悪趣味なダンジョン
オレはダドさんにヘルミーを任せて、昨日ヘルミーと出会った場所までワープホールで移動した。そして、昨日と同じ感じで走り出して30分ほどが経ったとき、何もなかった平原の右手に何かが見えた。
なんだろ……気になるし見に行くか。ここまで来ていればレトナークには今日中に着くだろう。
何かが見えたところまで歩いていくと、そこには地下への階段があった。
……あぁ、これ今日中にレトナークに着かないような気がしてきた。――とにかく下りるか。
オレは生活魔術の灯りを使いながら階段を下りていく。するとしばらくして
ゴゴゴゴ……
突然上から音がしたので下りてきた階段を見上げると入口が閉じようとしていた。
はぁ……いつでも帰れるからいいけど罠だったのかな。
下りるしか選択肢がないのでそのまま階段を下りていくと行き止まりになった。
どういうこと? もう終わりなのかな……とりあえず壁を調べてみるか。
壁に近づいてスイッチ的なものがないか調べていると今度は床が光りだした。ただ、特に身の危険は感じなかったので様子を見ているとまったく異なる場所が視界に入ってきた。
転移か……どこに飛ばされたんだろうな。
『マ、マスター! 大丈夫ですか!?』
『あぁ、どこかに飛ばされたみたいだな』
『突然マスターのいる場所が変わったので驚きました』
さすがミコ。オレの場所が急に変わったことにすぐ気づくとは。
『オレも驚いてるよ――――正確な場所まではわからないがミコとの距離を考えると相当飛ばされたかもな』
『みたいですね。いかがしますか、私もマスターの場所に向かいますが』
『いや、帰ること自体はすぐにできるから大丈夫。ダンジョンっぽいからどんなところか様子だけ見るよ』
『承知しました。お気を付けください』
ミコとの会話が終わってから、転移してきたところを再度踏んでみたが何も反応しなかったのでどうやらこの転移は一方通行のようだ。
あの階段がダンジョンの入口とかなかなか趣味が悪いな。普通の冒険者とかだと踏破しない限り帰れないでしょ。
目の前には1本の道しかないのでとりあえず進むことにした。
何か宝物とかあればいいけどなぁ、何もないと『カチッ』――えっ!?
オレはどうやら罠のスイッチを踏んだらしく、いきなり床がなくなった。
――まぁ、床がなくなったところで、オレには関係ないんですけどね。気力を操作すれば浮くことぐらいできるし、最悪ワープホールを下に作ればどこかには移動できる。
オレは落とし穴を気にせずそのまま進むことにした。
しかし、ダンジョンらしいダンジョンは初めてだな。ウィネのダンジョンは罠がな『カチッ』――えっ!?
オレはどうやら罠のスイッチをまた踏んだらしく、前からゴゴゴゴという音とともにでっかい岩が転がってきた。
――まぁ、岩が転がってきたところで、オレには関係ないんですけどね。一瞬で消せるし。
オレは岩を消滅させ何もなかったかのようにそのまま進むことにした。
この感じだと宝物が期待できそうな気がし『カチッ』――えっ!?
オレはどうやら罠のスイッチをまたまた踏んだらしく、左右の壁から矢が飛んできた。
――罠はもういいよ!
オレは周辺をすべて消滅させ、学校の体育館ぐらいの広さがそこにできてしまった。
しまった、適当に消滅させてしまった。ダンジョンの意味がない……まぁ、生物の気配とかはなかったから大丈夫かな。
『マ、マスター!? 大丈夫ですか?』
『あぁ、大丈夫、大丈夫』
『突然マスターの消滅の力を感じたので……』
『ちょっと嫌がらせっぽい感じだったので消してしまった』
『それでしたら仕方ありませんね』
本当は仕方なくないんだけど……ミコはオレのこと否定しないからな。
ミコとの会話を終わらせ、進めるところがないか消滅させた空間を浮きながら探すと、1つだけ進めそうな通路があったのでそこから先に進むことにした。その通路はまた1本道だったが罠とかはなく進んだ先に上へあがる階段が出てきた。
……ダンジョンだから上がったり下がったりぐらいはするのか? まさかオレがいるところが最下層とかないよな。
とにかく進むしかなかったのでその階段を上がっていくとちょっと豪華な扉があった。
このエリアの中――気配が探れないな。たしか、ウィネの部屋の扉もそんな感じがしたけどまさかダンジョンマスターの部屋か? となると、逆から来たことになるな。とりあえずちょっとだけ扉を開いてみよ。
オレが少しだけ扉を開くと、中から気配を感じた。
2つか――戦闘中だな。邪魔しちゃ悪いし帰ろうかな。
そんなことを考えていると黒い触手みたいなのが扉をすべて開いてしまった。
「隠れているのはわかっているぞ! なぜそちらから来たのかは知らないがお前も相手してやる!」
