シーからの依頼
三蛇華姫の3人と実戦を行ったあと、せっかくということでヘルミーにも実戦をお願いした。
「それでは私がお相手しましょう」
ヘルミーの相手はシーさんがやってくれるらしい
「わたくし何もできないんですが」
「ヘルミーはシーさんを殺すつもりでやったらいいと思うよ」
「こ、殺すなんて、そんな……」
「ヘルミーさん、実力差を考えるとそのくらいでないとこの訓練の意味がないと思いますよ」
「――――はい! わかりましたわ!」
シーさんには15分ぐらいを目途にお願いし、ヘルミーがケガをしてもオレが治すと伝えた。
さっそくヘルミーとシーさんが向かい合い、ヘルミーの風系の魔法をきっかけに実戦がスタートした。
とはいえ、ヘルミーの魔法はシーさんには効かないのでシーさんのちょうどいい感じの攻撃をヘルミーが避ける展開になっている。
「もっと視野を広げて予測もしつつ避けてください」
「くっ……」
シーさんの尻尾はヘルミーの背後など死角からも攻撃が来るのでそのあたりの対処の仕方を指摘されている。ただ、以前のジャイアントワームのときとは違い、気力による身体強化がうまくなっており体力も向上しているため動きが様になってきている。
そして15分が過ぎたころ、ヘルミーは地面に倒れていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「思っていたより体力がありましたね」
「ヘルミーには基礎を中心に鍛えていましたからね」
オレはヘルミーのところに行き、シーさんの攻撃を受けたところを生活魔術で治していく。
「ヘルミー、かなり良くなってるよ」
「はい……ありがとうございます……」
ヘルミーはしばらくして落ち着いたのか立ち上がりシーさんのほうを向いて頭を下げる。
「ありがとうございました」
「ヘルミーさんがよければこちらにいらっしゃる間はお相手しましょうか」
「えっ、よろしいのですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「お願いいたします!」
これはヘルミーにとっていいきっかけになるな。オレたちだと対人のこういう実戦はまだまだ後回しにしてたかもしれない。
ここで城の上のほうからゴーンと鐘の音が1回だけ聞こえた。
「お昼の時間ですね。ヒーロさんたちには部屋に食事を持っていくよう指示をしておりますので」
「ありがとうございます」
この世界には魔石を利用した時計は存在しているがオレは時計を持ち歩いていないのでこのように知らせてくれるのは助かる。そして昼食のためオレたちはさきほど用意してくれた部屋に戻った。
昼食後、改めて城内をウロウロしようという話になったので。
「よしっ、今度は頂上に行ってみるか」
「景色は良さそうだな」
「ま、まさか……また窓から行かないですわよね!? ――――ひ、ヒーロさん!? な、なぜわたくしを抱っこしようとしているのですか!?」
オレはヘルミーをお姫様抱っこし再び窓から出て浮くと、ヘルミーはオレにしがみついて震えていた。
「ヒィッ……やっぱりダメですわ!」
オレたちはそのまま上に向かって上がっていき、城の頂上に着くと展望用かどうかはわからないがそこには手すりが設置されている6畳ぐらいのスペースがあったのでそこに降り立ってあたりを見渡した。
「これはかなりの絶景ポイントだな」
「うむ、これはなかなかだな」
「うわぁ、すごいですわ……でも、ものすごくこわいですわ」
ここからは遠くに山が見え森や街並みなどの景色がいい感じに見ることができる。ミコは相変わらず興味がなさそうだが、ここにはたまに来たくなるぐらいいいところである。
しばらく景色を眺めているとシーさんが階段を上ってきた。
「ここはいいところでしょう」
オレたちのこと見張ってるわけではないですよね。
「お楽しみのところお邪魔してすいません。私もたまにここには来るのですがヒーロさんたちが空を飛んでいるのを見かけましたので」
「いえ、大丈夫ですよ。でも、ここはいいところですね」
「はい、特に日が暮れる時間帯がキレイですね」
それはキレイでしょうね。――――それはそうと、この景色だけどリアさんは知っているのかな。
「シーさん、リアさんってこの景色は?」
