いただけだったためロリアデラにはどこにも行先がない。
「お前さえ良ければわっちのところに来るか。お前ほどの強者を野放しにしておくのも気が気でならんからな」
「――わかりました」
トリーニデのこの提案によりロリアデラはトリーニデの居城に住むことになる。
「ところでお前は名をなんという?」
「ロリアデラです」
「そうか――――それじゃ、リアだな」
「リアですか……」
ロリアデラがトリーニデの居城に住んでから、トリーニデの配下にはロリアデラの石化の力を危険視するものが少なからず出てきた。
ただ、ロリアデラの実力がトリーニデ以上の可能性があったため誰もロリアデラを表立って責めるものはいなかったが、ロリアデラは自ずと1人でいることが多かった。
「リアよ、今日も1人でおるのか」
「私は1人のほうが気が楽なので」
「わっちはリアに笑って過ごしてほしいがな」
いつも1人でいるロリアデラを同じ系統の種族であるトリーニデは気に留め何とかしてあげたいと思っていた。
そんな日々が数年続いたころ、トリーニデとその側近2人、そしてロリアデラがある一室に集められたときトリーニデがロリアデラを側近に加えると伝える。
トリーニデがロリアデラを側近にする目的は実力ももちろんだったが、やはり誰とも顔を合わせて話をしたことがなくいつも1人でいるロリアデラを何とかしてあげたい気持ちのほうが大きかった。
ただ、このとき側近の2人のうち1人が反対をする。
「トリーニデ様、ロリアデラは危険です。今までも散々言ってきましたが、目を開ければ石にされてしまいます」
「――トリーニデ様、私は側近にしていただかなくても」
ロリアデラ自身は別に側近などの地位に興味がなかったので反対されたらされたで構わないと思っていた。
「わっちが決めたことだ、反対は許さぬ。それにリアの石化の件もわっちのほうで何とかする」
トリーニデのこの言葉で、この日ロリアデラがトリーニデの側近に加わった。
その集まりのあとトリーニデとロリアデラが部屋で二人だけになったとき。
「リア、お前はわっちの子どもみたいなもんだと思っておる。もっとわっちを頼れ」
「トリーニデ様……」
「そうじゃ、リアよ。ずっと目を閉じているのは気も使うし疲れるだろ。顔の上から何か被るのはどうだ?」
「ただの布では石化の力が貫通してしまいますので、被るのであれば特殊な布でないと……」
「であれば作れば良いだろ」
このトリーニデの提案によりロリアデラはフードの作成に取り掛かることになる。
そしてフードの作成に取り掛かってから1年ぐらいが経ったとき、ロリアデラはいろんな者の協力によって顔が全て隠れる特殊なフードを作成した。そのフードの中では安心して目を開けられるようになったが、そのフードにはロリアデラの力を抑える効果があり、さらには使用できる魔眼が7つのうち千里眼、感知眼、予知眼の3つのみになってしまった。
「これで他の奴らもこれ以上何も言うまい。それにそれだけ力を抑えてもリアは魔族の中でもトップクラスだから側近としても問題ないな」
「えぇ、そうですね……」
ロリアデラがトリーニデの側近になってから100年ぐらいが経ったころ、このころには外での仕事に関してほぼロリアデラが仕切っており、トリーニデが表にでることは少なくなっていた。
「トリーニデ様、体調のほうはいかがですか」
「まったく悪くないぞ。まだ全然痣が広がってないからな」
トリーニデやロリアデラほどの強い魔族であれば、外見もほぼ変わらず寿命も存在しない。ただ、そのような魔族でも病気が原因で死ぬことはある。
「何か治す方法があれば良いのですが」
「焦ることはないだろ。わっちらのような力があれば自然に治るかもしれんしな」
「そうだといいのですが……。そういえば以前に変わった花の言い伝えを聞いたことがあります」
「あぁ、蜜を飲めばなんでも治るというやつだろ。見つけること自体難しいだろうから、気休め程度に探しておいてくれ」
「わかりました……」
そしてさらに数百年がたったころ、とうとうロリアデラが望んでいない日が来てしまう。
ある隔離された一室、横になっているトリーニデとそれを横で見守っているロリアデラの2人だけがその部屋にはいた。
「リアよ、この領土は任せるぞ……」
「トリーニデ様……」
トリーニデはすでに黒い痣が体の半分以上に広がり体も衰弱している。
「トリーニデ様の体を石にして、呪いが治せるようになったら――」
「はは、石にされたら元に戻せないだろ……。それに、リアはもう誰も石にしないと誓ったのだろ……」
「うっ……トリーニデ様……」
「リアよ……一度でいいからお前と目を合わせて話してみたかったぞ……」
「トリーニデ様……私も……」
「……お前にもいつか……顔を見て……目を合わせて……話してくれる者があらわれる……」
「トリーニデ様、いまはそんなことどうでもいいんです……」
「お前はわっちの子どもみたいなもんだ……必ず幸せになってくれ……なぁ、リアよ……」
「トリーニデさまぁぁぁ!」
この日トリーニデは魔女の呪いによって命を落とした。
その後ロリアデラが魔王としてトリーニデが治めていた領土を引き継ぎ、ヒーロが転生するころには1000年以上が経っていた。




