閑話 - ベリアダド・ガダド・タナトレスオロバドンダド8世
私はモデウィネ様によってこのダンジョンに生まれました。
「おい! ミノタウロス、お前の名は何という?」
「私は――ベリアダド・ガダド・タナトレスオロバドンダド8世」
「え? ベリア……ん、何と言った?」
「ベリアダド・ガダド・タナトレスオロバドンダド8世です」
「……よしっ、お前のことはダドと呼ぶことにする。ダドにはこのダンジョンの第10層の管理を任せようと思う」
「はい、承知しました」
私は生まれたあとすぐにダンジョンマスターであるモデウィネ様に1つの階層を任されました。
初めてモデウィネ様を見たときは衝撃的でした。この方の強さの底が見えない……ダンジョンマスターとはこんなに強いのかと。
ただ、しばらくして私はすぐにそれが勘違いだと知りました。
「なんなんですか、このダンジョンは……」
そのとき私は10層にある階層主の部屋でビクビク震えながら壁にもたれ掛かっていました。
何かの衝撃が下の階層から響きダンジョン全体を揺らしている、しかもモデウィネ様の力とは異なる2つの巨大な力によって。
これが何なのかがわからない私はモデウィネ様に連絡を取るため、遠隔でも話ができるといういただいた腕輪を使って連絡を取りました。
「モ、モデウィネ様、聞こえますか?」
『ん? どうした?』
「あ、あの……この衝撃はなんなんですか?」
『あぁ、そうかダドは知らんかったな。これはある人族が訓練をしている衝撃だな』
「え? 訓練? 人族が?」
『さきに紹介しておけば良かったな。ちょっと待っていろ』
「は、はい……」
私が部屋で待っているとあの衝撃が収まり、しばらくしてモデウィネ様が人族と魔物を連れて入ってきましたが今度はその人族の姿を見ただけで震えが止まらなくなりました。
「ダド、こいつらがさっきの衝撃の原因だ」
「っ…………」
「おい、ヒーロ、ミコ、力を抑えんか」
「あっ、悪い。ついさっきまでトレーニングをしてたからちょっと高ぶったままでな」
その人族と魔物が力を抑えたためか威圧感もなくなり、私の震えも収まって徐々に落ち着いてきました。
「オレはヒーロ、こっちはミコ。ミコ、声を届くように」
『私はミコと言います』
「わ、私は、ベリアダド・ガダド・タナトレスオロバドンダド8世といいます」
「ん? ベリ……ベリアダド・ガダド・タナトレスオロバドンダド8世?」
「あ、はい」
「おい、ヒーロ、1回で聞き取れたのか」
「ん? まぁ、ギリな。それじゃ、ダドさんで」
「い、いや、さんは不要ですが」
「まぁ、見た目的にさん付けしたくてな」
「は、はぁ? そうなんですか……」
初めてヒーロさんとミコさんにお会いしたときは衝撃を通り越していました、まさかモデウィネ様を超える存在がいるとは。
「あ、あの。モデウィネ様とヒーロさんはどういったご関係で?」
「下僕かな」
「げ、下僕になった覚えはないわ! たしかに逆らえんが……そ、その……と、友達ぐらいには……」
「ははっ、下僕は嘘だけどな。以前にいろいろあって、今では仲良くなってな。で、たまにオレらがウィネのことを鍛えたりもしてる」
「そ、そういうことだ。ヒーロとは仲の良い親密な関係なのだ!」
『なにが親密なんですか。一切見向きもされないくせに』
「この猫がいちいち口を挟まんでよいわ!」
『いま猫と言いましたね。表に出なさい、殺してあげますから』
モデウィネ様とミコさんが部屋の外に出ていかれ……というより、ミコさんがモデウィネ様を無理やり外に出したように見えたんですが。
「ははっ、ダドさん、あいつらのやり取りは放っておいていいよ」
「は、はぁ……」
「せっかくだから、ダドさんがどれくらい戦えるのか試してもいい?」
「え? それは……?」
「オレと試しに戦うか」