「私の知る限りロリアデラ様はご覧になられたことはないかと」
視界を封じても生活する分には問題はないだろうがこういうところはどうしようもないか……しかも1000年以上ってなるとちょっと想像できないな。
「ヒーロさんはロリアデラ様の心配をしていただけるのですね」
「そうですね……本人がフードを取ることを望むのであれば手助けはしたいですよ。リアさんの誓い自体を無理に破らすとかは考えていないですが、リアさんの石化の力を抑え込むことはできなくもないでしょうからね」
「えっ!? そうなんですか?」
「リアさんの力がどの程度かわからないのですぐには無理ですけど」
空間の力を使うと石化の力は抑え込むことはできるだろう。ただリアさんがフードを取った状態は相当な力のはずだから、その空間を成立させるための制限が出てくるはず。そのため安易にやってしまうと誓いを破ってしまうかもしれない。
「いえ、それが聞けただけでも……」
「まぁ、リアさんのあの感じだと協力自体していただくのが難しいかも」
「そうですね。かなり強く誓っておられるようですから、可能だと言われてもなかなか……」
リアさんの実力がわからない以上、ここで他の案を考えても答えは出ないだろう。
「ところで、ヒーロさんたちは城内を見たいんですよね?」
「えぇ、まぁそうですね。こんなに広いので何があるのかなと思って」
「正直言いますが、あまり面白いものはないと思いますよ」
シーさんが城の中のことを軽く説明してくれた。
まず低層は食堂やお客さんが来たときの打ち合わせの部屋などで広く取られている。そこから中層ぐらいまでは配下の方が住んでおり、その上ぐらいにオレたちのようなお客さんの泊まるフロアがあって、さらに上にリアさんや三蛇華姫のフロアがある。それ以外は会議室やただイスが置かれているだけの部屋、空き部屋などがあるらしい。
さすがにこれだけ広いと無駄な部屋が多いのかも。生活魔術があっても掃除のことを考えると維持するのも大変そうだな。
「なるほど、それだとあまりウロウロする意味がないですね」
「そうですね。ヒーロさんぐらいだと運動にもならないでしょうし」
「それじゃ、1日走っていたことだし今日は部屋でゆっくりするかな」
「ヒーロさん、明日の午前中も訓練にお付き合いいただくことは可能でしょうか?」
「いいですよ。今日の場所でいいんですよね?」
「ありがとうございます。それでお願いします」
景色を満足行くまで眺めてからその日は部屋に戻りゆっくりすることにした。ヘルミーもオレの背中で寝ていたこととトレーニングもあってか自室に戻って休むと言っていた。
次の日の午前。オレたちは昨日同様、三蛇華姫の3人と実戦などのトレーニングを行っていた。そして、昼の休憩になったときにシーさんが改まった感じでオレに話しかけてきた。
「本日、日が暮れてから私の相手をヒーロさんにお願いしたいのですがよろしいでしょうか」
「オレですか?」
「シー様ぁ、自分だけずるいですよぉ」
「クーの言ってる意味での相手ではなく、実戦の相手です。私も昨日のウィネさんとの実戦を経て、本気で実戦をしたほうがいいかもと考えていまして」
オレじゃなくてもいいと思うけど、ご指名なら断る理由はない。
「オレは構いませんよ」
「ありがとうございます。誰もいないところを用意しますのでそちらでお願いします」
「シー様ぁ、絶対にヒーロさんとするつもりじゃないですかぁ」
「クーの思っているようなことはしません!」
なんか事情がありそうだな。まぁ、オレはそれでも断る理由はない。
「わかりました、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。時間になりましたらお呼びします」
そのやり取りのあとオレたちは自分たちの部屋に戻った。
「ヒーロよ、シーの件だが大丈夫か?」
「あぁ、シーさんであれば大丈夫でしょ。それに何かあっても対応するし」
「ヒーロだから心配はいらぬだろうが」
『マスターを陥れた時点で私がこの国を潰します』
この国潰しちゃったらバランスが崩れて創造神様の仕事が失敗に終わってしまう。
「とりあえずその時間はみんなゆっくりしたらいいよ」