「おい、お前! 逃げろ!」
うわー、目の前にザ・異世界みたいなのがいる。気持ち悪い触手がいっぱいある生きものとビキニアーマーでシックスパックのお姉さん。
とりあえず、呼ばれたから中に入るか。
「くくくっ、人族が2人になっ――」
「えっ!?」
オレは喧嘩を売ってきた奴があきらかに不要と判断できたので消滅させた。
「もしかしてさっきのキモイ奴ってダンジョンマスターとかでした?」
「あぁ……そうだが、何をしたんだ?」
「細かくは言えませんが、消しました」
「消した? ――お前がやったのは間違いないだろうな、一瞬だがものすごい圧を感じたぞ」
へぇ、あの一瞬を感じられるということはこの人相当かも。
「オレはヒーロといいます」
「すまない。私は1級の冒険者のアウレーゼだ」
おぉ、1級の冒険者。
「1級の冒険者ですか、すごいですね」
「がはははっ、お世辞はやめてくれ! ヒーロのほうが強いだろ。私はさきほどのやつとあのまま戦っても勝てるかどうかだったぞ」
この人なかなか豪快な人だな。背はオレと同じぐらいだから175ぐらいだけど体の筋肉がすごいな。
「横取りした感じになってすいません」
「いや、いいぞ。一瞬で消したやつに横取りも何もないしな!」
「ところで、ここどこですか?」
「はっ? そういえばヒーロはあちらから来たな?」
「えぇ、オレはレトナークとグーモンスの森の間にあった階段から来たんですが」
「えっ!? なぜそんなところの階段がここに……ここはトホルリッツのダンジョンだぞ」
「それってどこですか?」
「ルベルバック王国の北側だ」
人族大陸の北東あたりの端っこか。それにしても、あのダンジョンマスター悪趣味だな。自分を倒したあとに罠仕掛けといて、しかも最後まったく別のところに転移とか。
「ということは、ダンジョンマスターを倒してオレが来たところを通るとレトナークの南あたりに転移させられる仕掛けになってたみたいですね」
「はははっ、さっきのやつ相当陰湿だな。まぁ、私はヒーロのおかけでそれに引っかからなくて助かったがな」
アウレーゼさんぐらいの実力ならあの程度の罠引っかからないだろうけど…………誰かさんみたいに。
「ところで、ここって何層なんですか?」
「ここは33層だな」
「えっ!? アウレーゼさん1人でここまで来たんですか?」
「いや、この部屋の扉の前にポーターを待たせているぞ」
そりゃそうか、さすがに1人はキツイよな。――それでも1人でボス戦ってするものなのか?
「アウレーゼさんっていつも1人で戦ってるんですか?」
「私はポーターを除けばソロで行動する冒険者だからな」
なるほど、ソロプレイヤーということか。
とにかくここがダンジョンマスターの部屋ってことはもう用はなさそうだし帰るか。
「それじゃ、オレはそろそろ帰ります」
「ん? 報酬はもらわないのか?」
「報酬って? どこにあるんですか?」
「コアに触るともらえるぞ」
そうなのか……なぜか創造神様からもらった知識はダンジョンに関してあまり詳しくないんだよな、世界の調整にはダンジョンは関係してないのかな。
「オレは裏道を使ったみたいなのでアウレーゼさんがもらっていいですよ」
「ダンジョンマスターを倒したのはヒーロだぞ」
「オレはいいですよ。アウレーゼさんはここまで潜ってきたわけですしもらってください」
「そうか……それだったら遠慮なくもらおう」
アウレーゼさんがそう言いダンジョンコアを触るとコアの前にいくつかの報酬が現れた。
報酬は――お金に、防具、あとは黒いハルバードだな。さっきのキモイやつらしく禍々しいハルバードだな、呪われてそう。
「うーん、金と防具はありがたいが、これはちょっと気持ち悪いな」
「ですね。見るからに呪われてそう」
「これは置いていくか……あと、金だがヒーロも半分くらいもらってくれ」
「それでしたらありがたくいただきます」
あのハルバードどうしようかな、ここに置いたままも何か嫌な予感するし、呪われたところでハルバードを消滅させれば大丈夫だろうからもらっとくか。
「このハルバードですがオレがもらいますね」
「ん? あぁ、もちろんいいが大丈夫か?」
オレはそのハルバードを拾い上げると、案の定持っている手に蠢く何かが来る感じがした。
本当にあのダンジョンマスター悪趣味だな。とりあえずここはこのままにして、アウレーゼさんと離れてから対処するか。
「大丈夫そうですね。――アウレーゼさん、オレは来たほうから帰りますが」
「そうか、私はルベルバックのほうに戻らないといけないから転移石でポーターと戻る」
すごいな、転移石持ってるんだ。あれって、たしか日本円だと1000万ぐらいするとかって知識にはあるけど。
「わかりました。また、機会があればお会いしましょう」