「あ、あの100%勝てないんですが」
「オレはダドさんの力が見たいだけで、ほとんど何もしないよ。ダドさんは本気で来てくれたらいいから」
「それでしたら、了解しました」
部屋の中央で私はヒーロさんと向かい合いました。そのときの私は力を出していないヒーロさんと向かい合っただけで押されていました。
中途半端な攻撃など意味がないだろうと思い、初手から私の最高の魔法を使うため背負っていた巨斧ガエボルグ・ケミアゾットを体の前に構え魔法陣を展開します。
「では、いきます! すべてを薙ぎ払え! ミュ「ちょっと待ったぁ!」――えっ!?」
「『えっ!?』じゃないよ、ダドさんって、斧術じゃないの? 魔法使うの?」
「あ、はい。私は魔術師です」
「……その見た目で?」
「あ、はい。自分でもそう思いますが」
「その斧は?」
「このガエボルグ・ケミアゾットを介して魔法を使います」
しばらくの間ヒーロさんが私を見続けていました。
「くくくっ! ダドさんって、おもしろいな」
「おもしろいですか?」
「ダドさんって、見た目通り身体能力も高いでしょ?」
「え? えぇ、おそらくは」
「そんな魔術師いたら厄介でしょ?」
「まぁ、そうですね」
「魔術師が後天的にダドさん並みの身体能力を身につけるのは厳しいと思うけど、ダドさんはすでにそれを身につけていてそこに魔術もある。だから魔術を極めればユニークな存在の出来上がりでしょ」
「ユニークですか? 私は魔術師としてこのままでいいのでしょうか」
「むしろそのままのほうがいいよ、まずは自分の得意なところ伸ばせば。余裕が出来たら魔術師以外の部分鍛えたらいいと思うよ」
実のところ私は悩んでいました。ミノタウロスなのに魔術師で、武器は見た目巨斧というアンバランス。
ガエボルグを振り回すタイプのほうがいいかもと考えたこともあり、ガエボルグを使いこなす訓練もしていました。
ただ、ヒーロさんはそのままでいいと言ってくれました。魔法を伸ばせばいいと。
「ありがとうございます! 私はまず何をすればいいのかハッキリしました」
「それじゃ、さっき使おうとしてたやつやってくれるか」
「では、私の最高の魔法でいきます!」
私はそのときの渾身の気力を込めて最高の魔法でヒーロさんにぶつけようと思いました。傷1つ与えられないかもしれませんがそれがいまの私にできることだと思いました。
「すべてを薙ぎ払え! ミュレ・フローラ」
私はしばらくの間ヒーロさんに魔法を放ち続けました。そして、ことごとく一瞬でヒーロさんに消されました。
「どういう仕組みなんですか……?」
「まぁ、それはおいおい教えるとして。ダドさんは土台がまだまだ鍛えられると思うよ、気力の使い方にも粗さがあったから」
「土台ですか?」
「オレらと一緒にトレーニングする?」
「よろしいのですか?」
「もちろん」
「はい! よろしくお願いします!」
このとき私は今後のことを考えて前向きな気持ちになっていました。実際に訓練が始まるまでは……。
そして現在、私は自分の部屋で花に水をやっています。
この子たちもいい感じで育ってきましたね、おっ、こちらの花は新しいつぼみができていますね。
ドーン……、ドーン……
今日もダンジョンのどこからか音が鳴り響いています。
モデウィネ様とミコさんがやっていますね。ダンジョン全体を使うときはこちらにも余波がくるので勘弁してほしいのですが。
やはり、私の癒しは花だけですね。
ダド「ミュレ・フローラ!」
離れたところでヒーロとウィネが見ている
ヒーロ「『ミュレ・フローラ』ってかわいい名前だよな」
ウィネ「たしかにかわいいな」
ヒーロ「フリフリのスカートを履いた魔法戦士の女の子が使いそう」
ウィネ「なんとなく言いたいことはわかるな」
ダド「(><)」← ミノタウロス