昼食後、シーさんとの約束の時間までクラージュフェッロの街にでも行こうかと思ったのだが……。
「ヒーロが街に行くとまた何かに巻き込まれてすぐに戻ってこれなくなるぞ」
「さすがにそんな…………いや、やめとくか」
ウィネの言うことに強く否定できないのが悲しいところだがシーさんとの約束もあるのでここは潔く諦めることにした。
結局このあとはウィネの意見に押し切られてミコとウィネの相手をすることになりすぐに日が暮れそうな時間になった。
オレは体を生活魔術でキレイにしてから外に出て、廊下にいたアドレアさんのほうに向う。
アドレアさんはオレたち専属なので基本的にはこのフロアにおり何かしらの仕事をして過ごしているらしい。
「ひ、ヒーロ様」
「アドレアさん、シーさんってここに来られていないですよね?」
「は、はい。こ、こちらには来られておりません」
であれば気配を探りながらこちらから行くか。
オレはこの城周辺まで気配を探りシーさんのだいたいの位置を確認する。おそらく自室だと思うがかなり上のフロアにいるみたいだったのでエレベーターを使いシーさんがいるフロアまで上がるとちょうどシーさんがいてくれた。
「あら、ヒーロさん。わざわざ来ていただいたんですね」
「えぇ、やることもなくなったので」
「やはりヒーロさんぐらいになると私がどこにいるかぐらいはわかりましたか」
「シーさんが特に隠そうともしてませんでしたからね」
「ふふ、そうですね。自分の住処で隠す人なんていませんからね」
……オレ普段から気配を消して生活しています。クセづいてしまってるから気配を消していないほうが珍しい。
「では、行きましょうか」
そのフロアをシーさんのあとについて歩いて行くと高さが3mぐらいある扉のところに着いた。
「ここですか?」
「いえ、ここから飛び降ります」
結局飛び降りるんかい! 昨日オレたちが取った移動方法は正しかったんだな。
その扉を開くと踏み場だけがあり本当に飛び降りる用になっている。オレとシーさんがそこから飛び降りると目の前には体育館のような建物が立っていた。
「ここはロリアデラ様と三蛇華姫の3人しか使用しない訓練場になっています」
「へぇ、専用なんですね」
「作りも頑丈で力も漏れにくくなっています」
「力を漏れないようにする物質ってあるんですか?」
「そういう能力を持った者に作らせました」
なるほど、そういう能力者がいるのか……オレの空間の力に似てるけど隠蔽とかの類かな。
その建物に入っていくと床は堅めの土になっており壁もたしかに頑丈な作りをしている。
「さて、ヒーロさんさっそくですがお願いします」
「えぇ、いつでも大丈夫ですよ」
オレとシーさんがこの建物の中央あたりで向かい合うとすぐにシーさんから感じる力が強くなっていき外見の様子も徐々に変化しだした。そして最終的に尻尾の鱗が一つ一つ立ちそれぞれが鋭い刃のようになっており、上半身も一回り大きくなり筋肉が目立つような体になっていた。
「この姿は美しくないのであまり見られたくありませんでした」
なるほど、だてにリアさんの一番の側近ってわけではないな。ただ、残念だけどこれでもウィネには勝てないだろうな。
「では、参ります」
シーさんがその言葉を言い終えるころにはすでにオレの目の前におり、拳と尻尾がオレの顔のすんでの所に来ている。オレはクーさんのときと同様カードを出現させそれをガードし、次々にくる攻撃も同じように防いだ。
「くっ、やはりこれでもそれは抜けませんか」
今度はオレが攻撃を仕掛ける。一瞬でシーさんの横に移動し脇腹あたりを殴る。
「!?」
シーさんが後退するぐらいで殴ったつもりだったが、全く後退せず代わりにシーさんからの攻撃が続いた。
うーん、思っていたより頑丈だな。であれば……。
さきほどと同様にシーさんが反応できないぐらいの速さで間合いを詰め、シーさんのお腹部分に掌底打ちのように手を当て体の内部に衝撃がいくように力を放つ。
「くはっ……」
今度はシーさんが体をくの字に曲げたのでオレはそのままシーさんの背中に向かってさきほどの攻撃と同じ要領でかかと落としをした。シーさんはそのまま地面に叩きつけられ動きが止まり、体や尻尾も元通りに戻っていく。
さすがに相当な威力を内部に入れたから骨や臓器にダメージが入って気を失ったか。
