誘拐事件の結末
ヒーロ側の話も入っていますが三人称視点です。
ラーの部隊が洞窟の奥まで進むと広いエリアに出た。
そのエリアは吹き抜けで2階まであり、本来壁があるところに牢屋みたいな鉄格子の部屋がいくつも作られていた。そして、その部屋では男性の魔族が人族や魔族の女性と交わっているが、その女性たちはどこか嫌々という感じには見えない。
「やはりですか。ここで間違いないです」
「ラー様、いかがしましょうか」
ラーの部下が次の指示を求めたとき、ラーの真正面の2階部分の部屋から六魔天人の一人であるインキュバスのオスヴァーズが現れ、ラーを見下ろす形で向かい合った。
「おやおや、これは三蛇華姫のラーさんではないですか」
「オスヴァーズ! 今日こそはあなたを殺すです!」
「私は何も悪いことはしていませんよ。周りを見てください、女どもも嫌がっていないでしょう」
インキュバスの能力には【催淫】というのがあるが、オスヴァーズほどであればそれをこの広さのエリア全体に対して使用することができる。
「それはお前の力が原因ではないですか! それに女性を攫っておいて悪いことしていないとは何を言ってるですか!」
「我々が攫っている証拠でもあるんですか?」
「証拠なんてここにいる女性にでも聞けばいくらでも出るです!」
「くくくっ、ここの女どもが正確に話せればいいのですがね」
オスヴァーズは攫ってきた女性に対してさらに【催眠】もかけていた。
「くっ、いちいち面倒な男です! さっさと殺してやるです!」
「この状況で私と戦えばバンジャック様に宣戦布告をしたことになりますよ」
「私はロリアデラ様からお前を殺す許可をもらっているです」
ちなみに、ロリアデラはそんな許可を出しおらず、その話をしたのはシーとクーである。
ただ、ロリアデラ自身もバンジャックへの宣戦布告になったとしても特に問題視していなかった。同じ超級相当の力でも、ロリアデラとバンジャックには十分な実力差があったからである。
「そうですか、それは野蛮ですね。それはさておき、いいのですか? こんなところに女性だけの部隊で乗り込んできて」
ラーの部下5人はいずれも女性の魔族である。
「私の部下がお前の催淫ぐらいでおかしくなると思うですか」
「あまり私の力を見くびらないほうがいいですよ。現にあなたの部下たちは落ち着かなくなっているようにも見えますが」
「!?」
ラー自身は問題なかったが、ラーの部下たちは落ち着かない感じでさきほどからちらちらと周りにある部屋を見たりしている。
「あなたたちしっかりしなさいです!」
「す、すいません!」
「そちらの女性方、もしよければ気持ちよくしてあげますよ」
「うるさいです! すぐにあなたたちを殺すです!」
「あなたでは実力でも私にはかないませんよ」
「ふん! やってみないと分からないですよ!」
ここでラーとオスヴァーズが臨戦態勢に入った。
しかしその瞬間、ラーの背後にある入口から凄まじい圧が放たれたことでラーの部隊やオスヴァーズ陣営の魔族、攫われた女性などこのエリアにいる全員が気を失った。
ロリアデラが自身の城でラーとオスヴァーズがこれから戦うというところまで千里眼を使い見ていたが、ラーが倒れる数秒前からまったく見えなくなっていた。
(どういうことですか? 千里眼でまったく視えない!? 何が起こったのですか……)
ロリアデラが千里眼でラーの様子を見ようと試み続けていると数分経ってようやく見ることができた。
(!? ラーが倒れている? オスヴァーズは――いない!? ――いや、バンジャック陣営の魔族自体1人もいない……。――――!? あれは、昨日の人族と魔族、それに巨大な2つの力。どうなっているのですか? 早くシーにラーを起こしてもらわないといけませんね。――――!? あの巨大な2つの力がいなくなった!? 人族と魔族も……。いったい何がどうなってるのですか……)
ロリアデラが急いでシーを呼び念話でラーを起こすように命令した。
少し時間が遡り、ヒーロたちが洞窟の中を進み始めたころ。
ヒーロたちはミコとモデウィネが嫌なニオイがするという方向へ洞窟の中を進んでいた。この洞窟は下へ行くほど広がっており4人は下へ降り続けている。
「なんかオレでもムワッとするような感じがしてきたよ」
「マスター、早く終わらせて帰りましょう」
「我もこんなところさっさと出たいぞ」
ヒーロであればこの洞窟一帯をすべて消滅させることで解決できたが、それだと被害者まで消してしまうのでさすがにそれはしなかった。