「あぁ、次会ったときに改めて礼をさせてくれ!」
アウレーゼさんと別れオレは来たところの扉から階段を下りて、そのままワープホールで平原に戻ってきた。
ずっと持っていたハルバードだが、いまだにオレに何かしようとしていたが大したことはなかったのでそれ以上のことは起きていなかった。
さっそくこのハルバードの中にいるやつを消すためにオレは短剣を出しアースターの力を引き出す、今回も使うのは黒い短剣。それをハルバードに軽く刺し、中にいるやつが飲み込まれるようにイメージする。するとさきほどまでオレの手に感じていた何かがなくなっていった。
よしっ、とりあえずこれで普通のハルバードになったかな……色は禍々しいままだけど。オレの知り合いにハルバード使うやつっていないよな――あっ、ダドさんに渡してみよう。もし使わないんだったら売ればいいだろうし。
オレはミコにも心配かけたのでレトナークに向かわず、いったんウィネのダンジョンの第10層に移動することにした。
『マスター、大丈夫でしたか?』
「ヒーロ! 心配したぞ、ミコから大丈夫とは聞いていたが」
10層にいた4人が心配そうに迎えてくれて、オレは何があったかと問題なかったことを説明した。
いやー、本気で心配してくれるってありがたいな。
『私がいたらそんなやつ切り刻んで生きていることを後悔させます』
「そんな気持ち悪いやつ、同じダンジョンマスターとして恥ずかしいわ!」
ミコとウィネはそんな反応だったが、ヘルミーはアウレーゼさんに興味があったみたいだった。
「あのアウレーゼ様にお会いされたのですね」
「有名なの?」
「えぇ、現在の冒険者では最強と言われております。唯一、魔法剣が使用でき、超級に最も近い冒険者だと聞いておりますわ」
あの人超級に最も近いのか、それに魔法剣とかなんか格好いいな。
「そうそう、ダンジョンの報酬で変な武器もらったけどダドさんいる?」
「え? 私にですか?」
オレはハルバードをインベントリから取り出して見せた。
「おい! なんだその禍々しい色の武器は。そんなもの持って帰るな!」
「オレもそう思ったんだけどな。置いてあると嫌な予感がしたからオレがもらって対処した」
『対処したということは何かあったのですか?』
「この武器の中に何かいたみたい。ただ、オレが消滅させたけどな」
いまはこのハルバード自体に問題がないことを説明しダドさんに渡した。
「うーん、どうやら私とは合わないみたいですね」
「というと?」
「ユニークな武器は相性が合うと武器の詳細が理解できるんですけど、これは私には理解できないですね」
なにそれ、初耳なんですけど。オレも自分の武器…………欲しいと思ったけどいらないな、使う場面がないわ。
「へぇ、詳細が理解できるんだ。オレが持っても何も感じないということはオレも違うのか」
「それに私は魔術師なのでハルバードは使わないですね」
……たしかに! 忘れてたわ。
オレはダドさんからハルバードを返してもらいどうしようか悩んでいた。
「ウィネ、いる?」
「そんな禍々しい武器いらぬわ!」
「あ、あの、わたくしが触ってもよろしいでしょうか」
「それはいいけど重いから触れるだけでいいか?」
「はい。――なぜかその武器に惹かれるものが……」
「「「えっ!?」」」
もしかしてヘルミーってこういうのがお好みなのかな。
「ッ!?」
「おい、大丈夫か?」
「は、はい。少し触れただけですから…………少しだけですがこのハルバードのことがわかりましたわ」
「「「えっ!?」」」
「このハルバード…………杖ですわ」
えぇぇぇぇ! ダドさんの武器と言いこの世界の武器どうなってるんだよ。
「ヘルミーさんがこのハルバードを少し理解できたということはヘルミーさんと相性がいいかもしれませんね」
「でも、触れただけでキツそうだったけど」
「はい、それはヘルミーさんの実力がこの武器に到達できていないからですね」
ヘルミーがこのハルバードを持ってるところ想像するとなんか格好いいな。
「ヘルミー、どうする? もしヘルミーが将来使いたいならオレが預かっておくけど」
「はい! やはり何か惹かれますのでお願いいたしますわ」
「了解。――ちなみに、ヘルミーの好きな色って何?」
「え? ピンク色は好きですわ」
良かった、ありきたりな色で。もし禍々しい黒色とか言われたどうしようかと思ったわ。
ハルバードの持ち主も決まったし、いまからレトナークに行こうかと思ったけど、さっきからミコがずっとくっついた状態でオレの側にいる……。
ま、まぁ、今日はミコにも心配かけたことだし何もせずミコと一緒にいることにしよう。
今回出てきた黒い触手野郎は総合的に超級相当の強さで、アウレーゼだから1人で対応できていた感じです。