オレはシーさんが倒れてからすぐに全力で生活魔術の治癒をすると、少し待ってシーさんは目を覚ました。
「ん……あっ!? ヒーロさん、すいません」
「いえ、どうですか? 痛いところとかありませんか?」
「――――大丈夫のようです。ありがとうございます」
シーさんは起き上がり自分の体に着いた土などをキレイにした。
「やはり敵いませんでしたか……」
「いや、なかなか頑丈でしたよ」
「あれは【オーバードライブ】の能力でして、時間は限られるんですがあの状態の場合は物理攻撃はほぼ効きません」
また格好いい能力をお持ちで。あと物理攻撃がほぼ効かないとか羨ましい効果だな。
「オーバードライブってユニークですか?」
「いえ、オーバードライブの所持者は複数います」
へぇ、オレもオーバードライブしてみたいけど、その前に片が付くから意味ないか……。
「体の内部にはその物理攻撃の効果は関係ないんですかね」
「本来であれば内部に攻撃が通らないはずです。実はロリアデラ様も同じように対応されましてそのときもいまと同じ結果になりました」
リアさんぐらいだと対応するだろうな。ああなったら行き着くところは同じだと思うし。
「シーさんのことですから、何かしら鍛えたり対策はしたんですよね?」
「えぇ、ロリアデラ様にも協力いただいて鍛えて対策はしていたんですが、まだまだ足りませんでした」
おそらく体の内部に衝撃が行かないように鍛えているんだろうけど、それだと実力差があれば対応できてしまう。結局のところ格の違いの話になってしまうのでどうしようもないな。
「ヒーロさんが良ければ定期的にお相手していただてもよろしいでしょうか」
「オレであればいいですよ」
その後もオレとシーさんは1時間ほど軽く実戦で体を動かし、シーさんとのトレーニングを終えようとしたときシーさんが話始めた。
「ロリアデラ様もヒーロさんのことを悪い方ではないとおっしゃっていました。私も実戦を通してヒーロさんを信用してもいい方だというのはわかりました」
「でも会ったのが昨日ですし、そんなすぐに判断しなくてもいいですよ」
「いえ、私は魔族ですし長く生きていますからね。拳を交えればさらにわかります」
魔族は普通の人とは違う感覚を持っているのかもしれないな。
「それでヒーロさんに折り入ってお話があります――――ロリアデラ様の件でなんですが……」
「ん? リアさんの件?」
「昨日、ヒーロさんがロリアデラ様のことを心配していただいていたかと思いますが……」
「キレイな景色を見ることができないとかの話ですよね?」
「はい。もう数百年前の話なんですが、ロリアデラ様がふと私に話されたことがありました。――『生まれてから今まで一度も相手の顔を見て目を見て会話をしたことがない』『先代の魔王様に石化の力が効かない可能性が高くても自分の誓いを優先した』――と」
先代の魔王さんでもその誓いを優先したってことは相当強い気持ちなんだな。
「ロリアデラ様はいつもの口調でそうおっしゃっていましたが、そのときのロリアデラ様はどこか寂しそうな雰囲気をしておられました」
相手のことを見て話せないということは、どこか孤独を感じて寂しくなるのかもしれない。しかもそれが1000年以上だからなおさらだな。
「私はこの城に来てから数百年経ちますが一度もロリアデラ様が楽しんでいるお姿、心から笑っているお姿を見たことがありません。しかも、ほとんどをお一人で過ごされています」
リアさんの場合は立場もあるだろうし、あれだけ強いとどうしても1人になりがちなのかもな。オレの場合はミコが隣にいてくれるからそうはなっていないけど。
「そこでヒーロさんにお願いがあります」
「ん? お願いですか?」
「少しでもいいのです。ロリアデラ様の寂しさを減らしていただきたい、ロリアデラ様に少しでも楽しんでいただきたい」
「昨日も話しましたが石化の力は抑えられないかもしれないですよ」
「それでも構いません……私たちでは力でも立場的にもロリアデラ様に何もできなくて……」
「なるほど……わかりました。できるかどうかわからないですが、可能な限りやってみます」
「ありがとうございます!」
とはいえ、リアさんのことほとんど知らないから方法がまったく思いつかない。