4人がしばらく洞窟を進んでいくと下へ降りる階段が終わり、4人の前方50mぐらい先に複数の気配があることにヒーロたちは気づく。
「ヒーロ、これはインキュバスの催淫だな。この先の部屋全体に使われているぞ」
「そういえば朝のインキュバス2人組がウィネとヘルミーのことを『土産』とか言ってたな。まさかあいつらも……」
「おそらくここのやつらと仲間だろうな。もしかしたら女を攫ってきているのかもな」
「となると、やることは1つか。――オレはある程度の力を出してあの先にいるやつら全員動けなくするから、ウィネはヘルミーのこと頼むよ。ミコはオレと一緒に来て万が一逃したやつがいないか見ておいて」
「承知しました」
「任せておけ。ただ、ヒーロがその状態だと我もろくに動けないと思うがな」
ヒーロがラーたちがいるエリアまである程度近づいたとき、ヒーロはこの洞窟全体に力が漏れないように空間を張り自身の力を解放する。
ロリアデラが千里眼で見られなくなったのはヒーロの空間の力が影響していた。ちなみに、ラーの予知ができなかったのもヒーロがラーの未来に影響している部分があったためである。
「くっ……やはりヒーロが力を出すと我でもキツイな。ヘルミー、我の後ろから出るなよ」
「は、はい。ありがとうございます」
ヒーロとミコがエリアに入っていくと、まず2人の目の前にいたのがラーとその部下が倒れている姿だった。そしてこのエリアに作られたあらゆる部屋の魔族や人族が気を失っていた。
ヒーロとミコがあたりを見ながら状況を確認している。
「この部屋の感じと女性の感じを見る限りウィネの言った通りかな。ミコ、男のほうは全員同じ種族か?」
「はい、そのようですね」
「となると、男のほうは消しても良さそうだな」
ヒーロは男の魔族はすべて必要ないと判断したようで、まず1階部分にあたる部屋の中の男の魔族を一気に消滅させた。
「マスター、下の部屋のオスはすべて消えたようなので問題ありません」
「次は2階だな」
1階部分の男の魔族を消したあと、ヒーロとミコが吹き抜けの部分を2階の高さまで浮き同じようにあたりを見渡す。
「あそこで倒れている奴だけちょっと違うな」
「そうですね、周りよりは少しだけ強いですね」
ヒーロとミコはオスヴァーズを見て他の男の魔族とは違うことに気づいたが、2人にとっては「少し」の差だった。
そして、ヒーロが1階と同様オスヴァーズを含むすべての男の魔族を一気に消滅させた。
「ミコ、どう? 隠れてるやつとかいなさそうか?」
「――大丈夫そうです。ニオイもしません」
「よし、これで終わりだな。この部屋全体を生活魔術でキレイにしておくか」
ヒーロは浮いた状態のままこのエリアすべてに生活魔術を使い、このエリアのニオイや女性の体などがキレイになった。
ヒーロが力を解放するのをやめ下に降りたところで、モデウィネとヘルミーが部屋に入ってきた。
「やはりか……だからインキュバスは嫌いなのだ」
「ウィネ、この女の子たちは放っておいていいものか?」
「体のほうは我ではどうにもならんな。ただ、精神的なほうであれば和らげることができるかもな」
「というと?」
「サキュバスもインキュバスも精神に関与することに優れてる魔族だからな。我なら記憶を消すことはできないまでもボンヤリした記憶にするぐらいならできるぞ」
モデウィネは近くの鉄格子の部屋にいる女性のところに行き状態を見るとオスヴァーズの力の影響が残っていることに気づく。
「催眠状態か……我からしたら些細な力だな」
モデウィネがオスヴァーズの力を解除しサキュバスの【精神干渉】を使う。その後も残りの部屋の女性に対して同様の処置を行った。
「ヒーロよ、これで多少はショックが和らぐかもな」
「それは良かったよ。ヘルミーは大丈夫か」
「はい。終わったあとを見ただけですのでなんともありませんわ」
「了解。あとは……この入り口にいる6人の魔族だが」
「一番強いのはラミアだろうな。外で感じた殺気はこいつだろ」
「へぇ、これがラミアか」
ヒーロはラーたちがオスヴァーズたちと敵対していたことぐらいは気配や立ち位置的に容易に想像できていた。
「これ以上面倒ごとに巻き込まれたくないからこのままにしてさっさと帰るか」
「マスター、早く帰りましょう!」
「我も早く帰ってヒーロとまぐわいたいぞ!」
「あ、あのぉ……わたくし豊潤草を探さないといけないんですが」
「よしっ、先に草を探そう。2人は我慢しなさい!」
「「うっ……」」
ヒーロたちはワープホールを使い豊潤草を探していた森に戻っていった。




